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逆鱗のハルトⅡ  作者:
196/308

思惑の影には。⑧

状況を聞くと、地響きとともに突然出てきた魔物を討伐するため、彼らはすぐに集まってきたんだそう。


ただし見たとおり全く歯が立っていなく、魔物がゆっくりと脚を持ち上げて歩き出そうとするのを、治安部隊が回り込んでけん制し、魔物が止まるっていうのを繰り返していたようだ。


今いるのは広場になった場所で、魔物の近くには大穴が開いていた。

整備された道が陥没し、今や魔法で黒焦げになった植物がぶすぶすと燻っている。


向こう側にはトレージャーハンター協会の看板が見えるけど、どういうわけかここにいるのは青い制服の治安部隊だけ。


まさか、戦闘専門のトレージャーハンターはいないとか? いや、そんなわけないよな。

小さな黒い魔物たちを討伐しているのだろうか。

町中からあがる煙は、小さな黒い魔物が起こしたものだろうし。


ちょうど昼過ぎだし、火を使っていた店なんかはたまったもんじゃなかったはずだ。


爆風は黙ってもぐら型の魔物を眺めていたけど、やがてつま先を地面にとんとんと打ち付けてから、双剣をくるりと回した。


「鼻先、爪の間、尻尾のような部分と……腹だな。とりあえずそこを突いてみよう」

「爪、毒があるって言ってたぞ」

「触れなければどうということはないだろう?」

「ああ……そう」

俺は首を竦め、爆風にまだバフがかかっているのを確認して、もうひとつ投げた。

言うからにはできるんだろうけど……思わず呆れる。


「肉体強化! ……駄目なら腕力アップに切り替えてみる」

これでバフは肉体強化が三重に肉体硬化が足されて四重。

どうにかして剛毛を強行突破したいところである。


「いいだろう。……ふっ」

爆風が短く息を吐いて走り出した。

俺は自分も双剣を構えながら、少し離れた位置で魔物の様子を探る。


考えてみたら、もぐらに似ているわけだから……眼が退化してるんじゃないか?

俺たちの位置が見えているのか、それともなにか違う方法で位置を認識しているのか……それがわかればいいと思った。

眼があればそこは柔らかいかもしれないしな。


爆風はまず後ろに回り込み、尻尾を突くことにしたらしい。

魔物は短めの太い脚が俺の胸くらいまであって、体は俺が見上げるほどもあった。

尻尾はその先端にちょこんと……まあそれでも俺と同じくらいの長さはありそうだけど……飛び出している。

毛は生えているけど、薄い可能性はありそうだな。


どうやって狙うのかと思ったけど、なんのことはない。


爆風は双剣をいったん収めると魔物に飛びつき、その剛毛を掴んですいすいと登っていった。


肉体強化バフが重ねてあるし、確かに楽にはなっているのかもしれないけど……驚異的な速さである。

俺でも登れるかもしれないけど……ぴったり付いていくことはできないだろう。


「……おお」

杖を構えていた治安部隊の男が、感嘆の声をこぼす。


俺は苦笑して、爆風が尻尾を突くのを見守った。

やがて、爆風が双剣を二度、振るう。


尻尾はその反動で大きく跳ねたが……それだけ。

魔物は体を大きく動かすことはない。


「逆鱗、腕力アップとやらに変えてもらってもいいか」

「わかった。腕力アップ、腕力アップ、腕力アップ、もういっちょ、腕力アップ!」

魔物の上から爆風が言ってきたので、俺は迷わず四個全てを腕力アップに書き換えた。

「よし、ではいくぞ」


爆風がもう一度双剣を振り上げて、刃が閃く。


ズバァン!


「やった!」

尻尾の根本を、爆風の双剣が半分ほど切り裂いた。

俺が思わず拳を振り上げたところで、治安部隊からも歓声があがる。


ところが、予想外のことが起こった。

鳴き声らしいものすら聞こえないけど、よほど痛かったのだろう。

魔物が後ろ脚でゆらりと立ち上がったのである。


「爆風!」

「心配はいらん」


彼は颯爽と飛び降りて、こっちに戻ってきた。


「もう一撃で斬り落とせそうだ。……む」

爆風が身構える。


俺は魔物の動きに、息を呑んだ。


顔と思しき場所、その口が上下に開いていく。

開いていくが、それが異常だった。


体の真ん中ほどまでが、巨大な、巨大な口だったのである!


「う、うあ……」

思わず、身を引く。


口の中は紫色でぬらぬらと光っていた。

びっしりと並ぶのは、例えるならイボだ。


そして、そのイボが一斉に震えたかと思った、瞬間――。


ボシュワアアアアァッ!


紫色の、霧のようなものが。

一気に放出され、ものすごい勢いで広がって。



「逆鱗ッ、跳べ――!」



硬直していた俺は突如、首根っこを引っ掴まれ、遠くへとぶん投げられた。

そうしたのはもちろん、腕力アップで強化された、爆風のガイルディア、その人だ。


「……っ、爆……うぐっ……」


地面を転がった俺の視線の先。

紫色の霧が、彼を、治安部隊を、あっという間に呑み込んでいく。


「あ……あぁ」

――俺は、その様を、茫然と見ていた。



本日は投稿できました、皆様いかがお過ごしでしょうか。

いつもありがとうございます!

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