下す決断の先には。②
俺たちを追ってどんどんと距離を詰めてくるのは、三人の人影。
やっぱり、アーラギで殺気を放っていた奴等だろう。
彼等は俺たちの馬よりも速さに特化した、少し細身の馬を駆っている。
かなりの速さで走らせていることから、馬を潰してでも俺たちに追い付く必要があるんだろう。
少なくとも、友好的な関係を築きたいわけではないはずだ。
五感アップで研ぎ澄まされた感覚で、俺はまだ距離があるそいつらを確認し、考える。
爆風は害が及ぶなら狩ると言い切った。暗殺者だとしたら、間違いなくそうするだろう。
……もしユーグルだとしたら、シエリアを逃がすことに集中すればいいから、その方がよかった。
でも、たぶん、違う。追い掛けてくるのは『魔物使い』ではなさそうだ。
俺の感覚には、人と馬しか引っ掛からない。
魔物は、近くにいないのだった。
戦うことはもう避けられそうになく、俺は双剣を取る。
シエリアを、ラウジャを思うと、甘いことを言っている場合ではないと思った。
……でも、俺は。
脳裏に過るのは、白薔薇の皆。
ディティアが、白薔薇らしい解決があると言ってくれたときの光景。
……俺の心は、決まった。
「……爆風!」
「なんだ」
びゅうびゅうと風が鳴り、髪がめちゃくちゃに靡いている。
ドドッ、ドドッ、と揺れる馬の背は、俺を奮い立たせているように感じた。
俺はラウジャと並んだ爆風に馬を寄せ、息を吸う。
「シエリアとラウジャを先に行かせてくれ、俺が……戦う」
「……ほう?」
「ちょっと、面白そうにしている場合じゃないですよ爆風のガイルディア! ……あんた、馬鹿言わないんだよ、逆鱗。三人相手なんて、死にたいのかい?」
駄目だと怒鳴るラウジャに、俺は首を振った。
「わかってる、ラウジャ。……だから、爆風。俺を手伝ってくれないか」
「……は?」
ラウジャが、上擦った声をこぼす。
俺はそれに苦笑して、続けた。
「……俺、命を狩るのは賛同出来ないって、甘いこと考えてる。……でもそれは、俺と皆で……白薔薇で、決めたことなんだ。だからここで俺が曲げたら……後悔する」
「……あんた……」
ラウジャは、呆れたような、微笑んだような、微妙な顔で言葉を呑み込んでくれる。
「だから……爆風のガイルディア。制圧するのを、『手伝って』くれないか。俺が、俺の裁き方をするために」
――少しの、沈黙。
やがて、爆風は空を仰ぎ見るようにして、笑い出した。
「ふっ、ははは! そう来たか。俺に、手伝えと? はは、ふふふっ……うん、いいだろう逆鱗のハルト! 手を貸してやる。指示を出せよ?」
俺は、その言葉に、思わず唇を噛んだ。ちょっとだけ、鼻の奥がツンとする。
気恥ずかしくて眼を逸らし、俺は腕で顔を隠した。
「……任せろ、バッファーらしく戦ってやるさ。その……ありがとな」
ラウジャは「爆風のガイルディアが残るなら、その話に乗ってあげるよ」と苦笑して、シエリアと一緒に先に行くことを受け入れてくれた。
シエリアは驚いたようだったけど、俺が大声で頼むと馬の背で器用にこちらを振り返り、三白眼を細めた。
「幸運の星がそう言うんですから、正しいのでしょうね。……ハルト君、この先の村で待ってます!」
たぶん笑っているのだろうその顔に、俺も笑ってみせる。
「幸運の星ってのが未だによくわかんないけど、まあいいや。……後でな」
彼等の黒い馬が嘶き、速さを上げるのを見送って、俺は爆風とふたり、ぐるりと旋回した。
鼻息荒く従う黒い馬は俺の気持ちに応えてくれるのか、迷いなく後方から迫る馬たちへと向かっていく。
「行くぞ、爆風!」
「いいだろう」
「……よし、速度アップ、速度アップ、肉体強化! ……まずは小手調べだ!」
俺は五感アップを消し、バフを三重にして、双剣を空へと掲げる。
「お前等の相手は俺たちだ! ……かかってこい!」
俺と爆風を乗せる黒い馬たちが、共に大きく嘶いた。
きりよくしたかったので少し短めです。
よろしくお願いします。書籍化に向けて動いています。
いつもありがとうございます!




