再会はそのあとで。③
◇◇◇
とにかく、ディティアたちがいないとわかった。
彼女たちは、本来俺が走っているであろうあたりを捜して、見つからなければ戻ってくるそうだ。
ヤールウインド……濃い緑の硬い羽をもつ怪鳥は、なにひとつ遮るもののない空をかなりの速さで飛ぶことができる。どんなに遅くとも二週間後には戻るだろう。
「じゃあしばらくは俺たちだけでなんとかしないとなんだな……」
「まあねー。サーディアスがヤバイ奴ってわかった時点では、会長には悪いんだけど、トレージャーハンター協会本部も仲間なんじゃないかって思ってたんだ。だからハルトを本部に行かせるわけにはいかない! ってなってさ」
唸る俺の肩に、ボーザックが軽く拳を当てる。
聞いていたマルレイユは、それは当然だとばかりに頷いた。
「あぁ……そうだったんだ。俺のこと心配して……」
なんとなく照れ臭くて、俺は頬をかく。
「……まあここにいるもんは仕方ねぇさ。むしろ運がよかったかもしれねぇ。もしすれ違いにでもなったらハルト抜きで戦うことになってたはずだからな。災厄と戦うのに、お前の力は必要だ、ハルト。……よし、状況はわかった。災厄が動かねぇうちに首都の魔物の討伐だ。逃げ遅れた奴と怪我人をなんとかしちまうぞ」
グランが立ち上がる。
俺とボーザックはそれぞれ短く返事をして、同じように立ち上がった。
「その前に、白薔薇の皆さん」
マルレイユがぽんと手を打ったのはそのときだ。
「……なんだ?」
座ったままの彼女を、グランが見下ろす。
「町の制圧は協会からの仕事としましょう。あなたたちには私から感謝を……見ず知らずの町のため、ここまでしてくださるなんて」
「あははっ、俺たち、お人好しだからねー」
ボーザックが笑って返すと、マルレイユも微笑んだ。
「ありがとうございます、冒険者よ。……ここは災厄の毒霧が出てくる可能性がありますので、怪我人は中央治安部隊の館で治療しましょう。ここから西、一番大きな建物です。医者を捜しに行かせた者が戻ったら、私たちも怪我人と……毒にやられた彼らを連れて移動します。……勿論、サーディアスも」
「……あ……マルレイユ会長」
俺が思わず一歩踏み出すと、彼女は細い手でそれを制した。
白いローブが、しゅる、と音を立てる。
「わかっておりますよ、逆鱗のハルト。爆風のガイルディアは、私たちが必ず」
俺は安堵のため息を小さく吐き出して、深く頭を下げた。
「……お願い、します」
******
「――ハルトなんか強くなったんじゃない?」
あたりを窺いながら小走りで駆けるあいだ、ボーザックがふふ、と笑う。
五感アップを二重にして、俺たちは町の人や魔物が残っていないかを探った。
災厄の毒霧ヴォルディーノの気配は、今は感じない。
「そうだな、お前しれっとデバフ使ってただろう?」
「……へへ、まだ必ず使えるわけじゃないんだけどな」
「爆風のガイルディアにだいぶ鍛えられたみたいだねー」
注意深く神経を尖らせながら、言葉を交わす。
町はところどころで煙が視界を遮り、炎が揺れていた。
嗅覚も上がっているため、鼻はかなりやられているけど仕方ない。
――どうやらほとんどの魔物はすでに討伐済みのようだ。
空には、濃い緑の翼をはためかせ、ヤールウインドたちがぐるぐると旋回している。
俺は近くになにも感じないのを確かめて、ふたりに声をかけた。
「……なあグラン、ボーザック」
「なんだ?」
「どうかした?」
まじまじと見つめたふたりは、怪我はしていない。
どう見ても、彼らは『元気』で、思い描いていたそのまま。
だから、不思議だった。
「橋から落とされたって聞いたんだ。なにがあったか聞きたいんだけど」
彼らは何度か瞬きをすると、顔を見合わせる。
「……そうか、サーディアスからそうやって聞いたんだな?」
「ああ」
厳つい大男に頷いてみせると、グランは盾を持っていない左手で顎髭を擦った。
今日も、彼の顎髭は綺麗に整えられている。
「そうさなぁ……どこから話したもんか」
「俺たちがサーディアスと一緒に、ユーグルに会いに行こうとしてたのは知ってるんだよね?」
唸るグランに、ボーザックが肩を竦めて言葉を重ねた。
再び頷いた俺に、ボーザックは小さく息を吐き出すと、さらさらと言葉を紡ぎ出した。
本日分の投稿です。
なんというか、身が引き締まるような素敵なご意見を頂戴しました!
感じていただけることがあれば嬉しいなと思います。
皆様、いつもありがとうございます!




