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逆鱗のハルトⅡ  作者:
158/308

暗殺者の影には。③


ハンナは俺達がこの後どこに行くのかを確認した後、ローブの裾でごしごしと右手を拭いて、そおっと爆風へと差し出した。


「……あの、爆風のおじ様。私、伝説たる貴方にお会いできて本当に光栄でしたのよ。いつか、貴方や爆炎のガルフ様のようになりたいと思うのですわ」

爆風が苦笑しながら握手を交わしたのを眺めながら、俺は思わず突っ込んだ。

「爆炎のガルフは見た目だけならお前そっくりな黒ローブだけど」

「逆鱗、お前は黙っていてくださる?」

ぴしゃりと拒否されて、俺は口をつぐむ。

ところがハンナは、少し間を置いて付け加えた。

「……まさか爆炎のガルフ様とも知り合いですの?お前……」


……そうか、あんなお爺ちゃんメイジだけど、ガルフも伝説の爆の冒険者なんだもんなあ。

何となく感慨深い。


俺がこくこくと頷くと、ハンナは悔しそうな、残念そうな、とても複雑な心境を顔に出した。

「お前に頼むのは不本意ですのよ。でも、爆風のおじ様に頼むのは申し訳ないから、今度、紹介するのですわ逆鱗」


こうして、ハンナは荷台で何度も振り返りながら、名残惜しそうに去って行った。


…………

……


俺と爆風の部隊にいた、弓使いのカント、長剣と盾使いのルミール、派手に鎧を溶かされてしまった戦斧使いのヴォルードにも挨拶をして、俺達の馬車はまた進み出した。


探索専門であるゴウキが商人達にも報せてくれた通り、雨季はすぐそこらしい。

進んだ分だけ雨足は強くなり、窓を叩く雫の激しい音が耳朶を打つ。


けれど、いいこともあった。


雨季が早く訪れることで、魔物達も動物達も自分達のことで手一杯らしく、こちらに寄ってくる気配が全く無かったのである。


「平和だねぇ」

ラウジャが窓の外を見ながら、手を留めた。

戦斧を磨いていた彼女の横では、シエリアがこっくりこっくりと舟を漕いでいる。

爆風も床に寝っ転がって向こう側を向いているが、彼の場合は起きているのか寝ているのかよくわからない。


「そうだな」

応えながら、俺は自分の手のひらに集中した。

……遅くするバフ、遅くするバフ……。

心の中で呪文のように唱えながら、魔力を練り上げていく。


手のひらの上、魔力がバフとなって練り上げられていくんだけど、やっぱり安定せずにぐにゃぐにゃと渦を巻き始めた。


ディティアが爆風に殴られて転がって、俺はあのとき、どんな気持ちでバフを練ったのか……それを思い出す必要があるんだろうな。


俺はため息とともにバフを空気に溶かして、とりあえず今はデバフを練るよりも考えることが先決だと判断した。

ただ、手持無沙汰なのは間違いないし……双剣を磨くことにする。


幸い、考える時間は充分にあった。


******


あのとき。研究都市ヤルヴィの兵舎で。

……グラン、ボーザック、ファルーア、そしてフェンが見守る中、ディティアは爆風に挑んだ。


双剣の柄で殴られて腫れあがった頬を思い出すだけで、喉の奥がぐっと詰まるような感覚がして、息苦しい。

容赦なく突き込まれる攻撃に、俺は……身体中の血が熱くなったような気がしたんだ。


怒り……というには、もっと強かったような。


彼女の助けになりたかった。

見ているのが辛すぎて、せめて一緒に戦いたかった。


『ティアが……いや、きっと俺達がさ、ハルトの逆鱗なんだよ』


ボーザックがそう教えてくれたのを思い出す。

……うん、そうだな。守りたいって思った……そういうことなんだ。


俺は無意識に皆を守りたいと思って、バフを練ってるんだろう。


だから、デバフを練るときに考えるとしたら同じように……。


「……逆鱗、同じところばかり磨いているぞ」

「うえっ!?」

瞬間、手元に落ちた影に、俺は驚いて顔を上げる。

その弾みで取り落としそうになった双剣の一本を、白髪混じりの黒髪の紳士然とした男は難なく掴む。


「五感アップバフも切れたようだぞ、集中するのはいいが根を詰めすぎるな」

――爆風が、俺の双剣をくるりと回しながら、呆れた顔をしていた。


…………

……


ラウジャとシエリアはいつの間にか吐息をたてていた。


俺は五感アップをすぐにかけ直し、何を考えていたか説明しながら双剣を磨かされているところである。

途中で何回も磨き残しを指摘され、その度にディティアを思い出す。


磨ききるのに夜中までかかって、寝不足だったこともあったなぁ。

最近は注意されるところも少しずつ減っていたはずだけど、ちょっとサボりすぎたかも。


『ハルト君! ここ、まだ磨き残しがあるよ!』

……なんて、唇を尖らせる彼女の声が聞こえるようだった。


「ディティアもさ、すごく細かいんだよ」

思わず言って口元を緩めると、爆風は肩を竦める。


「お前が大雑把すぎるんだ、逆鱗」

「……ええ、そうか? ……いや、絶対ディティアと爆風が細かすぎるんだって」


俺は言いながら、手元の双剣に眼を落とした。


「……そういえばこの剣、ディティアが選んでくれたんだったな」

こういう曲線のものがいいと真剣に力説してたっけ。

しっくりと手に馴染む剣の重みを感じながら指摘された部分を磨いていると、爆風が笑った。

「うん、若者はいいな、逆鱗」

「は? 何だよ急に……」


訝しげな顔をした俺に、爆風はますます笑って言い募る。


「この双剣は、お前に合っているぞ。疾風はちゃんと、お前を見ているってことだ」


「……?」

どういう意味だろう。

見ていたら相手が使う剣の曲線まで選んであげられるってことか?


「俺も、ディティアの戦い方とか見てるつもりだけど……剣の反りまで指摘するのは無理」

思わずぼやくと、爆風は眉をひそめて首を振った。

「……そういう意味じゃないんだが……そうか、お前そういう奴だったな……」

「はあ? どういう意味?」

「……疾風も苦労するな」


盛大にため息をついてみせる爆風に、俺は首を傾げるのだった。




本日分です。

昨日は投稿できませんでした……すみません!

明日明後日は予定が詰まっていますので、出来れば更新します!

よろしくお願いします。

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