破壊を司るもの。④
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トレイユに戻り、トレージャーハンター協会に男を担ぎ込んだ俺たちを、支部長は大慌てで出迎えた。
既に夜遅かったにもかかわらず、待っていてくれたらしい。
出発したのは昨日の早朝。明け方に洞窟に乗り込み、今戻ったという感じだったにも関わらず、だ。正直、ありがたい。
トレイユ支部長はすぐに部屋を手配してくれて、簡易的ではあるけど食事まで用意してくれた。
◇◇◇
洞窟にあったものを支部長に説明すると、彼は受付のおばちゃんを呼び寄せた。
爆風を気に入ったのかよく喋る、あのおばちゃんだ。
恰幅がよく、黒髪を頭の天辺で大きなだんごにしたおばちゃんは、部屋に入ってくるなりくりくりとした茶色い眼を爆風に向ける。
「おやまあ! 帰ってきたのねよかった! で? あたしを呼んだってことは動くんだね?」
「はい、洞窟に危険な物体を確認しました。……魔法を使える部隊を召集します。刺激を与えるのは危険と判断しましたので、埋めることにします」
さらっとすごいことを言って、支部長は口髭をもごもごさせた。
「埋めるって……」
思わず言うと、爆風が首を振る。
「案外、いいかもしれん。あれがなにかわからないうちは、下手に突くわけにもいかないだろう。……かわりに、掘り返されないよう注意が必要だが」
「それは任せておくれよ。掘り起こそうとしたら作動する罠でも仕掛けとくさ」
俺はさばさばと笑う受付のおばちゃんに、「そ、そっか……」と返すしかない。
……謎だ、このおばちゃん。
◇◇◇
おばちゃんは夜中だというのに颯爽と出て行った。
そこで、俺と爆風、支部長は、連れて来た男に『尋問』を開始する。
「……」
男は眼を覚ましていて、一旦暴れたところを爆風が容赦なく殴り、黙らせていた。
……それがいいか悪いかっていうと微妙ではあるけど、少なくとも狩られるよりはいいだろうとも思う。
「……お前、少し話せたよな。今はどうだ?」
椅子に縛り付けられた男に問いかけると、そいつは血走った眼をぎょろりと動かす。
反応があるのは、俺の言葉をちゃんと理解しているからに見える。
「あの大きな苔、あれは……『災厄』か?」
さらに聞くと、男の眉がぴくり、と動いた。
「災厄なんだな……」
思わず、自分に言い聞かせるようにもう一度呟いて、俺は唇を湿らせた。
「あれは……」
「あれは、聞いての通り、もう起こすことは出来ないぞ。どうする、話すか? それとも死ぬか?」
俺の言葉を遮って、爆風が冷たい声を発する。
……俺は自分がナイフを突き付けられたような気持ちになった。
本能が、狩られるぞ、と警鐘を鳴らしているんだ。
それだけ、爆風の放つ殺気が凄まじいのである。
「俺は裏ハンターだ。見たところ、お前はトレージャーハンターだな? つまり、俺はお前を裁くことが出来る」
さらに坦々と言い募る爆風のガイルディア。
男はその空気に、ごくり、と喉を鳴らすと、首を振り始めた。
「俺……俺は、薬が……薬ガ、欲しいだけだ。災厄の破壊獣を、育てろと言われたダケで。アレが、薬がナイと、俺は、俺でなくナルから……」
「災厄の……破壊獣?」
聞き返すと、男の首はより大きく振れだす。
歯をガチガチと打ち鳴らし、男は悲鳴のような大声をあげた。
「あの、苔玉。アレが、そうだ。し、死にたくない、オオアア! ヤメロ! チカヨルナ!」
「ちょっ、おい、どうした、しっかり……!」
手を伸ばそうとすると、爆風に腕を掴まれる。
見ると、爆風は険しい顔で男を見ていた。
「……グ、グウウ、ググ」
こぼれてくるのは濁った音。口の端から、泡がぶくぶくと流れ出る。
「アアア、アアオオオ! 粉、粉ヲオオ……!」
「まさか、禁断症状……?」
思わず呟くと、支部長が顔をしかめた。
「これが、中毒の結果ですか……なんとむごい。仕方ないですね……ここはお任せください、悪いようにはしません。おふた方は一度休んでください」
「え、でも……」
「逆鱗、ここは任せよう。落ち着くまではしばらくかかる」
爆風はそう言うと、まだ吼えている男を見てから眼を伏せた。
「……本人がなんとかするしかない。……災厄のことを聞き出し、黒幕を潰すのが、俺たちの仕事だ」
俺はその言葉に、苦しむ男をしっかり見てから、頷いた。
「うん……わかった」
本日2個目の投稿です!
昨日できませんでしたので2本立てでした。
ぎりぎり間に合った!
更新情報は活動報告にあげています。
よろしければどうぞ!よろしくお願いします。




