紅い石を求むもの。⑤
******
飛び出すと、日の光に一瞬だけ視界が白っぽくなった。
咄嗟に左手で庇を作り、眼を細める。
……目の前には、サーベルと盾を打ち合わせ、鬩ぎ合う男女……シエリアと、シュレイスの姿があった。
シュレイスがレイピアを繰り出すと、シエリアはすぐさま離れ、さらに突っ込んでいく彼女の盾にサーベルをわざと打ち合わせる。
温かい陽射しも相まって長閑な空気に、シエリアがシュレイスに稽古を付けてやっているのかと思ったんだけど……ラウジャも、テールも、ラミュースも……勿論、厳ついダンテも、困惑を隠しきれていない。
「……なにやってんの、お前ら」
思わず、ぼやいた。
「なにって! 敵を屠るのよ!」
鼻息荒く怒鳴り返し、シュレイスはさらにレイピアを繰り出した。オレンジ色の髪が彼女の動きに合わせて踊る。
敵って……シエリアのことか?
敵と呼ばれたシエリアは、三白眼を困ったように瞬かせた。
「何食わぬ顔して暗殺……けれど君はあからさますぎる気がします……」
「はあ? 暗殺なんて人聞き悪いこと言うんじゃないわよ! 私はトレージャーハンター協会直々の仕事を請けてあんたを探してたんだから!」
「……おい、シュレイス……とりあえず話が聞きたいんだけど……」
「うるさいわハルト! 忙しいのよ、テールにでも聞いて!」
「ええ、そんなぁ……シュレイスさん、困りますよう」
俺はげんなりしてラウジャを見たけど、大きく肩を竦めるだけ。
……まあ、放っておいてもシエリアの方が強いみたいだしな。万が一にもやられたりはしなさそうだ。
俺はため息をついて、おろおろしている丸っこい形の黒髪少女に向き直った。
「で、どういうことだ? テール」
「うう、なんだか思っていたのと違うんですよう」
テールは大きな蒼い眼をぱちぱちさせながら、双剣を抜くべきかどうかすら迷っているようだ。
……俺は自分が剣を握っていることに思い当たって、鞘に収めた。
「ああ、ごめん。……とりあえず話からしよう、あっちは大丈夫だろ……」
「はあ、そう……しましょうか」
テールは多少の警戒は持ちつつも、そろそろと双剣から手を放す。
すると、見ていた爆風が歯を見せて笑った。
「安心するといい、なんなら裏ハンターの証でも見せるか? 双剣使い」
「えっ! 皆さん裏ハンターなんですか? いや、そんなことよりも伝説の爆にそんな、疑うなんて……」
「俺とそこのハルトは裏ハンターだ。……そういうことだから、シエリアとあのお嬢さんは任せるといい」
テールは「はあー!」と、感嘆だかなんだかわからない声を上げて、ラミュースを振り返った。
高く結った深緑の髪を指ですきながら、彼女は微笑む。
「うふふ、いいと思うわ。シュレイスは血が上りやすいだけなのよ」
…………
……
そんなわけで、俺たちは闘うふたりを横目に話をした。
聞くところによると、どうもトレージャーハンター協会で仕事を請けているのは間違いないようだ。
「私たちは、自由国家カサンドラから来たんです。トレージャーハンター協会本部で『シエリア』という男を倒す仕事を請け、ソードラ王国にいるらしいと聞いたので……」
「斡旋されたってことか?」
「はい! 本部でも有名な方がいて、たまたまその人が声をかけてくれました。深刻な顔で、よかったら協力してくれないかと言われて……その、シュレイスさんが舞い上がって」
「あー……乗せられたのか」
「そう……かもしれません。シエリア……顔は恐いですが、悪い人には見えないです」
「いい奴だと思うよ。……それで、詳細は?」
「その前に教えてください。ハルトさんは、シエリアと、何時から一緒に? 証明は可能ですか?」
俺は真剣な眼差しを向けてくるテールに苦笑する。
やはり、シエリアと仲間であり、嘘をつくかもしれないと警戒はしているんだろう。
気弱そうに見えたけど、芯はしっかりしているようだ。
「湿地の町からだから……一カ月くらいかな。その前、俺と爆風は研究都市ヤルヴィにいた。そこからは、トレージャーハンター協会ヤルヴィ支部長と『仕事』をしている立場ってとこ」
間違いは言っていないはずと勝手に考えながら、俺はそう口にした。
ここを調べたのもその一環だと思えば、爆風の言った嘘もあながち本当だと言い切れるかもしれないな。
「……そ、そうですか! 支部長さんと繋がりが……ええと、そんな凄い人には見えませんねハルトさん」
「褒めてるのか? 貶してるのか?」
「あっ! ほ、褒めてます! 安心しただけですから!」
「まあいいよ……慣れてる……。それで、詳細は話してくれるのか?」
「は、はい。聞いたところによると、彼は国家を跨ぐ大罪人で……それを屠るためにトレージャーハンターの一部が内密に動いていると。その協力者になるためには、まず自分が潔白であることを証明する必要があって、お薬を飲むんですが……」
「……!」
俺は、自分の喉がごきゅ、と変な音を立てたのを、咳払いで誤魔化した。
シエリアを襲う暗殺者が『どういう状態』なのか考えたら、行き着く答えはひとつだ。
「まさか、とは思うけど……その薬、紅い粉じゃないか?」
「えっ? あ、はい、そうで……ひゃああ!?」
「呑んだのか? お前、あれを……!」
テールの細い肩を引っ掴み、俺は怒鳴ってしまった。
……そこで、俺はちりちりした殺気のようなものを感じて、飛び退く。
ヒュンッ、と、銀の細い剣が鳴る。
「ちょっとハルト! テールになにかしてごらんなさい、許さないわよ!」
――シエリアをほったらかしにして切っ先を俺に向けた、シュレイスだった。
本日分の投稿です!
ほんじつって変換したら、ちゃんと日付が出て来ることを知りました。
すごいなスマホ。
いつもありがとうございます!




