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逆鱗のハルトⅡ  作者:
177/308

先手必勝です。④

******


伝達龍を飛ばし終えた支部長は個室に戻ってくるなり資料をばさばさと広げた。

結構な量があり、ぱっと見たところ地震の起きた日の状況なんかが書かれているようだ。


「ここトレイユは、近くに遺跡や未開の土地がなかったため、トレージャーハンターがあまり来ない町でした。そのためトレージャーハンターの憩いの場を謳い、人を呼び込んだ町です。……一見その施策は上手くいったかに思えたものの、トレージャーハンターよりも一般の方が多く訪れるようになりました。馬車で王都から来てくださるのは経済的にも非常にありがたいわけですが、そのせいで魔物の被害も爆発的に増加したのです。……町長の手腕を否定するわけではないのですが、そういった部分には手が回っていなかった……」


言いながら、支部長が一枚の紙を差し出してくる。

受け取って眼を通すと、最近の被害が書き連ねられていた。

荷物や馬車の破損、食糧の強奪、怪我……うん、確かに冒険者だったら対処出来てたかもしれない。


「地震が起き始めたのは一年ほど前です。その直後から魔物が活発に動き出し……今までにない被害件数となりました。実際、ここにある仕事は『魔物の討伐』ばかりで、この状況がずっと続いています。私は地震が起きる前からここを『ギルド機能に特化させた』支部にすると決めて動いていましたが、全く手におえない件数です……いやはや、協会への苦情もかなりのものでしてね」


口髭をもそもそと動かして告げる支部長の顔は渋いものだった。

そりゃそうだろう、聞く限り、町の方針の結果が思ったものとずれたせいで尻拭いをしているように感じるもんな。


「さて、そんな中、不審なトレージャーハンターが目立ち始めました。アイシャの情報もあって、鳥肌が立つ思いでしたよ。……すぐに調査を行ない、彼等の拠点と思われる、山脈の中の大きな洞窟を発見しました。驚くことに、そこは『震源地』である可能性が高い。……こちらをどうぞ」

次に出された資料は、地震の起きた日の状況だ。

トレイユだけでなく、近隣の町や村の分までまとめてあり、別紙の地図に、その揺れの大きさ、観測した場所が記してあった。

そして、山脈の中腹にバツ印があり、そこに近付くにつれて揺れが大きくなっていることがわかる。


……よく調べたな、こんなに。


感心していると、支部長はバツ印を指さした。

「まさにこのあたりに、洞窟があるわけですね」


わかっていたのに、首筋から背中にかけて、薄く撫でられたような悪寒がはしる。

……災厄が中に眠っているかもしれない、と心臓が早鐘のように鳴った。


「……一番間近の地震は三日前だよな。その前は?」

「その十五日前ですね」

落ち着くために深く息を吸ってから俺が聞くと、支部長は間をおかずにきっぱりと答える。


そうすると、俺たちがテアルターナ湿原にいた頃だ。


アイシャで地震が起きていた頃も、次の揺れまでは間が開いていた。

つまり、その洞窟に乗り込むなら……。


俺の考えを汲み取ったのか、隣で爆風が腕を組む。

「先手必勝、行くか逆鱗」

「ああ。それがいいと思う。……でも、いきなり狩るのはなしだからな」

応えると、爆風は一瞬だけ眼を見開いてから、歯を見せてにっと笑った。

「先に釘を刺してくるとは、やるな」

「先手必勝! だろ?」

「はは、言うじゃないか!」


支部長は安心したのか、椅子の背もたれに深く身を預けると、呟いた。

「ああ、やはり、なんという幸運……」


******


そのあと、俺たちは街中にもあるという不審なトレージャーハンターの拠点を支部長から聞いて、細い道の先にひっそりと建っているこぢんまりとした木造の家に赴いた。


――けれど、どうやら無駄足。誰もいないようだ。

俺の五感アップバフと魔力感知バフには何もひっかからない。


さすがに勝手に中に入るわけにはいかず、俺と爆風はこの家を調べるのを諦める。

山脈の洞窟に向かうのは確定しているわけだけど、既に日は暮れかけだったから、ここで一晩しっかりと休息をとることになった。


手頃な宿を探しながら、道を歩く。


山の向こうへと落ちる日はあたりを橙色に染め上げて、町をのんびりと歩く人々は灯り始めた明かりに誘われるように気に入った店へと入っていく。

赤い雫形の果物、特産品らしいペールの香りは相変わらずただよっていて、長閑な雰囲気。


ゆっくりと羽を伸ばすのにはいいな……。たまにはこういうところで休息ってのもいいかも。

今度は白薔薇の皆も連れてきて、ペールも食べよう。


考えて、ふ、と短く息を吐く。

……そのために、まずは山脈の洞窟だ。対人戦があることも想定しておかないといけないことはわかっていた。俺がデバフを使えれば、かなり有利になるだろう。


黙って手を握ったり開いたりしていたら、爆風の手が肩に乗る。

思わず顔を上げると、町の灯りに照らされて琥珀色に光る眼が笑っていた。

「ここが片付いたら、馬を買って自由国家カサンドラまで行けるんだ。そう硬くなるな逆鱗」

「べ、別に緊張してるわけじゃないからな」

「はは、そうか。……まあ見ていろ、俺は強いぞ?」

「いや、身を以て知ってるって……」


見透かされてるのがちょっと悔しいけど、正直爆風のガイルディアがいるってのはかなり心強い。

俺は苦笑して、空を見上げる。


……あっという間に山脈の向こう側に隠れた太陽が、夜の帳を引っ張っていく。

東の空には、ちらちらと星が見え始めていた。



本日分の投稿です。

読んでくださっている方から、「さすが逆鱗さん!」→「さすげき!」という素敵フレーズ頂戴しました。

自分の中でかなりのブームきました、さすげき!ほっこりです!

よろしくお願いします!

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