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逆鱗のハルトⅡ  作者:
186/308

輸送は慎重に。③

******


翌日の昼前には目的の村に到着。

馬屋が言っていた通り、快適な馬上旅だった。

……まあ、この快適な馬をちゃんと選ばせたのは爆風なんだけどな。

走り方が優しいのか、体にかかる負担も少なかった気がする。


そんなわけで、その優秀な馬を宿の馬小屋に繋ぎ、俺たちはさらに奥へと歩を進めた。

……村は一軒ごとの敷地が広く、畑や家畜を育てる放牧場が住居に隣接している造りみたいだ。


しばらく行くと、大きな囲いが見えてくる。

宿の主から、村の外れにある木製の囲いの中に輸送龍がいるって聞いんだけど……間違いなくあれだろうな。


うん、すごいんだよ、これが。


俺より太い丸太が、数カ所を紐でしっかりと括られて壁のように連なり、ずんずんと隙間なく突き立っていたのである。

ご丁寧に、立てられた看板には『輸送龍がいます。危険』と、書かれていた。


……そんなに凶暴なのか? 輸送龍って。

囲いは俺の背よりも高く、中を見ることは出来ないため、ちょっと不安になった。

中からは特に鳴き声がするわけでもなく静かなんだけど……大丈夫かな。


「失礼、誰かいないか」

爆風が囲いの外から声をかけるけど、返事はない。


「昼休みとか?」

「どうだろうな。聞こえないってことはないと思うが」

「……おーい! 輸送龍を借りにきたんだけど!」


念のためもう一度呼んでみるけど、やっぱり反応はなかった。 

俺は首を傾げ、囲いの途中に作られた扉を叩いてみる。

「誰かいないのかー?」

……すると、後ろから声がした。


「ああ、あんたたち、トレイユ支部長から連絡があった冒険者か」


振り返ると、ええと……女……? の人が、立っている。

短い落ち着いた色の茶髪に、きりりとした同じような色の眼。

中性的に見える顔立ちで、かつ少し頬が痩け、輪郭がはっきりしていた。

肘あたりまでのシャツからはよく焼けた小麦色の肌が覗き、大きな桶を抱えている……それなりに鍛えられているようだ。

たぶん、中性的に見えるのは顔立ちだけじゃなく、体付きもあるだろう。

おそらくは俺より上、三十から四十代に感じた。


「そうだ。君が輸送龍の飼育をしているのかな」

爆風がいつもの紳士的な雰囲気を滲ませて言うと、彼女は頷いてこっちに来た。

背は俺よりは低いけど、女性にしては高い方だろう。


ふと見えた大きな桶の中は、たくさんの野菜が入っている。

……なにに使うんだろ。


「……ああ、これ、輸送龍の餌。奴等は草食だから」

視線に気付いた女性はそう言うと、目の前の扉を足で器用に開けた。

途端、向こう側からにょきりと黒っぽいものが突き出してくる。

「うわっ」

驚いて声をあげると、女性はちらりと肩越しに視線を送ってきた後に、ふんと鼻で笑った。

「頼りないね、あんた」


……い、いきなりそれはどうなんだよ、失礼な奴だなあ。

無意識に顔をしかめていたらしく、爆風が俺の背中を叩く。


「はは。そんな顔をするな。行くぞ」

「……わかってるよ」

俺は大袈裟に肩を竦めて、爆風の後に続いた。

こんなときにボーザックがいたら、俺をからかって笑ったかもしれないな。


扉の向こうから突き出されたのは、俺が腕を伸ばしても抱えきれないくらいある、龍の頭だ。

……さすが、荷物を運ぶための龍ってだけあって、大きい。


「早く。扉閉めるから」

女性に急かされて、俺たちは扉の奥へと足を踏み入れる。


「……すごい」

そこで俺は、眼を見張った。


視界に広がったのは、ずっと先まで囲まれた放牧場と、その中に建つ小さなふたつの家。


……そして、十頭ほどの『輸送龍』たちだった。


頭の天辺から伸びた二本の角。

長めの首と、馬に近い形の胴体。

四足歩行で、つま先には地面を掴むためなのか、鋭い爪が前に三本と、後ろから一本生えている。

大きさはまちまちだけど、一様に黒っぽく硬そうな鱗で守られた皮膚が陽の光に艶めく。


首をもたげてこちらを覗う姿は、敵意こそ感じなかったけど獰猛な魔物のそれだ。


「……」

女性は無言で俺の後ろの扉を閉めると、持っていた大きな桶をどかりと降ろした。


『ピューゥイッ』

すると、さっき扉を開けたときに覗き込んできた輸送龍が、すかさず鳴き声をあげる。

同時に、離れていた輸送龍たちがこっちに向かって走り出した。


……見た目に似合わず、小さな鳥のような、可愛らしい声なんだけど、土埃を巻き上げながら走ってくる姿は、決して可愛くはない。


「うん、これは壮観だな。君ひとりで?」

「ああ」

爆風が顎のあたりを擦りながら言うと、女性はひと言だけ答え、集まってきた輸送龍たちに向かって、桶の中の野菜を掴んで放り投げた。


おお……よく食べるな。


あっという間に噛み砕かれていく野菜たちが、ちょっとだけ憐れに見えるほどの食いっぷりである。


激しく体をぶつけながら我先にと野菜に群がっていく輸送龍に、俺はこっそりとため息をついた。


あれに乗るのは骨が折れそうだけど……大丈夫かなぁ。



本日分……ちょっと過ぎちゃいました、すみません。

よろしくお願いします!

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