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逆鱗のハルトⅡ  作者:
192/308

思惑の影には。④


『ピュウイッ!』

嘶く輸送龍に人々が悲鳴をあげたけど、俺たちが乗っていることに気付いた彼らは一転して助けを求めてきた。


「助けてくれ!」

「魔物に追われてるの……!」


山と続いて見える人の波からは、怒号と悲鳴が飛び交う。

その後ろには小さな黒い魔物が何体も何体も見える。……ものすごい数だ。


一匹に飛び掛かられて体勢を崩したが最期、群がる魔物たちに飲み込まれてしまう。


俺は輸送龍が切り裂く風の中、必死に手綱を握り締めて眼を細めた。


子供程度の大きさと形で、見たことのない魔物だ。

……赤ん坊のような容姿で頭は大きめ。手足の先は指が三本で、耳は広葉樹の葉のような、楕円を尖らせた形をしている。

眼だけが紅く光っていて、瞬きがまるで点滅のように見えた。

それがなん十……もしかしたらなん百も群れてるのだから、点滅する赤い光も広範囲に渡っていて、ぞっとする。


俺たちは人の波が自動的に割れていく間を駆け抜け、黒いうねりへと突っ込んだ。


今はとにかく、こいつらを少しでも引き付け、討伐し、逃げる人々を救わなくてはならない。


『ルグァウウウ!』

輸送龍が突然、聞いたことがない低い声を発して跳び上がったのはその時だ。


「うっおぉわ!」

思わず手綱をギュッと握り、体勢を整える。


そのまま何匹かの魔物を踏み付け、輸送龍は首を大きく振りながら牙を剥いた。


『キーーッ!』

『グァルウッ』

甲高い金切り声を発する魔物を、輸送龍は噛んでは捨て、噛んでは捨てる。


いや、わかってはいたけど……赤ん坊と小山ほどの大きさの差があるのだ。

輸送龍の強さときたら……凄まじい。


草食獣である輸送龍の歯は、尖っているよりはすり潰せるような形のはずで、おそらく噛まれた魔物は骨を砕かれ、肉を潰されているような感じだろう。

次々と沈黙する魔物たちに、輸送龍は鼻息を荒げ、嘶いた。


『グアォォルル!』


魔物も負けじと輸送龍の脚に噛み付き、よじ登るけど、硬い鱗に覆われた体、激しい足踏みと跳躍、果ては俺と爆風の攻撃で次々と転がり落ちていく。


「一体一体の攻撃力はそれほどでもないようだ。しかしこの数となると厄介だな」

爆風はそう言うと、大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出していく。


集中するときに、ディティアもよくやってたな、と場違いなことを思う。

ぎゅ、と心臓を掴まれたような感覚に、情けないけど……震えてしまった。


「……逆鱗。降りるからバフを頼めるか」

「この数の中で戦うつもりか?」

驚いて答えると、爆風は歯を見せてにっと笑う。

「当たり前だ。俺は爆風、乱戦で吹き荒れるのも悪くない」

「ええ……そういうもんか? ……とにかく、わかった。肉体硬化、肉体強化、脚力アップ」

俺は思いついたバフを広げる。

爆風の軽口に、少し、気持ちが落ち着いた。


……もしかして気遣われたのかな。

思い当って、俺はふっと息を吐いた。自嘲も混ざっていたかもしれない。


ここで俺がやらなきゃ、なんのために来たんだよ!


「硬化が足りなかったらすぐかける。いざとなったら脚力アップで蹴散らせるはず」

「うん、いい選択だ。よし、では行くとするか。逆鱗、お前は……」

「俺も行く」

「……なに?」

「俺も行く。戦う。……無理はしないから、ちょっと任せてみてくれ爆風のガイルディア」

「はっ、言うな若者! いいだろう、やってみせろ、逆鱗のハルト」


俺が拳を出すと、爆風は思いのほか強い力でガツンとやって、踏み切った。


「ここまでありがとな! 俺も戦うぞ、後ろは頼んだからな」

輸送龍に言うと、今度こそ任せろと言わんばかりの鼻息が返ってくる。


俺は爆風を真似て、輸送龍から跳んだ。


「おおおッ!」

振りかざした双剣で、着地と同時に一匹。

後ろから飛び掛かってくる奴を振り向きざまに一閃、そのままの勢いで今度は蹴りで周りの奴等をけん制する。


『キィーッ!』

『ギャッ』

それでも近寄ろうとした一匹とそのそばにいた奴を、輸送龍の尾が一気に薙ぎ払う。


いい援護攻撃だ。

俺は輸送龍ににやりとしてみせると、ふたたび双剣を振るう。


……大丈夫、俺でも十分相手できる。


例えば豪傑のグランがいたら、大盾でこいつらをまとめてぶん殴っていただろう。

例えば不屈のボーザックがいたら、振り抜いた大剣がこいつらをまっぷたつにしたはずだ。

例えば光炎のファルーアがいたら、こいつらは一瞬で消し炭になって。

例えば銀風のフェンがいたら、魔物は恐れ慄く。


……そして、疾風のディティアがいたら、ここは彼女が踊るための舞台だ。


「おおおおおッ!」

皆と……ディティアと肩を並べる、そのために。強くなるために、ここにいる。


俺は脚力アップバフで踏み切りのあまさを補助し、ときには噛み付こうとする魔物をそのまま蹴り抜いた。



少し遅くなってしまいましたが27日分です。

GWの投稿については別途活動報告で行います!


さすが逆鱗さん「さすげき!」と、さすがハルトで「さすハル!」

素敵な感想をありがとうございます!


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