輸送は慎重に。③
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翌日の昼前には目的の村に到着。
馬屋が言っていた通り、快適な馬上旅だった。
……まあ、この快適な馬をちゃんと選ばせたのは爆風なんだけどな。
走り方が優しいのか、体にかかる負担も少なかった気がする。
そんなわけで、その優秀な馬を宿の馬小屋に繋ぎ、俺たちはさらに奥へと歩を進めた。
……村は一軒ごとの敷地が広く、畑や家畜を育てる放牧場が住居に隣接している造りみたいだ。
しばらく行くと、大きな囲いが見えてくる。
宿の主から、村の外れにある木製の囲いの中に輸送龍がいるって聞いんだけど……間違いなくあれだろうな。
うん、すごいんだよ、これが。
俺より太い丸太が、数カ所を紐でしっかりと括られて壁のように連なり、ずんずんと隙間なく突き立っていたのである。
ご丁寧に、立てられた看板には『輸送龍がいます。危険』と、書かれていた。
……そんなに凶暴なのか? 輸送龍って。
囲いは俺の背よりも高く、中を見ることは出来ないため、ちょっと不安になった。
中からは特に鳴き声がするわけでもなく静かなんだけど……大丈夫かな。
「失礼、誰かいないか」
爆風が囲いの外から声をかけるけど、返事はない。
「昼休みとか?」
「どうだろうな。聞こえないってことはないと思うが」
「……おーい! 輸送龍を借りにきたんだけど!」
念のためもう一度呼んでみるけど、やっぱり反応はなかった。
俺は首を傾げ、囲いの途中に作られた扉を叩いてみる。
「誰かいないのかー?」
……すると、後ろから声がした。
「ああ、あんたたち、トレイユ支部長から連絡があった冒険者か」
振り返ると、ええと……女……? の人が、立っている。
短い落ち着いた色の茶髪に、きりりとした同じような色の眼。
中性的に見える顔立ちで、かつ少し頬が痩け、輪郭がはっきりしていた。
肘あたりまでのシャツからはよく焼けた小麦色の肌が覗き、大きな桶を抱えている……それなりに鍛えられているようだ。
たぶん、中性的に見えるのは顔立ちだけじゃなく、体付きもあるだろう。
おそらくは俺より上、三十から四十代に感じた。
「そうだ。君が輸送龍の飼育をしているのかな」
爆風がいつもの紳士的な雰囲気を滲ませて言うと、彼女は頷いてこっちに来た。
背は俺よりは低いけど、女性にしては高い方だろう。
ふと見えた大きな桶の中は、たくさんの野菜が入っている。
……なにに使うんだろ。
「……ああ、これ、輸送龍の餌。奴等は草食だから」
視線に気付いた女性はそう言うと、目の前の扉を足で器用に開けた。
途端、向こう側からにょきりと黒っぽいものが突き出してくる。
「うわっ」
驚いて声をあげると、女性はちらりと肩越しに視線を送ってきた後に、ふんと鼻で笑った。
「頼りないね、あんた」
……い、いきなりそれはどうなんだよ、失礼な奴だなあ。
無意識に顔をしかめていたらしく、爆風が俺の背中を叩く。
「はは。そんな顔をするな。行くぞ」
「……わかってるよ」
俺は大袈裟に肩を竦めて、爆風の後に続いた。
こんなときにボーザックがいたら、俺をからかって笑ったかもしれないな。
扉の向こうから突き出されたのは、俺が腕を伸ばしても抱えきれないくらいある、龍の頭だ。
……さすが、荷物を運ぶための龍ってだけあって、大きい。
「早く。扉閉めるから」
女性に急かされて、俺たちは扉の奥へと足を踏み入れる。
「……すごい」
そこで俺は、眼を見張った。
視界に広がったのは、ずっと先まで囲まれた放牧場と、その中に建つ小さなふたつの家。
……そして、十頭ほどの『輸送龍』たちだった。
頭の天辺から伸びた二本の角。
長めの首と、馬に近い形の胴体。
四足歩行で、つま先には地面を掴むためなのか、鋭い爪が前に三本と、後ろから一本生えている。
大きさはまちまちだけど、一様に黒っぽく硬そうな鱗で守られた皮膚が陽の光に艶めく。
首をもたげてこちらを覗う姿は、敵意こそ感じなかったけど獰猛な魔物のそれだ。
「……」
女性は無言で俺の後ろの扉を閉めると、持っていた大きな桶をどかりと降ろした。
『ピューゥイッ』
すると、さっき扉を開けたときに覗き込んできた輸送龍が、すかさず鳴き声をあげる。
同時に、離れていた輸送龍たちがこっちに向かって走り出した。
……見た目に似合わず、小さな鳥のような、可愛らしい声なんだけど、土埃を巻き上げながら走ってくる姿は、決して可愛くはない。
「うん、これは壮観だな。君ひとりで?」
「ああ」
爆風が顎のあたりを擦りながら言うと、女性はひと言だけ答え、集まってきた輸送龍たちに向かって、桶の中の野菜を掴んで放り投げた。
おお……よく食べるな。
あっという間に噛み砕かれていく野菜たちが、ちょっとだけ憐れに見えるほどの食いっぷりである。
激しく体をぶつけながら我先にと野菜に群がっていく輸送龍に、俺はこっそりとため息をついた。
あれに乗るのは骨が折れそうだけど……大丈夫かなぁ。
本日分……ちょっと過ぎちゃいました、すみません。
よろしくお願いします!




