破壊を司るもの。②
だん、と。
踏み切って跳んだ俺たちに、魔力結晶を苔玉に埋め込んでいたふたりが弾かれたように振り返る。
その瞬間には俺と爆風は着地して、双剣を構えていた。
「肉体強化! ……その苔玉について教えてもらおうか!」
肉体硬化をひとつ書き換えて、声をあげるけど……やっぱり彼等はひと言も発しない。
各々の長剣を抜き放つと、ゆらゆらと俺たちの方へ向かってきた。
……そして。
「……ッ!」
俺は目の前で双剣を交差する。
踏み切ったひとりが、ものすごい勢いで『跳んで』きたのだ。
ガイイィンッ!
「くっ……!」
両手に伝わる衝撃に、歯を食いしばる。
「ふっ!」
そこに、爆風の一撃が閃いた。
……男は飛び退いたけど、爆風は体勢を崩すことなく、一気に距離を詰める――速い!
「……ハアァッ!」
白い剣と黒い剣が再び閃いて、男を捉えたかのように見えた。
男は長剣で弾こうと試みたけど、爆風の勢いに躊躇したのか回避を選択。
……ところが、避けた先が苔玉で、背中がどん、とぶつかった。
ボッ……!
「む……!」
さらなる追撃に動いていた爆風はすんでの所で重心を後ろにずらし、飛び退く。
俺は、息を飲んだ。
男がぶつかった場所……苔玉から、小さな苔玉がいくつか放出されたのである。
手のひらくらいのそれは大きな苔玉と一緒でやはり薄く緑色に光っており、ころころと地面を転がって……。
「なん……っうわ!」
「逆鱗!」
俺はもうひとりの一撃を咄嗟に躱して、双剣を振り抜いた。
男は難なくそれを受け止め、力任せにギリギリと押してくる。
「……」
無言のその眼はギラギラと紅く光り、血走っていた。唇の端には、泡のようなもの。
「おい、お前、聞こえてるんだろ! 紅い粉は駄目だ、あれは毒で……だから!」
声をかけるけど、反応はない。
血走った眼は大きく見開かれ、俺を凝視する。
「くそ……肉体強化!」
肉体強化ひとつだけじゃ、完全に押し負けてしまう。
俺は肉体硬化を書き換えて、踏ん張った。
「ふっ!」
そこに、戻ってきた爆風が横から飛び出す。
ガキィッ!
男は完全に意識が俺にいっていたのか、肩にまともに一撃を受け、踏鞴を踏んだ。
爆風は俺の隣に戻ると、ふんと鼻を鳴らす。
「硬いな。薄く皮を切ったくらいか」
「バフなしでそれとか反則だろ……」
もうひとりの男も、蹌踉けた男の隣に跳んでくる。
「右の跳ぶ奴はまだわからん。一撃入れてみよう。……で、あの小さい苔玉はなんだ?」
「わからない……でも、なんか……」
俺は爆風に答えながら、ちらりと転がった苔玉を見る。
いち、に……5個はある。
放出されたときは薄い緑色に見えたけど、今は黄緑っぽくなっている。
「色、変わってるような……」
「うん、そのようだ。……嫌な感じだな」
「あれにも気を配るしかないか」
油断なく俺たちを覗うふたりは、こそこそと会話する俺たちをじっと見ていた。
……言葉が届いているのか、届いていないのか、わからない。
出来ることなら無力化して、なんとかしてやりたいんだけど……その方法は、俺には思い付かなかった。
「なんで魔力結晶を埋め込む? そいつはなんだ? 答えろ」
爆風がそいつらを茶化すように、飄々とした口調で問いかける。
「聞こえないのか、その耳は飾りか? それとも、人間を捨てたか?」
そのとき。
「……オォオ――ッ! 邪魔、スルナアァ!」
男のうち、『硬いほう』が吼えた。
俺は思わず、構えていた腕を緩めて、応えるように声をかける。
「お前! 話せるのか? ちゃんと意識が……」
「逆鱗ッ!」
「え……ぐうっ!」
ゴッ、と、鈍い音と衝撃。
俺は地面を何度も転がってうつ伏せにとまり、両腕で上半身をなんとか持ち上げて、頭を振った。
左の頬に熱がかあっと集まって……目の前がちかちかする。
口の中、鉄の味が広がった。
「ッ、てぇ……」
「構えを解くやつがあるか! お前が油断してどうする! 死にたいのか!」
爆風がすぐさま俺と男の間に飛び込む。
……殴られる寸前、爆風が迫る男に双剣を振り抜いたのは見えていた。
だから、『跳ぶほうの』男は俺を斬れずに殴ることになったのである。
――死んでいたかもしれない。爆風がいなかったら……。
「おい、立てるか逆鱗!」
「……大丈夫」
ひやりとした、というよりは、怒りのようなものが腹の底から沸き立つような感覚。
情けないのは自覚している。だからこれは……自分に対する感情なんだろう。
俺は、唇を噛んだ。血の味は口中を満たし、今も気持ち悪い。
起き上がり、双剣を構えるけど、左頬には鈍い痛みが熱と共に脈打った。
「……やられてたまるか、こんなところで」
皆に会えないまま、倒れ伏すなんて許されない。
疼く傷みが、俺の感情をどんどん膨らませていく。
「……ほう、中々の荒療治だったらしいな、逆鱗」
爆風が、笑うのが見える。
「――一瞬だからな、爆風」
「ふ、では合わせてみせろ、逆鱗のハルト」
「任せろ」
俺は、渦巻く感情の波そのままに、手をかざした。
「まずは、硬いほうだ!」
「了解した。…………ふっ!!」
爆風が、地面を蹴った。
本日分の投稿です。
次話は皆様に「さすげき!」って言わせたいですね。
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