表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逆鱗のハルトⅡ  作者:
203/308

閃くのは誰が剣か。⑥

「どちらが屑か、わからせてあげよう」

ぞっとするほど冷たい声。

サーディアスの合図で、俺を囲む奴らが一斉に飛び掛かってくる。


はっきり言って、こんな人数を相手にできるほど自分が強くないことはわかってる。


俺はただ身を躱すことだけを考えて、立ち回った。


双剣でいなし、身を捻り……もっと速く。避けろ、避けろ、避けろ……!


レイピア、双剣、大盾、大剣、戦斧……次々に繰り出される攻撃に、爆風の姿を重ねる。

――こんなの、ぬるい。

爆風のガイルディアの場合は、もっと、もっと、速く……強い風が、あらゆる方向へと吹き抜けていくのだ。


速度アップをかければマシになるかもしれない。

けど、その場合は、攻撃を受け流すことはできないだろう。

だから、これでやるしかなかった。


「あははっ、逃げるだけではなにもならないよ逆鱗のハルト!」

「……ッ、ぐう……!」

まだ完全に動かすことのできない左腕、その二の腕に、ずどんと痛みが走る。

矢が、防具を掠って突き刺さったのだ。


痺れるような感覚に、歯をくいしばる。

けれど、ここまでで十分だった。

思わず、ギッと結んだはずの口元が緩んだ。


「……なん……っ!」

サーディアスが驚愕の声を上げるのと、血走った眼をした奴らの周りに火柱が突き立つのは、同時。


うまい、と思った。

数人でひと組となって、メイジたちが魔法を操る。


彼らは、炎の壁で血結晶を摂取している奴ひとりひとりを囲み、身動きが取れないようにしたのだ。


……ただひとり、サーディアスを残して。


熱風が頬を撫で、マルレイユがその中で声を轟かせる。

「降参なさい、サーディアス。私はあなたの仲間を焼き尽くすこともいといませんよ」


その言葉に呼応するように、サーディアスへと杖を向けたメイジが二人、武器を構えたトレージャーハンターが三人、彼を取り囲むためにじりじりと近付いていく。


……ところが。


「……ふふ。……はあぁっ!」

「……うっ、おぁ!?」

サーディアスが、俺に向かって『突っ込んで』きたのだ。


ギィンッ……!


受け止めた太い長剣に、左腕が使えない俺は完全に押し負けた。

肉体強化を重ねていてもこれだ、こいつの強さはどこからきているのか、見当もつかない。


ひっくり返る俺の上、サーディアスが刃を鈍く光らせる。


「…………」

降り注いでいた陽の光が陰っていく。

俺はそれを見て、ゆっくり瞬きし、全身の力を抜いて息を吐き出した。

……満身創痍だ。


サーディアスの顔が勝ち誇ったように歪む。

「……撃てまい、マルレイユ会長? 僕の駒など、好きにするがいい!」

「…………」

少し離れた場所で、マルレイユの瞳が悔しそうに揺れる。


けど。

俺は、どんどん暗くなる空を見上げたまま、サーディアスに、ふん、と鼻で笑ってみせた。


「さすが、屑のウルだな。あのさ、ひとつ教えてやるよ。……仲間がいるから、俺たちは強い。仲間がいるから、俺たちはお前に勝てるんだ」

「……はっ、この状況でよくも言えるものだね。起きろ、僕の盾になってもらう」

「馬鹿な奴。――遅いんだよ、お前」

「なに……?」


俺は、右手の上にバフを練り上げた。 


空を覆うのは、『濃い緑』たち。

それが『なに』か、俺は知っている。


――信じていたから。

群れをなすそれの一点から閃く白い大きな剣を見ても、誇らしい気持ちしかなかった。


「――おおおっ! 肉体強化、肉体強化、肉体強化……肉体強化ッ!」


投げたバフが、一直線に向かう。それを受け取った瞬間、そいつは、当然のように笑い声を上げた。 


「あはは! さっすがハルトー!」


その剣は、誰のものか。

たとえ視界が歪んで見えなくとも、ちゃんとわかってる。


「……ッ!」

「はは……ざまあみろ」

眼を見開く、サーディアス。

その下で、目元を強く拭った俺は、もう一度、鼻で笑ってやった。


「たああぁぁ――――ッ!」

「く、くそおぉぉッ!」

サーディアスが、太い長剣を振り上げる。


立ち向かう白い剣が閃くその瞬間、俺は渾身の魔力を練り上げた。



「肉体……弱化ッ!」



ズダアアァァーーンッッ!



振り抜かれた『白い大剣』の一撃に、サーディアスが吹っ飛ぶ。

土煙を上げて転がったサーディアスは、顔をこれでもかというくらい醜く歪ませ、両腕を使って起き上がった。


「なぜだ……なぜだ、なぜだ!」


俺は軽い足取りで着地した小柄な大剣使いが差し出した手を掴む。

「俺、ちょー格好良い登場じゃなかった?」

戯けてみせるそいつは、俺を引き起こすと黒眼を細めてにーっと笑った。

「遅いんだよ、毎回毎回さあ」

「へへ、やっぱ見せ場は作ってあげないとねー、逆鱗のハルト?」

「むしろお前に見せ場を持っていかれたけどな、不屈のボーザック!」


そのまま、拳をがつんと突き合わせる。


サーディアスは忌々しげに立ち上がり、唇が切れるほどに噛み締めた。

「なぜここにいる……お前は、谷底に……!」


「んー、詰めが甘いからだね」

「そうだな、今もそう」

ボーザックと俺が言った瞬間、上空から、それは降ってきた。


「おおおおおっらあああぁぁぁっ!」

「ぐぉふっ……!」


ドガアァンッ!


白い、大きな盾。……豪傑のグランの巨躯を乗せた一撃。

サーディアスは、白眼を剝いて、転がった。




お待たせしました!

彼らの登場です。


いつもありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ