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逆鱗のハルトⅡ  作者:
176/308

先手必勝です。③

支部長は天に祈るかのような仕草で上を向き、はあぁっと息を吐き出した。


「いや、これは本当に……なんという幸運」

「こ、幸運?」

「はは、幸運の星か」

茶化してくる爆風を無視して、俺は支部長に問いかける。

「どういうこと?」

「ここ、トレイユ支部は冒険者たちも利用出来るよう『ギルド』としての機能を特化させているのです。まだまだ宣伝不足ですけどね……。観光に来る一般人が多い故に、魔物退治にも力を入れる必要があるので、冒険者たちが来てくれることが望ましいのですよ。トレージャーハンターはあまり戦えない人も多いですからね」

「ああ、確かに多かったなぁ、観光って感じの人」

「はい。そのため、トレージャーハンター協会本部と密接なやり取りを行っている支部でして、アイシャの情報収集にも力を入れているわけです。……つまり、地龍グレイドス、飛龍タイラント、そして災厄の黒龍アドラノード討伐……この情報も、私は持っているわけですね」

「え……? あ、アドラノードのことまで?」

思わず聞き返すと、人の良さそうなおじさん支部長はふふっと笑った。口髭かもそもそっと動いて、人のよさそうな微笑みだ。

「そう。……ですから、懸念していました。最近の地震、魔物たちの異常な行動、そして魔力結晶を運ぶ不審なトレージャーハンターたちが突然姿を見せ始めたこと……もうおわかりでしょう? 私たちトレイユ支部は、本部の指示でそれを調べていたのです」


俺は爆風と目配せして、頷く。

……そっか、トレージャーハンター協会はもう動いていたんだな……。

俺たちがアドラノードを討伐してから、既に数ヶ月。確かに、情報が伝わっていたら、調べ始めていてもおかしくない。

サーディアスとかいう奴は、トレージャーハンター協会が本腰を入れて動き出したために、隠すことすら放棄して急いでいるんだろう。

もしかしたら、シエリア暗殺がずっと失敗していることも理由のひとつなのかも。


「それなら話は早い。支部長、サーディアスという者を知っているか?」

爆風が聞くと、支部長は眉をひそめた。

「サーディアス……トレージャーハンター協会の二番手、若手筆頭の大物ですね。……彼が、なにか?」

「おそらく関わっているぞ、この件に。しかも悪い意味でな。早急に手を打ったほうがいい」

「……まさか、そんな?」

「捕まえてからゆっくり聞き出せばいいだろう。少なくとも、中毒の素となる魔力結晶の粉は持っているはずだからな。取り返しがつかなくなる前に動くべきだ」

爆風の低く落ち着いた声は、ずしりと重みがある。

知らない人が聞いたら鼻で笑い飛ばすような、なんの証拠もない状況にも関わらず、一気に緊張した空気が場を支配した。


支部長はとめてしまっていた息を吐き出すのと同時に、何度も頷く。

「わっ、わかりました。私から協会の会長へ伝達龍を飛ばしましょう」

俺はその言葉にはっとして、身を乗り出した。

「待ってくれ、俺の仲間……白薔薇が本部に向かってるんだ。俺たちもその件で動いてるからな。皆に伝言をしたいから、その手紙と一緒に乗せてくれないか?」

「なるほど、会長宛でしたらサーディアスに気付かれずに伝言出来ましょう。かしこまりました」


支部長はうんうんと二度頷いて、ふと俺を見る。


「そういえば、何故爆風のガイルディア様と一緒にいらっしゃるのですか?」

「え? あー。話せば長いんだけど……アルヴィア帝国の研究都市ヤルヴィで、支部長のストーとか研究所の人とかと地殻変動の話をしたんだ。それで、災厄の話とあまりに接点が多かったんで、すぐにトレージャーハンター協会にも報せようってことに……。だから別行動にして、俺は爆風とこっちを調べに来たんだ」

「ほほう、よくあの国で……いや、ストーと仰いましたか? 曲者ストールトレンブリッジですね……なるほど、彼も動いているのですか。確かにアルヴィア帝国の研究結果でしたら信憑性も高いですしね」

「んん? 曲者って……?」

「彼はアルヴィア帝国皇帝のご学友です。冒険者嫌いの帝国人も、皇帝と親密なストールトレンブリッジに直接物を言えません。飄々と動き回る彼は、トレージャーハンター協会でも中々扱いにくいわけですよ。だから、曲者」

「……はあー、あいつそんなすごい奴なんだな」

思わず感心すると、支部長は「ご冗談を」と真顔で言った。


「逆鱗のハルト様、貴方の方が余程高い位置にいらっしゃるのに」


「ええっ?」

俺は驚いて身を引く。

支部長は俺を追いかけるように上半身を前に傾けて、ふふっと笑みをこぼした。

「アイシャの四国の王と密接な関係にあり、名誉勲章を持ち、さらには彼の飛龍タイラントを屠っている。極め付けは災厄の討伐! これが凄くないなどと言えるのは、爆風のガイルディア様たち『伝説の爆の冒険者』くらいでしょう」


お、おお……なんかすごく大袈裟だけど、誉められてる気がする!

驚きと感激に何度も瞬きをすると、爆風が隣で笑いを堪えているのがわかった。


「なんだよ……」

「いや、誉められることに慣れてないんだと思ってな、はは」

「う、うるさいなあ。仕方ないだろ」


そっぽを向くと、爆風はさらに笑ったようだった。

支部長は微笑ましい光景でも見ているかのような顔をしながら、続ける。


「では、伝達龍を飛ばしてから本題といきましょうか」




本日分の投稿です。

感想、ブックマーク、評価などなど、本当に頭が上がりません。

いつもありがとうございます!

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