思惑の影には。⑤
◇◇◇
次から次へと飛び掛かってくる魔物。
さすがに息が上がってきたころ、思い切り腕に噛みつかれ、俺は顔を歪めた。
「……ぐっ」
咄嗟に反対の手に握っていた双剣で突き刺し、次に飛び掛かってくる魔物を噛まれた方の腕で殴り飛ばす。
肉体硬化がかかっているとはいえ、魔物の口には小さいながらも鋭い牙がずらりと並んでいるので、皮膚が裂けていて血が飛び散った。
大丈夫。痛みはあるけど、この程度ならまだ動けるな。
心の中で呟いて、歯を食いしばる。
息が切れて呼吸が荒いのをなんとか整え、飛び掛かろうと様子を見ている魔物をけん制した。
「……にしても、数が、多すぎるな、やっぱ」
かなりの数を仕留めたはずなのに、まだ俺と輸送龍を囲むのに十分な数の魔物がひしめいている。
持久力アップも足すべきかと考えたとき、幾重にもなった魔物の向こう側で、爆風が高く跳ねるのが見えた。
「ハアアァァッ!」
荒れ狂う風は、疲れってもんを知らないのかもしれない。
白と黒の双剣が閃いて、爆風のガイルディアに飛び掛かった魔物が一斉に屠られる。
しばらくぶりの大きな戦闘だけど、その尋常じゃない強さには衰えのひとつも見えなかった。
「肉体硬化、肉体強化、脚力アップ!」
俺はバフを広げてかけなおし、肩で息をして、吹き荒れる爆風へと声をかける。
「持久力、は、必要か?」
「なんだ逆鱗、息があがっているぞ! とはいえ減った気がしないのは確かだ。分裂するような魔物ではなさそうなのは助かるな。どこかで見切りをつけて一気に魔法で仕留められればいいんだが、それがなければ持久力も上げてもらわねばならん」
軽口で飄々と返してくるあたり、やっぱり疲れなんてまだ感じてないんだろうな。
俺は双剣を振るって一気に三匹を仕留め、息を大きく吸う。
首都自体は、まだ煙をもうもうと吐き出し続けている。
逃げ惑う人がかなりの数いるだろうことは容易に想像できる。
――爆風の望むとおりにこちらに増援が来ることはまずないはずだ。
「残念だけど、援護は、ないだろう……なっ!」
飛び掛かってくる魔物を蹴り飛ばす。
足もかなり疲れてきていて、少し蹴りの威力が落ちていた。
このままじゃ無理だ……。
「持久力アップ!」
かといって、弱音を吐いてもどうしようもないからな。
俺は持久力アップバフを広げて、自分を鼓舞した。
「くっそ……かかってこい! 殲滅してやる!」
******
恐らく、かなり長い時間を戦っていただろう。
ようやく、目に見えて魔物の数が減ったのが実感できるようになったころ、それは突然起こった。
『キキイッ』
『キーッ』
けたたましく鳴きだした魔物たちが、突然俺のことが見えなくなったかのようにこっちに背を向ける。
「な、なんだ?」
思わず呟くくらいの気力は残っていたけど、血が滴る傷が腕にも足にもかなりできていて、満身創痍だ。
急におかしいとは思ったけど、今ここで逃がすわけにはいかない。
問答無用で一匹を切り払い、俺はすぐに周りを確認した。
ところが、やはりほかの奴等も俺に見向きもせず……。
『キィーーッ』
今度はいきなり首都の方へと走り出したのである。
「え、ちょ、なんだよ!」
「む……」
黒い波は一斉に走りだし、俺と輸送龍、爆風が残される。
爆風は俺の横まで戻ってくると、去っていこうとする魔物たちを見て唸った。
「怯え……いや、あれはなにかに呼ばれたのかもしれん。これだけの数が同時に動くんだ、もっと強い魔物が統率している可能性はある」
「統率……」
その瞬間を計ったかのように大きな爆発が首都で起こった。
炎が空へと走り、散るのと同時に、大きな雲のような煙が新たに広がる。
ドオオオオオオオン……ッ!
続いて、腹の底まで響くような爆発音。
そうか、首都でも誰かが戦っているのかもしれない。
俺はその考えに思い当り、頭を振る。
「行かなくちゃ……戦闘専門のトレージャーハンターもいるかもしれないし。協力できれば……!」
「そうだな、お前の言うとおりだ。だからまずは、応急処置をすませろ逆鱗。見たところ、結構な傷もあるぞ」
「……見た目よりは深くないよ。でも、そうだな、処置はする」
素直に頷いて見せると、爆風は眼を細めて、俺の肩をばしりと叩いた。
「自分の状況を冷静に判断し、自分の命に責任を持つものが人を守ることができる。……いい心掛けだ」
本日分の投稿です。
よろしくお願いします!
GWの更新が難しければ活動報告にあげるつもりですが、今のところは順調そうです。




