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逆鱗のハルトⅡ  作者:
154/308

咎人がもたらすものは。⑩

******


爆風が自分から狙いを外させないよう立ち回ってくれる間、俺はアダマスイータの脚を切断することを指示された。

ハンナを呼びに行ったヴォルードの大きな戦斧が一番いいんだけど……鎧が無い状態で戦わせるわけにはいかない。


大きなアダマスイータが後ろの四本脚で立ち上がった時、俺は腹にびっしりとくっついた黒い粒を確認した。


……うわぁ、あれが卵か。気持ち悪いな……。

俺でさえぞわぞわするのだ、ここにディティアがいたら手に負えなかっただろう。


肉体強化を三重にした俺とルミールは、カントの助けをもらいながら、数分掛けてアダマスイータの脚を二本斬り飛ばすことに成功する。


しかし、アダマスイータはしぶとく、六本になった脚でも凄まじい速さで前後左右に動く。

……小さい方の奴より圧倒的に強い。


「待たせたな!」

そこに、ヴォルードとハンナが草の間から飛び出してきた。


「そっちは?」

「無事、仕留めたのですわ。……主にラウジャが。それで、卵があるって……わああぅ」

聞くと、ハンナは爆風に向かって酸を吐くアダマスイータの腹を見て声を上げた。

最後は苦虫を噛み潰したように唇を歪めていたので、変な語尾になったらしい。俺は真面目に言った。

「気持ち悪いだろ?」

「ごほん、ごほん……あれが孵ったらと思うとぞっとするのですわ。……逆鱗、私にバフなさい」

ハンナは我に返ったらしく、わざとらしい咳払いをしてすまし顔で応える。


……まあ、あの気持ち悪いのを見てこれくらいの反応で留まるんだから……お前すごいと思うよ。命令口調なのはいただけないけどな!


俺は心の中で適当に褒めてから苦言を呈し、バフを練った。

「一気に焼き払う必要があるって爆風が言ってたから、威力アップ四重にするぞ」

「かまいませんわ」

「じゃあ頼む。威力アップ、威力アップ、威力アップ、威力アップ」


俺とハンナが会話している間に、ルミールは長剣でもう一本、脚を斬り飛ばした。


「爆風! 準備出来たぞ!」

「よし、広場の中央で燃やせ! 万が一卵から子蜘蛛が出てきたら対処しろ!」

爆風はひらりとアダマスイータの頭の前で反転し、広場の中央へと走った。

迷わずそれを追うアダマスイータに向けて、ハンナが杖をかざす。

「…………今だ、燃やせ!」


ザンッ!


爆風は中央で振り向き、双剣を振り抜いた。

白と黒の刃が煌めき、アダマスイータの前脚が……斬り放された。


『シャギャアアアアッ!』

「燃え盛りなさいッ!」


アダマスイータの絶叫と、ハンナの魔法が重なる。


ゴオ、と音がして、熱と眩い光を纏った炎がアダマスイータを呑み込んだ。

その熱に思わず、腕で顔を覆う。


『ギャシャアアッ、シャアアアッ!』


アダマスイータは、炎の塊となってもなお、暴れ狂っていた。

爆風が燃え盛る炎から突き出される脚を容赦なく切り裂いて、やがて、アダマスイータはひっくり返って炎の中に消え、見えなくなった。


油断なく窺っていたけど……子蜘蛛は出てこなそうだ。

何かが燃える嫌な臭いと共に、黒い煙がもうもうと上がっている。


「終わったか……」

爆風は双剣を振り払うと、鞘に収めた。

俺もゆっくりと構えを解いて、息をつく。


――足場は派手に焦げたけど、炎が燃え移る前に雨が降り始めた。

消火の手間が省けましたわ、とハンナは言いながら、ローブのフードを被る。

俺は熱を持つ頬に、治癒活性をかけた。


******


討伐後、念のために他にもアダマスイータがいないか見て回り、テアルーの町に辿り着いたのは三日後の夕方。

……そのほとんどの間、雨が降っていた。


道中のトレージャーハンター達にも討伐が成功したことを伝え、気を付けて帰るよう言いながら、俺と爆風、ラウジャとシエリアはバフを保ちながら先に戻った。


既に研究都市ヤルヴィを出てから十七日が経過していて、白薔薇の皆と合流するまでのおよそ六分の一の日数を消費してしまったことになる。

雨もこのまま降り続けば道が変わってしまうため、少しでも急ごうってことになったのだ。


爆風は「旅に遅刻は付き物だが、かなり遅れているぞ」と歯を見せて笑ってたけど……笑いごとじゃないからな……。


他の部隊メンバーに俺達はすぐソードラ王国に発つことを告げて、今後のアダマンデの討伐をお願いしてある。

それは、ゴウキとハンナが中心となってやってくれるとのこと。


ちなみに、言うまでもなくハンナは付いていくと駄々をこねたんだけど、湿地を馬車で抜ける時にもう一度会えるだろうと爆風が宥めることで渋々諦めたようだ。



そんなわけで、トレージャーハンター協会テアルー支部で、アダマスイータが四体だったことを含めて討伐完了を報告。

すぐに出発したいことも相談すると、次の町で報酬が受け取れるように手配してくれた。

一人当たり固定報酬五千ジールに加えて、討伐の報酬が一万……あれだけやってそれだけ?って気はするけど……まあ、ゴネても仕方ない。


次の町は湿地を抜けた先、ソードラ王国との国境にある。


俺達はすぐに装備を整え、食糧等を買い足して、これから出発してくれる馬車を探しに出たんだけど。


アダマスイータの討伐が終わった上、討伐ではリーダーを務めたラウジャ、そして伝説の爆の冒険者がいるってことで、馬車はすぐに見付かった……というか、向こうから接触してきたんだ。

……湿地が通行止めになってしまって、足止めをくっていた商人達である。


「……流石に五台は、何かあった時に守りきれませんよ爆風のガイルディア」

あれよあれよと集まった馬車は五台。

連なる馬車を見てぼやくラウジャに、しかし爆風は笑う。

「なあに、一緒に行きたいトレージャーハンターもいるだろうから協会支部で声掛けすればいいだろう」

「成る程、それはありそうですね」

シエリアが応えて、三白眼を細めて馬車を見回した。


これ、ハンナがここにいたら付いて来ただろうな……。

俺はそう思って、ちょっと笑ってしまった。


土日分の投稿です!

よろしくお願いします!

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