閃くのは誰が剣か。⑥
「どちらが屑か、わからせてあげよう」
ぞっとするほど冷たい声。
サーディアスの合図で、俺を囲む奴らが一斉に飛び掛かってくる。
はっきり言って、こんな人数を相手にできるほど自分が強くないことはわかってる。
俺はただ身を躱すことだけを考えて、立ち回った。
双剣でいなし、身を捻り……もっと速く。避けろ、避けろ、避けろ……!
レイピア、双剣、大盾、大剣、戦斧……次々に繰り出される攻撃に、爆風の姿を重ねる。
――こんなの、ぬるい。
爆風のガイルディアの場合は、もっと、もっと、速く……強い風が、あらゆる方向へと吹き抜けていくのだ。
速度アップをかければマシになるかもしれない。
けど、その場合は、攻撃を受け流すことはできないだろう。
だから、これでやるしかなかった。
「あははっ、逃げるだけではなにもならないよ逆鱗のハルト!」
「……ッ、ぐう……!」
まだ完全に動かすことのできない左腕、その二の腕に、ずどんと痛みが走る。
矢が、防具を掠って突き刺さったのだ。
痺れるような感覚に、歯をくいしばる。
けれど、ここまでで十分だった。
思わず、ギッと結んだはずの口元が緩んだ。
「……なん……っ!」
サーディアスが驚愕の声を上げるのと、血走った眼をした奴らの周りに火柱が突き立つのは、同時。
うまい、と思った。
数人でひと組となって、メイジたちが魔法を操る。
彼らは、炎の壁で血結晶を摂取している奴ひとりひとりを囲み、身動きが取れないようにしたのだ。
……ただひとり、サーディアスを残して。
熱風が頬を撫で、マルレイユがその中で声を轟かせる。
「降参なさい、サーディアス。私はあなたの仲間を焼き尽くすこともいといませんよ」
その言葉に呼応するように、サーディアスへと杖を向けたメイジが二人、武器を構えたトレージャーハンターが三人、彼を取り囲むためにじりじりと近付いていく。
……ところが。
「……ふふ。……はあぁっ!」
「……うっ、おぁ!?」
サーディアスが、俺に向かって『突っ込んで』きたのだ。
ギィンッ……!
受け止めた太い長剣に、左腕が使えない俺は完全に押し負けた。
肉体強化を重ねていてもこれだ、こいつの強さはどこからきているのか、見当もつかない。
ひっくり返る俺の上、サーディアスが刃を鈍く光らせる。
「…………」
降り注いでいた陽の光が陰っていく。
俺はそれを見て、ゆっくり瞬きし、全身の力を抜いて息を吐き出した。
……満身創痍だ。
サーディアスの顔が勝ち誇ったように歪む。
「……撃てまい、マルレイユ会長? 僕の駒など、好きにするがいい!」
「…………」
少し離れた場所で、マルレイユの瞳が悔しそうに揺れる。
けど。
俺は、どんどん暗くなる空を見上げたまま、サーディアスに、ふん、と鼻で笑ってみせた。
「さすが、屑のウルだな。あのさ、ひとつ教えてやるよ。……仲間がいるから、俺たちは強い。仲間がいるから、俺たちはお前に勝てるんだ」
「……はっ、この状況でよくも言えるものだね。起きろ、僕の盾になってもらう」
「馬鹿な奴。――遅いんだよ、お前」
「なに……?」
俺は、右手の上にバフを練り上げた。
空を覆うのは、『濃い緑』たち。
それが『なに』か、俺は知っている。
――信じていたから。
群れをなすそれの一点から閃く白い大きな剣を見ても、誇らしい気持ちしかなかった。
「――おおおっ! 肉体強化、肉体強化、肉体強化……肉体強化ッ!」
投げたバフが、一直線に向かう。それを受け取った瞬間、そいつは、当然のように笑い声を上げた。
「あはは! さっすがハルトー!」
その剣は、誰のものか。
たとえ視界が歪んで見えなくとも、ちゃんとわかってる。
「……ッ!」
「はは……ざまあみろ」
眼を見開く、サーディアス。
その下で、目元を強く拭った俺は、もう一度、鼻で笑ってやった。
「たああぁぁ――――ッ!」
「く、くそおぉぉッ!」
サーディアスが、太い長剣を振り上げる。
立ち向かう白い剣が閃くその瞬間、俺は渾身の魔力を練り上げた。
「肉体……弱化ッ!」
ズダアアァァーーンッッ!
振り抜かれた『白い大剣』の一撃に、サーディアスが吹っ飛ぶ。
土煙を上げて転がったサーディアスは、顔をこれでもかというくらい醜く歪ませ、両腕を使って起き上がった。
「なぜだ……なぜだ、なぜだ!」
俺は軽い足取りで着地した小柄な大剣使いが差し出した手を掴む。
「俺、ちょー格好良い登場じゃなかった?」
戯けてみせるそいつは、俺を引き起こすと黒眼を細めてにーっと笑った。
「遅いんだよ、毎回毎回さあ」
「へへ、やっぱ見せ場は作ってあげないとねー、逆鱗のハルト?」
「むしろお前に見せ場を持っていかれたけどな、不屈のボーザック!」
そのまま、拳をがつんと突き合わせる。
サーディアスは忌々しげに立ち上がり、唇が切れるほどに噛み締めた。
「なぜここにいる……お前は、谷底に……!」
「んー、詰めが甘いからだね」
「そうだな、今もそう」
ボーザックと俺が言った瞬間、上空から、それは降ってきた。
「おおおおおっらあああぁぁぁっ!」
「ぐぉふっ……!」
ドガアァンッ!
白い、大きな盾。……豪傑のグランの巨躯を乗せた一撃。
サーディアスは、白眼を剝いて、転がった。
お待たせしました!
彼らの登場です。
いつもありがとうございます!




