紅い石を求むもの。②
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オレンジ色の髪の女性は、シュレイス。歳は俺と変わらないように見える。
装備しているのは長剣で、細身のレイピアのようなものだ。小型の盾も持っている。
……そんな彼女をなんとか宥めて、俺は話を切り出した。
「それで……変な奴等に心当たりがあるのか?」
「ええ。この村にはひと月滞在していたから、何度か目撃もしているわ!」
「それは助かる……えっと」
俺は残りのふたりにも眼を向ける。
眼が合うと慌てて逸らし、おどおどしているのは黒髪のテール。
輪郭に沿うように丸く整えられた短い髪で、ぱっちりした蒼い眼にかかりそうなほど前髪が長い。
携えるのは双剣だったから、意外と動けるんだろうなと思う。
もうひとりは、珍しい深緑色の髪を高く結った、俺よりは年上だろう落ち着きのある女性、ラミュース。
同じ色をした眼はとても静かに俺を見詰めている。
手首には水晶の填まった腕輪があることから、恐らくはメイジかヒーラーだ。
「……彼女たちも、一緒に?」
「ええ、そうよ。私たち、三人で仕事をしているの。戦闘専門は私とテール、探索専門がラミュースよ」
「そっか……村にはなんで滞在を? ここ、そんなに仕事があるのか?」
「それ、話す必要あるのかしら? まあいいわ。最近地震が多かったでしょう? それで怯えた魔物がこの近辺に逃げてくるようになったのよ。それを退治して荒稼ぎ……いえ、人助けをしていたわ」
「……うん、お前がそういう感じなんだってのは今のでわかった」
「ちょっと! 失礼なこと言わないで。私はがめつくなんてないわ!」
「いや、がめついなんてひと言も……」
「うるさいわねハルト。口答えはいらないわ!」
「えぇ……」
俺は鼻息荒く詰め寄るシュレイスから、一歩距離をとる。
……ラムアルにファルーアを足してもうちょっと獰猛にした感じだな。
シュレイスは「はぁっ」とため息のような威嚇のような音を発して、続けた。
「とにかく。気持ちの悪い奴等が、村に何回も来ていたの。そこの、燃えている家を買い取って、仲間と使っていたんだと思う。そいつらが運んでいたのは、魔力結晶だわ。夜、紅い光が家から漏れているのを見たから」
「灯りとして使ってたってことか?」
「違うわ。もっと大掛かりなものよ、相当明るかったもの。きっと今回の爆発も、実験で使った魔力結晶が地震で割れたのよ」
「ああ……なるほど。魔法を込めてあったのかもな」
「そう! けど、魔物が出てきたのは変よね。あんな魔物、見たことないもの」
「……ああ、そうだな」
頷きながら考える。
出てきたのが魔物だけだったのは、まだよかったんだ。
たぶん、今後相手にしなければならないのは……人。ゾンビ化している場合も、そうでない場合も、考慮しなければならない。
俺が難しい顔をしていたのか、シュレイスはばさりと髪を払い、得意気に唇をつり上げた。
「そんな顔をしなくても、あんな魔物、私たちで十分よ。ね? テール」
「え、シュレイスさん、私にそれを振られても……無理だよう」
「……ちょっとテール。ここは大きく出ないと舐められるわ」
「いや、舐めたりしないから……むしろそこまで求めないし」
思わず肩を落として右手を振る。
シュレイスはまたも気分を害したようで、キッと眼を剝いた。
「……気持ち悪いわ、その発言」
「って、おい! なんでそうなるんだよ!」
突っ込んで、俺は項垂れた。
……こいつ、大丈夫かなあ……。
そこで、後ろで静かに見守っていたラミュースが、白と緑のローブをしゅるりと鳴らして、前に出る。
高く結った珍しい深緑の髪が、彼女の動きに合わせて揺れた。
ようやくまともな話が聞けそうだ。
「その変な奴等はね、男も女もいるわ。シュレイスがもっと狂ったような見た目。眼なんて、血走った感じだわ。そこはシュレイスに似ているわね」
「…………」
俺は額に手を当てた。
シュレイスもラミュースの言葉に眼を見開いて、口をぽかんと開けている。
「そいつら、たぶんこの魔物も運び込んでいたわ。麻袋が動いていたのを見たの。きっと、シュレイスを入れてもあんな風に動くわ」
ラミュースはそこまで言うと、うふふ、と笑う。……ぞわり、と背中が粟立った。
たぶん、きっと、この中で一番危険なのはラミュースだと確信する。
「ラミュース……こんなときにそういう冗談言うと引かれるわよ」
シュレイスはこめかみをぐりぐりしながら、首を振った。
「あら、そう?」
「そうよ」
「ほら、ふたりとも~……ええと、その、すみません」
ぺこりと頭を下げたのはテール。
俺は生温い笑みを浮かべて、答えた。
「うん……どんなパーティーなのかはわかった……」
結局、聞けたのは子連れの家族と同じ内容だ。
家の持ち主がなんて奴でどんな風貌だとか、そういうことは一切わからない。
そもそも、この家を元々管理していた村長は既に亡くなっているのだという。……不安になって聞いたけど、老衰での大往生だったそうだ。
ちょっとほっとした。
俺はそのあと火を消すのを手伝い、残っていた村人からも話を聞くことにしたのだった。
早めですが、投稿です!




