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逆鱗のハルトⅡ  作者:
163/308

下す決断の先には。③

……後方から迫る三人、先頭は男。後ろは男と女で、ぱっと見は『町人』だった。

一般人のふりをして、シエリアを暗殺するつもりだったんだろうか。


「一応聞いてやる! 俺たちになにか用か?」

声を張り上げるけど、当然返事はない。ただ、研ぎ澄まされた冷たい殺気が増していく。

……五感アップがなくてもここまで感じられるのは、爆風の『遊び』とやらの賜物かもな。


すると、後ろのふたりがそれぞれ、袖の内側からナイフを出した。……柄には紐が繋がっている。

湿地の町、テアルーで出会った探索専門のトレージャーハンター、ゴウキと同じ武器だ。


「そっちがその気なら、応戦するからな!」

俺は再び宣言して、爆風と目配せし、頷く。

すると、先頭の男がサッと左手を水平に上げ、後ろふたりが街道を逸れようとした。

――シエリアを追わせるつもりだ。


「爆風! ふたり、いけるか?」

「ふ、俺を誰だと思ってる」

さすが、頼もしい返事。

深みのある渋いいい声とともに、爆風は道を逸れたふたりへと進路をとる。

それを確認して、俺は体を前に倒すようにして、馬の首をぽんぽんと叩く。

「……ごめんな、付き合わせて」

鼻息を荒げた馬は、ぐいっと速度を上げた。


「……」

正面、男の顔がはっきり見える。

白いシャツにベージュのだぼついたパンツで、暗闇の中でもよく目立つ。

武器らしいものはまだ見当たらない。

俺は眼を凝らした。……バフはかかっていないように感じる。

「まずは、動きをとめないと……よし」

左手に手綱をしっかりと握り、右の剣を構え、俺は真っ直ぐ突っ込んだ。

相手も、迷いなく突っ込んでくる。


「おおおおっ」

すれ違いざま、俺は相手の腕に剣を振り抜く。

……あまり長い剣じゃないから、馬がすれすれを走ってくれないと届かないのに、俺の黒い馬は臆することはなかった。


……ガツッ!


「……っ」

鈍い感触に、馬の手綱を引いて向きを変えながら、顔をしかめた。

俺の一撃を受けた右腕を包み込むように、篭手が装備されている。

その先端には、暗闇の中、ぎらりと光る刃が延びていた。


……だぼついたパンツの中に隠してあったようだ。


相手は俺を『敵』と認識したのか、馬をこちらに向ける。

シエリアを追うことはなさそうだ。

小さく安堵の息をつき、ちらと爆風を覗う。当然のようにふたりを相手にし、爆風は吹き荒れていた。

あっちは問題ないだろう。


……まだ、若い。俺よりも下に見える。

闇に映える金の髪、優しそうに見える目尻の下がった眼。


「お前たちは、なんだ?」

荒ぶる馬を諫めながら、聞く。

けれど、男は俺の問いかけを完全に無視して、予想外の行動に出た。


ヒィンッ、と、まるで悲鳴のように男の馬が鳴く。

俺に向かって走りだすその馬上で、男は膝立ちになり――跳んだ。

「なっ……うおあっ!?」


『普通なら』あり得ない跳躍だった。


閃く刃。

俺を乗せた黒い馬が荒ぶって前に進んだのは、偶然か、それとも俺を危ぶんでのことか。


「っく、そ……!」


上半身が後ろに引っ張られるような形になり、男の刃が逸れる。

辛うじて抜いた左の剣も合わせ双剣でその刃を捉えて、俺は男と縺れるようにして転落した。


がっ、ごろごろごろっ……。


「逆鱗ッ!」

爆風の声がする。

「ペッ……大丈夫!」

土が口の中に入ってジャリジャリするのを吐き出して応え、俺はすぐに体勢を立て直す。

「反応速度アップ、速度アップ、肉体硬化、肉体強化ッ」

バフをかけ直し、地面に打ち付けて痛む体に鞭を打つ。

男は俺と同じように膝立ちになり、右腕の武器を構える。


……あの跳躍、どう考えても脚力アップが重なったような距離だった。

シエリアやラウジャが言っていた通り、強化されているような。


どんなに眼を凝らしても、バフを纏っているようには見えない。 

こいつ、やっぱり……。


めまぐるしく考える俺に、再度男が動いた。

膝立ちのまま両手を突き、ぐぐっと身を屈めて…………来るっ!


ギインッ!


放たれた矢のような速度で男が迫り、刃を閃かせて繰り出してくる。

俺は真っ向からそれを受け止めた。


肉体強化してる俺の力で、それがやっと。

グランやボーザックなら弾き返すくらいは出来たかもしれないが、俺はギリギリと押され始めた。

「……っ、く、そぉ……っ」


紅い……眼。

血走ったその眼が、瞬きもせず、見開かれたままで俺を見ている。 

目尻の下がった優しそうな眼のはずなのに、異様な雰囲気を纏っている男は、無言のまま。

どう考えても……この状態は、『血結晶を摂取』しているものだ。


「……肉体強化、肉体強化ぁっ!」

俺は反応速度アップと速度アップを上書きして、歯を食いしばる。

押されていた双剣が、ぎりぎりと男を押し戻し始めた。


「おおおっ!」

気合一閃。


俺はとうとう男の刃を跳ね上げて、立ち上がり様に足を振り抜いた。


ドゴオッ!


腹を捉えた俺の一撃に、体を折って踏鞴を踏んだ男の顔が、歪む。

「……」

それでも声すら出さない男に、戦慄した。

……でも、今は手を緩めるわけにはいかない。俺は容赦なく、男の顎を蹴り上げた。

頼む……倒れてくれ!


しかし……。


ピイイッ!!


顎を打たれて後ろに転がるかのように見えたのに、そのまま手を突いてくるり、と回った男は、左手で指笛を吹く。


「逆鱗っ、逃がすな!」

「え……っうわ!」


爆風が相手をしていたふたりが、馬で駆け抜ける。

暗闇の中、土埃が上がった。


……駆け抜けざまに男を引き上げて、二頭の馬と三人は、そのままアーラギの方へと走って行く。


「逃げられたか……」

爆風が、ぽつんと呟いた。



ねおちしちゃいました!

すみません!

16日分です。

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