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逆鱗のハルトⅡ  作者:
2/308

海は広いです。②

******


それから10日。

前途多難に思えた船旅は順調なように見えた。


薬草とバフでそれなりに動けるようになったボーザックは、少しでも身体を動かしておきたいと船乗り達の甲板での作業を手伝って、グランは外がいいからと甲板で筋トレする日々。

ディティア、ファルーアも身体が鈍らないよう毎日何かしていたし、フェンに至ってはいつの間にか商船の皆から甘やかされる存在になっている。


「お前……すごいなぁ、フェン」

船室で、山となった施しを前に誇らしげにしている銀狼に声をかけると、馬鹿にしたような視線が返ってきた。

「ふっすぅ」

「……かわいくない奴!」

言いながら、俺はバフを手のひらの上で広げる練習を始める。


船に乗ってから、身体を鍛えるのと、バフを練習するのは交互にやってるんだ。

昨日はグランに頼んで模擬戦みたいなものを徹底的にやってもらったから、今日はバフってわけ。


俺の先生的な存在の、重複のカナタさん考案の新しい弱体化バフ……言うなればデバフの載った本は、今の俺にはまだ早かったんだよな。

やってみたんだけど、強化よりも弱体化のバフを練り上げることの方がはるかに難しかったんだ。

成る程、今までデバフを使うバッファーがいなかったのも頷ける。


感覚的なことなんだけど、皮膚を硬くする!とかはイメージ出来るのに、軟らかくする!ってイメージが上手くいかないんだよな……。


まあ、そもそもバッファーは数が少ないんだけどさ。


通常、バフは2個目をかけると1個目に上書きしてしまうので、強化できることは限定的な上に、無くても戦えるのだからその微妙な立ち位置たるや情けない限りだ。


効果時間もそう長くなく、バフを使えても、前衛やメイジ等、他の職を名乗って戦う奴等の方が圧倒的に多い。


敢えてバッファーを名乗るのは、自分があまり強くないから後ろで強化に徹するか、使えるバフの種類が多いか、だいたいはこの2種類だろう。


そんな中、俺はちょっと特殊で。

バフを重ねることが出来たんだ。

だから、バッファーを名乗り、仲間や自分に強化魔法をかけて、自分も戦っているのである。


魔物にも直接食べさせることでバフが有効なこともわかって、これからはもしかしてバッファーが増えるんじゃないかなーなんて、秘かに期待してるんだけどさ。


「さて……よし、今日はこれでいこう」

俺は、あれこれバッファーに想いを馳せるのをやめて、手の上にバフを広げた。


使えるバフを何度も使って、強化の感覚をよりはっきり身に付けること……それが、デバフを修得するための特訓だって、カナタさんからの本に記載されていたんだ。


さすが重複のカナタさん。

俺が躓くことも、先読みされていたらしい。



「五感アップ」



広げたのは、船に乗ってから初めて使った、五感を高めるバフだったんだけど。

俺は瞬間的に、椅子から立ち上がっていた。



「……え」

何となく、いつもと感覚が違う。

俺は辺りを見回した。


何だろう、いつもなら、人の気配みたいなものは結構はっきり感じるんだけど。


それが、ぼやけているような気がするんだ。


「何だ?……五感アップ」


思わず、もう一回重ねる。

すると、気配は全体的に濃密なものになって、ふと、この感覚を『感じたことがある』ことに思い当たってしまった。


ゾワァッ


身体中のうぶ毛が逆立つ。


ドッ、ドッ、と、心臓が激しく脈打った。


「嘘、だろ」


気配はぼやけているわけじゃない。

『大きすぎる』のだ。


大規模討伐依頼で倒した、巨軀の黒い龍の姿が、否応なしに頭の中に描かれる。


あいつの気配も、こんな……まるで気配そのものの腹の中にいるみたいな、強烈なものだった。


「わふ」

俺の様子に気付いたフェンが、足元に寄ってきてくれる。

ひとりじゃないことが、心強い。

船の下の、巨大で濃密なその気配に、俺はともすれば震えそうな足を踏ん張った。


「フェン、皆を集める。手伝ってくれ」

「がうっ」



本日2話目です。

4話までいきます!


よろしくお願いします。

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