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逆鱗のハルトⅡ  作者:
168/308

紅い石を求むもの。②

******


オレンジ色の髪の女性は、シュレイス。歳は俺と変わらないように見える。

装備しているのは長剣で、細身のレイピアのようなものだ。小型の盾も持っている。


……そんな彼女をなんとか宥めて、俺は話を切り出した。


「それで……変な奴等に心当たりがあるのか?」

「ええ。この村にはひと月滞在していたから、何度か目撃もしているわ!」

「それは助かる……えっと」

俺は残りのふたりにも眼を向ける。

眼が合うと慌てて逸らし、おどおどしているのは黒髪のテール。

輪郭に沿うように丸く整えられた短い髪で、ぱっちりした蒼い眼にかかりそうなほど前髪が長い。

携えるのは双剣だったから、意外と動けるんだろうなと思う。

もうひとりは、珍しい深緑色の髪を高く結った、俺よりは年上だろう落ち着きのある女性、ラミュース。

同じ色をした眼はとても静かに俺を見詰めている。

手首には水晶の填まった腕輪があることから、恐らくはメイジかヒーラーだ。

「……彼女たちも、一緒に?」

「ええ、そうよ。私たち、三人で仕事をしているの。戦闘専門は私とテール、探索専門がラミュースよ」

「そっか……村にはなんで滞在を? ここ、そんなに仕事があるのか?」

「それ、話す必要あるのかしら? まあいいわ。最近地震が多かったでしょう? それで怯えた魔物がこの近辺に逃げてくるようになったのよ。それを退治して荒稼ぎ……いえ、人助けをしていたわ」

「……うん、お前がそういう感じなんだってのは今のでわかった」

「ちょっと! 失礼なこと言わないで。私はがめつくなんてないわ!」

「いや、がめついなんてひと言も……」

「うるさいわねハルト。口答えはいらないわ!」

「えぇ……」


俺は鼻息荒く詰め寄るシュレイスから、一歩距離をとる。

……ラムアルにファルーアを足してもうちょっと獰猛にした感じだな。


シュレイスは「はぁっ」とため息のような威嚇のような音を発して、続けた。


「とにかく。気持ちの悪い奴等が、村に何回も来ていたの。そこの、燃えている家を買い取って、仲間と使っていたんだと思う。そいつらが運んでいたのは、魔力結晶だわ。夜、紅い光が家から漏れているのを見たから」

「灯りとして使ってたってことか?」

「違うわ。もっと大掛かりなものよ、相当明るかったもの。きっと今回の爆発も、実験で使った魔力結晶が地震で割れたのよ」

「ああ……なるほど。魔法を込めてあったのかもな」

「そう! けど、魔物が出てきたのは変よね。あんな魔物、見たことないもの」

「……ああ、そうだな」

頷きながら考える。

出てきたのが魔物だけだったのは、まだよかったんだ。

たぶん、今後相手にしなければならないのは……人。ゾンビ化している場合も、そうでない場合も、考慮しなければならない。


俺が難しい顔をしていたのか、シュレイスはばさりと髪を払い、得意気に唇をつり上げた。

「そんな顔をしなくても、あんな魔物、私たちで十分よ。ね? テール」

「え、シュレイスさん、私にそれを振られても……無理だよう」

「……ちょっとテール。ここは大きく出ないと舐められるわ」

「いや、舐めたりしないから……むしろそこまで求めないし」

思わず肩を落として右手を振る。

シュレイスはまたも気分を害したようで、キッと眼を剝いた。

「……気持ち悪いわ、その発言」

「って、おい! なんでそうなるんだよ!」

突っ込んで、俺は項垂れた。

……こいつ、大丈夫かなあ……。


そこで、後ろで静かに見守っていたラミュースが、白と緑のローブをしゅるりと鳴らして、前に出る。

高く結った珍しい深緑の髪が、彼女の動きに合わせて揺れた。


ようやくまともな話が聞けそうだ。


「その変な奴等はね、男も女もいるわ。シュレイスがもっと狂ったような見た目。眼なんて、血走った感じだわ。そこはシュレイスに似ているわね」

「…………」

俺は額に手を当てた。

シュレイスもラミュースの言葉に眼を見開いて、口をぽかんと開けている。

「そいつら、たぶんこの魔物も運び込んでいたわ。麻袋が動いていたのを見たの。きっと、シュレイスを入れてもあんな風に動くわ」

ラミュースはそこまで言うと、うふふ、と笑う。……ぞわり、と背中が粟立った。

たぶん、きっと、この中で一番危険なのはラミュースだと確信する。


「ラミュース……こんなときにそういう冗談言うと引かれるわよ」

シュレイスはこめかみをぐりぐりしながら、首を振った。

「あら、そう?」

「そうよ」

「ほら、ふたりとも~……ええと、その、すみません」

ぺこりと頭を下げたのはテール。

俺は生温い笑みを浮かべて、答えた。

「うん……どんなパーティーなのかはわかった……」


結局、聞けたのは子連れの家族と同じ内容だ。

家の持ち主がなんて奴でどんな風貌だとか、そういうことは一切わからない。

そもそも、この家を元々管理していた村長は既に亡くなっているのだという。……不安になって聞いたけど、老衰での大往生だったそうだ。

ちょっとほっとした。


俺はそのあと火を消すのを手伝い、残っていた村人からも話を聞くことにしたのだった。



早めですが、投稿です!

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