閃くのは誰の剣か。⑤
「……、治癒、活性ッ」
俺は肉体強化を上書きして、視線を走らせる。
血結晶の粉を摂取しているらしい奴らは八人。
俺を取り囲むそいつらの武器は様々だけど、メイジはいなそうだ。
なんとかできるのか? 俺だけで。
……いや、弱気になるな、なんとかするんだ、俺が!
デバフはここぞってときに残しておくつもりだった。
マルレイユたちがサーディアスに仕掛ける、そのときが勝負だと思っている。
じわじわと傷が塞がっていくけど、まだ血は溢れてくる。
熱をもって激しく痛む傷を押さえる右手が血ですべり、俺は双剣を握り直した。
「あはははっ、さあどうする逆鱗のハルト? ゆっくり痛めつけたら、マルレイユ会長は出てきてくれるだろうね」
「……お前は、どうして災厄を起こした?」
「おや、そんなこと聞いてどうするんだい?」
「お前をぶっ倒す、それは変わらないだろうな」
鼻で笑ってやると、サーディアスはつ、と片眉を上げた。
「倒す……? この状態でよく言えるね」
よほど気に触ったらしく、サーディアスの切っ先が俺に向けられる。
瞬間、俺の左側にいたレイピアの男が突っ込んできた。
「……このっ!」
右の双剣でレイピアを跳ね上げると同時に右足で踏み込み、そのまま右足を軸にぐるりと回し蹴りをかましてやる。
レイピアの男の腹を蹴り抜いたが……伝わる感触は、肉体硬化を重ねたようだった。
全くダメージになってない。
「くそ……」
思わず、悪態がこぼれる。
「左腕が使えないでどこまでやれるかな。……ほら!」
サーディアスの声に、また次の奴……今度は大盾使いが。
振り抜かれる四角い盾を避けると、その先にいた双剣使いが一気に肉迫し刃を振るってくる……速いッ!
「舐めんなッ、五感アップ!」
……ゴッ!
しかし、反応速度と速度を上げた俺には『見えて』いる。
身を捻り刃を躱して、バフを投げたその顔に一撃叩き込んでやった。
どうやらこっちは肉体硬化にはなっていなかったようで、踏鞴を踏んで、膝を付く。
鼻血が噴き出し、忌々しいものでも見るかのような眼で俺を見上げる双剣使い。
……強化状態じゃなければ、卒倒するほどの痛みのはずだ。
サーディアスは一旦剣を降ろすと、楽しそうに声をあげる。
「ははっ、面白い……! バフにはそんな使い方もあるのだね。……ご褒美にひとつ教えてあげよう。僕はドゥールトラーテ……この地の楽園を蘇らせたいのさ」
「楽園……?」
ドゥールトラーテとは、シエリアを暗殺するために動いている奴らの合言葉。
今まで聞いた人たちにはそれを知るものはいなかったけど、アイシャで災厄の黒龍となった『ドリアド』が、似たようなことを言っていたのを、嫌でも思い出す。
「……古代の魔法都市国家……か」
呟くと、サーディアスが唇の端をつり上げた。
「察しがいいね、逆鱗のハルト。……僕はそこでウルとして君臨するのさ。そのために強い奴らは生かして、楽園を守らせてやろうとしていたわけだが、白薔薇は駄目だ。話にならない」
「……はっ、こっちから願い下げだ、シエリアを暗殺しようとしてるんだろ? お前みたいな胸糞悪い王なんかいらない」
きっぱりと言い切った俺に、サーディアスは少しだけ眼を見開いた。
「シエリア……そういえば咎人のウルが知り合いだったね。ははっ、これは傑作だ」
……災厄は既に目覚めていた。
俺が見ただけでも、災厄の破壊獣、災厄の毒霧がいる。
咎人のウルが生贄になることで目覚めさせるわけではないのかもしれない。
「咎人のウルは、存在してはいけないんだよ、逆鱗のハルト。あれらがいたせいで、ドゥールトラーテは崩壊した。その血がまだ継がれているとなれば、排除せねばならない」
「……どういう意味だ?」
「そのままさ。咎人のウルが創った毒によって、僕たちのような優秀な血が途絶える寸前まで追い込まれている」
「……毒と、血……?」
サーディアスは馬鹿にしたような嘲笑を浮かべて、肩を竦めた。
「なにかを知ったところで、君はついえる身だろう? そろそろ、仲間のもとに行くといい。たっぷり痛い思いをしてからな」
左腕の傷は、塞がりきってはいない。
それでも、動かせるほどには回復しているようだ。
サーディアスが自分の話をしたがる傾向にあったのは正直助かった。
時間はかなり稼げたはず。
あとはマルレイユたち、トレージャーハンターの攻撃に合わせ、こいつを倒すだけ。
そして、彼女たちは既に『準備万端』だった。
サーディアスの後方、人影が見える。
「反応速度アップ、速度アップ、肉体強化、肉体強化ッ」
俺はわざと大きく声を出してバフを練り上げ、自分のバフを上書きし、双剣をしっかりと構えなおした。
これで、サーディアスと俺を取り囲む奴らの注意を引くには十分。
「相手してやるよ、バッファー舐めるな! 屑のウル!」
いつもありがとうございます。
本日早めの投稿です。
感想、評価、ブックマークなどなど、いつもありがとうございます。
よろしくお願い致します。




