表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逆鱗のハルトⅡ  作者:
193/308

思惑の影には。⑤


◇◇◇


次から次へと飛び掛かってくる魔物。

さすがに息が上がってきたころ、思い切り腕に噛みつかれ、俺は顔を歪めた。

「……ぐっ」

咄嗟に反対の手に握っていた双剣で突き刺し、次に飛び掛かってくる魔物を噛まれた方の腕で殴り飛ばす。


肉体硬化がかかっているとはいえ、魔物の口には小さいながらも鋭い牙がずらりと並んでいるので、皮膚が裂けていて血が飛び散った。


大丈夫。痛みはあるけど、この程度ならまだ動けるな。

心の中で呟いて、歯を食いしばる。

息が切れて呼吸が荒いのをなんとか整え、飛び掛かろうと様子を見ている魔物をけん制した。


「……にしても、数が、多すぎるな、やっぱ」

かなりの数を仕留めたはずなのに、まだ俺と輸送龍を囲むのに十分な数の魔物がひしめいている。


持久力アップも足すべきかと考えたとき、幾重にもなった魔物の向こう側で、爆風が高く跳ねるのが見えた。


「ハアアァァッ!」


荒れ狂う風は、疲れってもんを知らないのかもしれない。

白と黒の双剣が閃いて、爆風のガイルディアに飛び掛かった魔物が一斉に屠られる。


しばらくぶりの大きな戦闘だけど、その尋常じゃない強さには衰えのひとつも見えなかった。


「肉体硬化、肉体強化、脚力アップ!」

俺はバフを広げてかけなおし、肩で息をして、吹き荒れる爆風へと声をかける。


「持久力、は、必要か?」

「なんだ逆鱗、息があがっているぞ! とはいえ減った気がしないのは確かだ。分裂するような魔物ではなさそうなのは助かるな。どこかで見切りをつけて一気に魔法で仕留められればいいんだが、それがなければ持久力も上げてもらわねばならん」

軽口で飄々と返してくるあたり、やっぱり疲れなんてまだ感じてないんだろうな。


俺は双剣を振るって一気に三匹を仕留め、息を大きく吸う。


首都自体は、まだ煙をもうもうと吐き出し続けている。

逃げ惑う人がかなりの数いるだろうことは容易に想像できる。

――爆風の望むとおりにこちらに増援が来ることはまずないはずだ。


「残念だけど、援護は、ないだろう……なっ!」

飛び掛かってくる魔物を蹴り飛ばす。


足もかなり疲れてきていて、少し蹴りの威力が落ちていた。

このままじゃ無理だ……。


「持久力アップ!」


かといって、弱音を吐いてもどうしようもないからな。

俺は持久力アップバフを広げて、自分を鼓舞した。


「くっそ……かかってこい! 殲滅してやる!」


******


恐らく、かなり長い時間を戦っていただろう。

ようやく、目に見えて魔物の数が減ったのが実感できるようになったころ、それは突然起こった。


『キキイッ』

『キーッ』


けたたましく鳴きだした魔物たちが、突然俺のことが見えなくなったかのようにこっちに背を向ける。


「な、なんだ?」

思わず呟くくらいの気力は残っていたけど、血が滴る傷が腕にも足にもかなりできていて、満身創痍だ。


急におかしいとは思ったけど、今ここで逃がすわけにはいかない。

問答無用で一匹を切り払い、俺はすぐに周りを確認した。


ところが、やはりほかの奴等も俺に見向きもせず……。


『キィーーッ』


今度はいきなり首都の方へと走り出したのである。


「え、ちょ、なんだよ!」

「む……」

黒い波は一斉に走りだし、俺と輸送龍、爆風が残される。


爆風は俺の横まで戻ってくると、去っていこうとする魔物たちを見て唸った。

「怯え……いや、あれはなにかに呼ばれたのかもしれん。これだけの数が同時に動くんだ、もっと強い魔物が統率している可能性はある」

「統率……」


その瞬間を計ったかのように大きな爆発が首都で起こった。

炎が空へと走り、散るのと同時に、大きな雲のような煙が新たに広がる。


ドオオオオオオオン……ッ!


続いて、腹の底まで響くような爆発音。


そうか、首都でも誰かが戦っているのかもしれない。

俺はその考えに思い当り、頭を振る。


「行かなくちゃ……戦闘専門のトレージャーハンターもいるかもしれないし。協力できれば……!」

「そうだな、お前の言うとおりだ。だからまずは、応急処置をすませろ逆鱗。見たところ、結構な傷もあるぞ」

「……見た目よりは深くないよ。でも、そうだな、処置はする」

素直に頷いて見せると、爆風は眼を細めて、俺の肩をばしりと叩いた。


「自分の状況を冷静に判断し、自分の命に責任を持つものが人を守ることができる。……いい心掛けだ」


本日分の投稿です。

よろしくお願いします!

GWの更新が難しければ活動報告にあげるつもりですが、今のところは順調そうです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ