下す決断の先には。⑥
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――村は、騒然としていた。
息をするのを躊躇うほどの煙。
荷物を持ち出して避難する人々が入り乱れている。
「なにがあったんだい?」
ラウジャが、大きな荷物を布でくるんで背負ったおっさんを引っ掴む。
おっさんは一瞬「グエッ」と呻いて、よろめきながら言った。
「地震と同時に、大きな爆発があったんだよぉ……」
「それで? なんで逃げようとしてんだい、火は消えてないんだろう?」
「火元からな、次から次へと魔物が出てくるんだ、こんなあぶねぇ場所にいられねぇよぉ!」
おっさんは「もういいだろぉ!」と言ってラウジャを振り払った。
俺たちが入ってきた入口の方へと走っていくのを見るに、村の人が向かう先は、おそらく山脈の麓にある町だろう。
「聞き捨てならないな……魔物が出てくるだと?」
爆風が厳しい表情で村の奥を見やる。
俺はごくりと空気を呑み込んだ。
……まさか、災厄? ……いや、でも地震の中心はもっと山脈寄りのはず……だよな?
考えを巡らせ、逃げ出す人々の波を逆走する。
あたりを見ていたラウジャも、眉を寄せ、口元を引き結んだ。
「何が起きてんだかわかりませんね。聞きながら奥に行きましょう、爆風のガイルディア」
今も煙が上がっていて、あたりは視界が悪くなりつつあった。
喉に感じるイガイガは、この煙のせいだろう。
爆風は頷くと、前から走ってきた家族連れに声をかけた。
まだ走るのもおぼつかない兄妹と、その両親のようだ。
「すまない、ちょっといいか」
「え? いや、俺たちは急いでんだ、他を……」
「待て、そんな小さな子供を町まで走らせるつもりか?」
「そ、そんなこと言っても……」
爆風はどうしようもないと言いたげな男に、握っていた手綱を差し出す。
「この馬を連れて行け。乗れれば上々、乗れなくても、荷物を乗せて引くといい。代わりに子供を背負うことが出来るだろう?」
「う、馬を? あんた一体……」
「なあに、代わりに聞きたいんだ。なにがあった?」
父親と思しき男は、不安そうな眼をして寄り添う母親と子供を見てから、承諾を示すように頷いた。
「よくは、わからない。地震が起きて、同時に爆発があったんだ。ここ最近、変な奴等が出入りするようになったぼろ家で……怪しいとは思っていた」
「あ、あなた……」
母親らしい女性が、周りを覗いながら男の袖を引く。まるで、やめなさいと言っているように見えた。
兄妹はその母親の足元にぴったり寄り添っていて、こんなときにフェンが居れば、この子たちを安心させてあげられたかもしれないと思う。
「最後だ、もうひとつ教えてくれ。その変な奴等とは?」
長話をしているわけにはいかず、爆風は質問しながら男の手にしっかりと手綱を握らせた。
男は馬に荷物を乗せながら、早口で説明を進める。
「変なんだ、眼が血走っているような、とにかく正気じゃないように見える奴等だ。大きな麻袋を運んでいたり……魔力結晶を運んでいた」
「……!」
俺は、ぎゅっと手を握った。
魔力結晶を運んでいるとしたら、そいつらは地殻変動に関わっているかもしれない。
それに、眼が血走っているのは、魔力結晶を摂取しているからじゃないか?
「ありがとう。……気を付けて行くといい」
「そっちもな。見たところ戦闘専門のトレージャーハンターだろうし平気だとは思うが……どうか無事で」
礼を言う爆風に、男は苦笑して応えると、妻と子を促して小走りに立ち去る。
俺はバックポーチから布を引っ張りだし、口元を覆った。
爆風も顔を隠すときに使っていた布を鼻の上まで引き上げる。
「どうやら、決断は間違ってはいなかったようだな、逆鱗」
「ああ……。とりあえず、火元のぼろ家まで行って様子を見よう。逃げ遅れた人もいるかもしれないし。……ラウジャ、シエリア、大丈夫そうか?」
聞くと、ラウジャはバンダナを口元に巻き、シエリアもそれに倣っていた。
「任せな」
「大丈夫です!」
力強い返事に頷いて、俺は連れている馬の首をぽんぽん、と撫でた。
残りの馬たちには可哀想だけど、付いてきてもらうしかない。
俺を見る馬の落ち着いた眼に、小さく「ごめんな」と呟いて、俺たちは火元へと急いだ。
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