再会はそのあとで。②
「治るのか?」
グランが聞くと、マルレイユはゆっくり頷いた。
「サーディアスは……おそらく嘘はつきません。変なお話ですが……性格上、嘘を嫌うところがあったのは確かです」
「こんなことしたのに?」
ボーザックが驚いた顔で言う。
「はい。うまく説明できませんが……彼が薬は本物だと言っていたことに嘘はないかと。ただ、それにより起こる副作用がある可能性は十分に。嘘ではないけれど、一部を隠すことに長けた人物でしたから」
「副作用……って、どんな」
「あくまで可能性ですから、そこまでは……申し訳ございません。毒に巻かれた治安部隊の方々にも服用させましたが、今はまだ眠っております。ここには医者がおりませんので、既に捜しに行かせました。……逆鱗のハルト。ですから今は、災厄をどうするかを考えましょう」
マルレイユに返されて、俺は言葉に詰まった。
……ヒーラーが治せるのは、怪我など、主に外傷にあたる。
毒でも、例えば体の表面に付着すると激しい炎症を起こすようなものは治癒可能。
俺の治癒活性も、こっちに近いはずだ。
ただ、今回のように体の内側で問題を起こすものや病気は、ヒーラーでは無理だった。
風邪なんかがその最たるものである。
副作用ってのが本当にあるとしたら……そう思うと、心臓を掴まれるようで。
意識して、息を深く深く吸ってから、吐き出す。
微かに、町に満ちる煙の臭いがした。
「……ハルト」
静かに光る紅い眼で俺を真っ直ぐ見つめ、グランが問いかけてくる。
「大丈夫、グラン。……マルレイユ会長の言う通りだよな、今は」
俺が無理やり唇の端っこをつり上げると、彼は眼を細めて、バシンと自分の膝を打った。
「……よし、続きといこう。ハルト、その災厄はどこにいる?」
「広場の穴の中。地下から出てきたらしいんだけど、そこに戻っていったみたいだ。そのあとは動きはないと思う。……もしかしたら災厄の黒龍アドラノードと一緒で、活動のための魔力が足りなくて今は休んでるとかも考えられるんじゃないかな」
「なら、魔力が集まるまでに叩いちゃいたいね」
「そうだな。……口がでかいから、大蛇の魔物のときみたいに体の中から魔法を炸裂させたらどうだろう」
ボーザックに言うと、グランが首を振る。
「その毒が詰まった袋が破裂して拡散するとまずいんじゃねえか?」
「あー……じゃあ先に袋のほうを焼いちゃうとかは?」
「おお、ハルト冴えてるね。でも、凍らせるのとどっちがいいんだろ」
ボーザックが首を傾げるので、俺はふと聞いた。
「ユーグル……ロディウルは? あいつに聞いたら早いんじゃないか? ……あとさ、そろそろ教えてくれよ。ディティアとファルーアは? フェンもいないのか?」
……途端、グランとボーザックの表情が曇る。
「……?」
黙って答えを待っていると、ふたりは視線を交わし、唸った。
「なんだよ、どうかした……のか?」
「……いや、それがな……いねぇんだ、ここに」
グランが、声を絞り出す。
「え?」
俺は、思わずぎゅ、と手を握った。
「……あのね、ハルト……ロディウルたちは、その。言いにくいんだけど……」
「…………」
震えそうになるのを、息を吸うことで堪える。
ボーザックは一呼吸置いてから、意を決したように俺の眼を真っ直ぐ見た。
「ハルトを捜しに行ったんだ」
……。
…………。
「……はあ?」
思わず、変な声が出る。
グランは堪えられなくなったように苦笑して、ボーザックのあとを引き継いだ。
「いや、な? そもそもお前、なんでここにいんだよ。普通の日数で考えりゃ、どう考えてもあと一カ月前後はかかるはずだろ? ここまで。それともなんだ? お前、まさか途中で進路変えてこっちに来たのか?」
「あ、あー……」
確かに一カ月くらい短縮しているのは間違いない。そっか、そりゃ疑問にもなるよなあ。
……他人事みたいにそう思った。
「そうなんだよ! 俺、最初見たとき、幻覚だと思ったしさあ。……でもハルトは本当にハルトっぽいしー? ……い、いひゃい、いひゃいって!」
ボーザックが捲し立てながら俺の頬を引っ張って確かめてきたので、倍返ししてやる。
「俺、ソードラ王国から輸送龍っていうでかい魔物に乗って移動してきたんだよ。トレージャーハンター協会で飼ってるんだけど」
「ええ、そんなのがいるの? マルレイユ会長」
「はい。まだ実装段階にはないのですよ、不屈のボーザック。あなたたちをサーディアスと行かせてしまったあと、逆鱗のハルトから手紙が届いたのです。そこでサーディアスが危険だと知ったので、使う許可を出しました」
「……おお? なんだハルト、お前サーディアスが動いてるってこと知ってやがったのか?」
グランに言われ、俺は頷く。
「ああ、うん。……途中でちょっといろいろあって、それがわかってさ。ソードラでは『災厄の破壊獣』ってのが見つかって……そいつをなんとかしてから、輸送龍に乗って一カ月でここまで来たってわけ」
「ソードラ王国からここまで一カ月って、そりゃすげえな……。まあ、ロディウルの乗ってるヤールウインドに比べりゃ遅いが……」
グランは言いながら、顎鬚を擦って盛大にため息をついた。
「まさかここにいるなんて思わねえからな……ハルトには悪いが、感動の再会は後回しだろうよ」
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