咎人がもたらすものは。⑧
「行くぞ! 逆鱗!」
「わかってるっ……ハンナ走れ! 速度アップ、速度アップ!」
俺はハンナの威力アップを二つとも書き換えて、双剣を振り上げて飛び離れた爆風より先に、広場を繋ぐ木道へと飛び込んだ。
ハンナも付いてきているのを確認し、その後ろになった爆風へ視線を走らせる。
三体になったアダマスイータが、威嚇音を発して最初の獲物である爆風に向き直る……くそ、速い!
「ハンナ急げ!」
「い、急いでますわっ」
「速度アップ!」
俺はハンナの反応速度アップも書き換えて、速度アップの四重にしてやった。
少し足踏みしてハンナを先に行かせ、草で覆われて視界が悪い中を、爆風より先行して突っ切る。
今はそれどころじゃないっていうのに、何で四体いるんだ! とか、二体相手ってどうすんだよ! とか、思考がぐるぐるした。
ザザザザッガサガサッ!
突如視界が開け、転げるようにして広場に出た俺は、眼の前で盾を構えていたラウジャに背を向け、怒鳴った。
「二体は俺達の部隊がもらう!ラウジャは一体を!」
「二体って……失敗したのかい!?」
「四体いたのですわ! 来ますのよッ!」
距離を取りながらハンナが答えてくれる。
「速度アップ、反応速度アップ、肉体強化!」
俺はラウジャの部隊にバフを広げ、飛び出してきた爆風に頷いて見せる。
爆風はすぐさま俺の隣で向き直り、腰を落とす。
「気張れよ逆鱗ッ」
「任せろっ……威力アップ、威力アップ!」
ハンナのバフも書き換えて、俺は双剣を構えた。
爆風を追って、黒い塊が再び飛び出してくる。
ここでまた一体を引き剥がさないと……!
『シャアアッ……ガッ』
先頭の一体が、二本の前脚を高く上げ、口から液体を吐き出す。
跳んで避ける爆風。
今の今まで彼の足があったその場所で、ジュウッっと白い煙が上がった。
『シャアッ』
爆風の着地を狙い、もう一体がすかさず回り込んで前脚を上から振り下ろす。
再度跳んだ爆風と入れ替わるようにして、俺は双剣を振り上げた。
「はああっ!」
ザクリ、と鈍い手応え。
斬り飛ばすには足りなかったけど、俺でも傷ぐらいは穿てたようだった。
『ギシャアッ!』
「お前の相手は俺だろう?」
俺を見据えたまま横に移動したアダマスイータに、今度は爆風が仕掛ける。
アダマスイータは即座に爆風に狙いを戻し、四本の前脚を高く上げ、威嚇のような体勢をとった。
……最初に狙った獲物を優先的に追うってのは間違ってないようだ。
「こいつをもらうよっ! お前達、気張りな!」
その間に、飛び出した別の一体をラウジャが横から戦斧で斬り付け、他のメンバーが取り囲む。
「凍りなさい!」
狙い澄ましたように、ハンナが杖を掲げた。
ラウジャ部隊と一体のアダマスイータが、氷の壁の向こう側へと分離される。
「私はあちらに合流しますの! 行ってくださいませ!」
ハンナの声に、爆風は威嚇する一体を無視して、最初に液体を吐いた奴の前へと飛び出す。
その後ろを追い掛けようとする二体目の後ろ脚に、俺は双剣を繰り出した。
また、鈍い感触。
『シャアッ』
たまらず向き直る二体目。
……最初に液体を吐いた奴の方が、二回りは大きいようだ。
俺は、小さい方のアダマスイータの頭にギラギラと光る三つの複眼を睨みつけた。
――いいぞ、ちょっとだけこっち見てろよ!
「やるな逆鱗!」
注意を逸らした二体目の横を、爆風が風のようにこっちへ駆けてくる。
その後ろから、大きい方のアダマスイータがガサゴソと這ってきていた。
俺の後ろには、広場へ続く木道。
俺はすぐに踵を返し、爆風より先に自分の部隊が待つ広場へ向かって走り出した。
一体は爆風が受け持って、その間に弓使いのカント、長剣と盾のルミール、戦斧使いのヴォルードと一緒にもう一体を仕留めてしまえばいい。
ちゃんと話し合っていたはずだ、大丈夫……!
漸く考えがまとまったのに、心臓は思いのほか早鐘のように脈打っている。
『シャアアギャアアアッ!』
……俺と爆風の後ろで、二つの黒い塊が激昂した。
3月1日分の投稿です。
来週から忙しくなるので、また21時~24時更新を目安とする予定です。
よろしくお願いします!




