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逆鱗のハルトⅡ  作者:
165/308

下す決断の先には。⑤

******


馬車で十日ほどの道程で街道を行く予定だったのを急遽変更し、俺たちは街道を逸れて『地殻変動』が起きている山脈付近へと向かうことになった。

三時間ほど村の宿で眠り、日が昇り切る前には出発する。


街道が大きく南に膨らんでいるため、街道のように整備されてなく、かつ魔物もいるだろう草原を使っても、上手く進めれば時間を短縮出来る可能性もあるようだ。

俺は自分の乗る黒い馬を盛大に労って、その背に乗った。


……アイシャの農業大国、皇帝ヴァイセンが治めるヴァイス帝国で乗せてもらった馬も黒く艶めいていたのを思い出して、懐かしくなる。

……クロは元気かな。


「では出発しよう」

爆風に促され、俺たちは再び走り出した。

昼まではもう少し時間がある。

雲は殆どなく、青い空には狩りをするためか猛禽類の影。

聞こえるのはその鳴き声だろう、透き通った音がピィーっと響いていた。

土と草の香りがして、暗殺者なんてことを考えなければ気持ちのいい旅路のはずだ。


俺たちが街道を逸れる決断を下したことで、少しでも暗殺者を混乱させることが出来ればいいんだけど。


◇◇◇


列になり、時折先頭を入れ替えて走る。

街道と違って少し柔らかい土に少し馬の足取りが重い感じがするけど、それでも疲れを見せない馬たちは、ラウジャいわくこのまま休憩なしでも夜まで走るそうだ。

アイシャの馬でも数時間に一回は休憩が必要だったから、素直に感心する。


そんな中、俺は左手で手綱を握り、右手に魔力を練っていた。

……勿論、デバフの練習だ。


相手を弱くすることを考えるよりも、仲間を守るために必要だと思って形にすることで、上手くいきそうな気がしてるんだよな。

少しでも、助けになれるように。


……うん、そんなすぐに出来てたら、とっくに使えるようになってるはずだけどな!


******


「五感アップ、持久力アップ」

アーラギを夜中に出発してから五日と半日、村を出てから五日が過ぎた。

今のところ暗殺者らしい影は全くなく、順調に進んでいる。

見渡す限り草原が広がっているけど、時折ぽっと現れる大きな岩や林のような場所でうまく休憩を取り、あと二日もあれば到着できるだろうかと話していた。


……そんな矢先、それは起きた。

『ヒイィンッ』

突然、馬が驚いたように嘶いて、一斉に暴れ出したのである。


「うわっ、ど、どうどう!」

慌てて宥めると、同じように馬を宥めていたシエリアがはっと顔をあげ、言った。

「これは……地震です!」

「!」

俺は身を硬くし、思わずごくりと息を呑む。


ゴゴゴ……と重低温が耳に届き、すぐにそれは大きな揺れへと変わった。……馬が踏鞴を踏むほどの揺れだ。

鼻息荒く不安そうに耳を傾ける馬たちに、声をかける。

「よしよし、大丈夫」

「かなり大きいな」

爆風は馬の首を撫で、落ち着かせながら、ぐるりとあたりを見回す。

少し離れた場所にある森のような場所から、鳥が飛び立つのが見えた。

今この瞬間、研究都市であり地殻変動と魔力結晶の関係を測定しているはずのヤルヴィでは、魔力結晶に変化が見られるはずだ。


――やがて、地震はゆっくりと収まり、あたりに静けさが満ちる。

飛び立った鳥たちは何処かに消え、動く者は俺たち以外見当たらない。


俺は心臓がどきどきと脈打つのを感じながら、手綱をしっかりと握り直した。

……気付けば、手には汗が滲んでいる。


もしこれが、本当に災厄によるものだとしたら、絶対に起こしてはならない。

アイシャにいた災厄の黒龍アドラノードは、地面に鎖で繋がれていたけれど。もし這い出てきていたら、止められなかったかもしれないんだ。


「……急ごう、爆風」

「うん、そうしよう。ラウジャ、シエリア、行けるか」

「勿論ですよ爆風のガイルディア」

「大丈夫です」

俺たちは馬をゆっくりと走らせ始める。

彼等はすぐに落ち着きを取り戻し、順調にペースを上げた。


しかし、数分経った頃、先頭を走っていた俺は気付いてしまった。

「……? おい、爆風、あれ」

「うん? ……あれは……」

俺たちの左手、遠く霞む先に立ちのぼる、煙。

それは空へと線を描いてから、溶けるように広がっていた。


「山脈の麓にある町はまだ先です。ひとつ手前の村でしょうね。そろそろ街道にも近くなっているはずですから」

聞く前にラウジャが答えてくれる。けれどその表情は、苦痛を訴えるかのようなものだ。

彼女は太い腕で頬の傷痕をこすり、唸った。

「焚き火ではありませんね……あれは、なにか燃えています」

さっきの地震の影響か、否か。それすら判断はつかない。もしかしたら、暗殺者もそこにいるかもしれない。

でも、もし村が燃えているのだとしたら、手助けが必要なんじゃないだろうか。


――行くか、行かないか。

そんなの、普段なら俺はきっと迷わずに……。


「好きにしろ逆鱗。付き合うぞ」

「大丈夫ですよハルト君。君は幸運の星です」

「えぇっ?」

俺は爆風とシエリアの声に、思わず眼を見開いて振り返った。

な、なんか……考えてることが筒抜けな気がする。

「はははっ、いいじゃないか! 暗殺者がいたらあたしが叩き潰してやるよ」

ラウジャまで、物騒なことを言って笑う。

けど、俺も思わず笑ってしまった。

「……んじゃ、見に行くとするか!」


俺が下した決断の先になにがあっても、背中を押して共に走ってくれる人がいる。

……皆も、きっとそうやって進んでいるはずだ。そう、思った。


本日分の投稿です。

また寒くなりましたね、温泉とか行きたいてす……。

いつもありがとうございます!

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