破壊を司るもの。①
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洞窟はトレイユから一日山脈を登ったあたりにあった。
道らしきものはなく、鬱蒼と茂る下草の中を慎重に進んだ先、一瞬では見逃してしまうような場所である。
カーテンのように垂れた蔦で入り口の半分が隠れていて、その奥は真っ暗な闇が満ちていた。
「うん、やはりバフを重ねられるのは大きいな」
前を歩いていた爆風が小さくこぼす。
……五感アップと魔力感知をそれぞれ二重にしていたので、洞窟が近くなってきた時点で見付けることは容易かったからだ。
知らないで歩いていたら、中々辿り着けなかっただろう。
ここに来る奴等には、何か目印のようなものがあるのかもしれない。
「入口付近には何もないようだな」
「ああ。もっと奥がありそうだ。……でも、大きな気配は感じないな」
「そのようだ。……洞窟の奥から何人なのか何匹なのかはわからないが、いくつかは感じる程度か」
「……」
え、俺、まだ殆ど気配感じないぞ。
驚いて見ると、爆風は「なんだ?」と聞いてくる。
「いや、やっぱすごいんだな、爆風って」
「うん? 急に誉めてくるのはいいが、俺は慣れてるから変な反応はしてやらないぞ」
「いやいや、誰がそんなののために誉めるんだよ……」
がっくり肩を落とすと、爆風はそっと双剣を抜いて、笑った。
「力が抜けたようで何よりだ。……入るぞ、逆鱗」
「……わかった」
俺も爆風に倣い、双剣を抜く。
――災厄がいるなら、ここで仕留めないと。
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ひんやりとして湿った空気には苔の臭いが混ざっている。
暗い洞窟の中、有り難いことに足場は平らにならされていて、歩くのにはそこまで神経を尖らせないで済んだ。
驚いたのは、所々に薄く光る苔が生えていること。
それは天井だったり、壁だったり、足下だったりもする。薄緑や黄色っぽい色のぼんやりとした光がぽつぽつと並んでいる。
苔は奥に進むほどに段々と数を増して大きくなっていくんだけど、五感アップのせいか、さすがに眩しくなってきた。
「……隠れるのは難しいな」
「ああ。……気配はまだ先みたいだけど、五感アップ消しておくよ」
爆風が頷くのを確認して、俺はバフを消す。
光はやわらいだけど、あたりを照らし出すには充分すぎる苔の量である。
魔力感知はかけなおして、俺たちはさらに奥へと進んだ。
◇◇◇
進むうちに、苔は足場を残して全てを被ってしまった。
幻想的な景色に、なにもなければみとれていたかもしれない。
けど今はそれどころじゃなかった。
奥の方に道の終わりが見え始め、その向こうから、濃い魔力の流れを感じるのだ。
……たぶんあそこには何かがいる。
「俺が先行する。いいか、無茶はするな逆鱗。危険を感じたら逃げろ」
「……それはわかったけど、爆風が逃げないなら俺は逃げないぞ」
鼻を鳴らすと、前を慎重に歩く爆風から笑ったのを感じた。
「運命共同体か、よし乗った」
……実際、敵わないとわかって逃げたことがある。
逃げろと言われて、グランを、ボーザックを、ファルーアを置いて逃げたことが。
最善だったと思ってる。グランがそう判断したのは、間違いじゃないとわかってる。
結果、皆無事だった。でも……あのときの気持ちは二度と味わうつもりはない。
俺は身を屈めて苔の道を進む爆風の背中を、静かに追いかけた。
――そして。
道の奥、巨大な空間に……俺たちは出た。
道は突然すっぱりと終わりを迎え、そこから下へと梯子が降ろされている。梯子の長さは、俺がふたり分くらいだろうか。
そこまで高いわけではないけど、万が一逃げるときには厄介な高さだ。
繋がっていたのは下にも上にも……もちろん左右にも広がった、半球状の空間。
そしてその真ん中には、奇妙なものが『転がって』いた。
「なんだ、あれは……」
「……さあ。けど……間違いなく危険だろうな」
俺と爆風はぴったりと地面に張り付いて空間を覗き込む。
それは、巨大な巨大な苔玉だった。しかも、他の苔同様、ぼんやりと光っている。
「なにかの体に苔が生えたのか、そもそもあれ自体が苔なのか……」
「どっちにしても物騒だろ……」
苔玉の足下には、ふたりの人影。
彼等はなんと、魔力結晶をその苔玉に埋め込んでいる最中だった。
感じた魔力はあれだろう。
ここからだと見にくいけど、男ふたりのようだ。
腰に剣を提げている。
俺は爆風に囁いた。
「他に人はいなそうだな。彼奴らをどうにかしてからあの苔玉を調べよう。……肉体硬化、肉体硬化、速度アップ、反応速度アップ。……飛び降りたら、肉体硬化をひとつ肉体強化にかけ直すよ」
魔力感知を消しバフをかけなおして、俺は思いきり息を吸って、腹に力を入れる。
「行こう!」
昨日投稿できてなかったので投稿です!
よろしくお願いしますー!




