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逆鱗のハルトⅡ  作者:
181/308

破壊を司るもの。④

******


トレイユに戻り、トレージャーハンター協会に男を担ぎ込んだ俺たちを、支部長は大慌てで出迎えた。

既に夜遅かったにもかかわらず、待っていてくれたらしい。


出発したのは昨日の早朝。明け方に洞窟に乗り込み、今戻ったという感じだったにも関わらず、だ。正直、ありがたい。


トレイユ支部長はすぐに部屋を手配してくれて、簡易的ではあるけど食事まで用意してくれた。


◇◇◇


洞窟にあったものを支部長に説明すると、彼は受付のおばちゃんを呼び寄せた。

爆風を気に入ったのかよく喋る、あのおばちゃんだ。


恰幅がよく、黒髪を頭の天辺で大きなだんごにしたおばちゃんは、部屋に入ってくるなりくりくりとした茶色い眼を爆風に向ける。


「おやまあ! 帰ってきたのねよかった! で? あたしを呼んだってことは動くんだね?」

「はい、洞窟に危険な物体を確認しました。……魔法を使える部隊を召集します。刺激を与えるのは危険と判断しましたので、埋めることにします」

さらっとすごいことを言って、支部長は口髭をもごもごさせた。

「埋めるって……」

思わず言うと、爆風が首を振る。

「案外、いいかもしれん。あれがなにかわからないうちは、下手に突くわけにもいかないだろう。……かわりに、掘り返されないよう注意が必要だが」

「それは任せておくれよ。掘り起こそうとしたら作動する罠でも仕掛けとくさ」

俺はさばさばと笑う受付のおばちゃんに、「そ、そっか……」と返すしかない。

……謎だ、このおばちゃん。


◇◇◇


おばちゃんは夜中だというのに颯爽と出て行った。

そこで、俺と爆風、支部長は、連れて来た男に『尋問』を開始する。

「……」

男は眼を覚ましていて、一旦暴れたところを爆風が容赦なく殴り、黙らせていた。

……それがいいか悪いかっていうと微妙ではあるけど、少なくとも狩られるよりはいいだろうとも思う。


「……お前、少し話せたよな。今はどうだ?」

椅子に縛り付けられた男に問いかけると、そいつは血走った眼をぎょろりと動かす。

反応があるのは、俺の言葉をちゃんと理解しているからに見える。

「あの大きな苔、あれは……『災厄』か?」

さらに聞くと、男の眉がぴくり、と動いた。

「災厄なんだな……」

思わず、自分に言い聞かせるようにもう一度呟いて、俺は唇を湿らせた。

「あれは……」

「あれは、聞いての通り、もう起こすことは出来ないぞ。どうする、話すか? それとも死ぬか?」

俺の言葉を遮って、爆風が冷たい声を発する。

……俺は自分がナイフを突き付けられたような気持ちになった。


本能が、狩られるぞ、と警鐘を鳴らしているんだ。

それだけ、爆風の放つ殺気が凄まじいのである。


「俺は裏ハンターだ。見たところ、お前はトレージャーハンターだな? つまり、俺はお前を裁くことが出来る」

さらに坦々と言い募る爆風のガイルディア。

男はその空気に、ごくり、と喉を鳴らすと、首を振り始めた。


「俺……俺は、薬が……薬ガ、欲しいだけだ。災厄の破壊獣を、育てろと言われたダケで。アレが、薬がナイと、俺は、俺でなくナルから……」

「災厄の……破壊獣?」

聞き返すと、男の首はより大きく振れだす。

歯をガチガチと打ち鳴らし、男は悲鳴のような大声をあげた。

「あの、苔玉。アレが、そうだ。し、死にたくない、オオアア! ヤメロ! チカヨルナ!」

「ちょっ、おい、どうした、しっかり……!」

手を伸ばそうとすると、爆風に腕を掴まれる。

見ると、爆風は険しい顔で男を見ていた。

「……グ、グウウ、ググ」

こぼれてくるのは濁った音。口の端から、泡がぶくぶくと流れ出る。


「アアア、アアオオオ! 粉、粉ヲオオ……!」


「まさか、禁断症状……?」

思わず呟くと、支部長が顔をしかめた。

「これが、中毒の結果ですか……なんとむごい。仕方ないですね……ここはお任せください、悪いようにはしません。おふた方は一度休んでください」

「え、でも……」

「逆鱗、ここは任せよう。落ち着くまではしばらくかかる」

爆風はそう言うと、まだ吼えている男を見てから眼を伏せた。

「……本人がなんとかするしかない。……災厄のことを聞き出し、黒幕を潰すのが、俺たちの仕事だ」


俺はその言葉に、苦しむ男をしっかり見てから、頷いた。


「うん……わかった」



本日2個目の投稿です!

昨日できませんでしたので2本立てでした。


ぎりぎり間に合った!


更新情報は活動報告にあげています。

よろしければどうぞ!よろしくお願いします。

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