樹海は未知の領域です。③
そうこうしている間に、俺達は一際大きな巨木に辿り着いた。
そこは少し拓けていて、雨の中、枝を広げるその巨木が真ん中にどんと立っている場所だ。
近付いてみると、樹の裏手、小さな入口の中に大きな室があって、成る程、しっかり休めそうだ。
「はい、お疲れ様でした皆さん。お昼にしましょう!」
ナチがぽん、と手を叩く。
「はあー、お腹空いた-!」
ボーザックが笑う。
俺達は室の中に入って、まずは服の水気を払った。
頭もびしょびしょになったけど、これは女性陣……特にファルーアが1番しんどいと思う。
フェンはポンチョで戦えるから、お気に入りらしい水色のローブで満足げだ。
「ここなら警戒もしやすいな」
魔物が室の死角からやって来ても、入口があまり大きくないからここで仕留められそうだ。
それに、いざとなれば入口を岩で塞げるようになっているのも考えられている。
「ここは毎回使うので、少しずつ改良してます。火を起こすことも出来ますよ」
ナチが教えてくれて、備蓄された炭にファルーアが火を付けてくれた。
空気を流すための穴がちゃんとあるんだってさ。
ありがたい。
そんなわけで、皆で火を囲み、昼食。
水を補給出来る場所がすぐ近くにあると聞いて、折角だからと鍋を出して、簡単なスープも作った。
それを分けて、皆で食べ始めると、ナチがスープをふうふうと冷ましながら言う。
「……思いの外、早く進めています。今日は夕方にここに到着予定で、そのまま泊まることを提案するつもりでした」
「ほお、そりゃあ上々だな。……今日はどうするんだ?雨で暗いが……まだ昼間だろう?」
ナチにグランが返すと、ナチは笑った。
「それ、僕が決めて良いんですか?リーダーに従いますよ」
「え?いや、むしろ決めてくれないと……俺達は地理もわからないし、樹海のことも全然知らないよ?」
ボーザックが驚いて、スープを運ぶ手を止める。
「そうだね、やっぱりナチ君とヤチ君の意見がすごく大事じゃないかな?」
ディティアも援護射撃をして、ファルーアが締めた。
「そうね。この『仕事』の主導権は、貴方達にあるわ。意見を聞かせてくれるかしら」
ナチとヤチは顔を見合わせて、眉をひそめる。
「皆さん、お人好しなのは結構ですけど……そんなんじゃ宝を奪われちゃいますよ?トレージャーハンターは我先にいかないと……」
「……もっと、焦った方が……」
双子に言われて、今度は俺達が顔を見合わせた。
「宝って?……そういえばこの依頼の報酬って何だっけ?」
ボーザックが言う。
「あれ、私はてっきり、トールシャでの冒険の仕方を教えてもらうこと自体が報酬かなって思ってた……かな?」
そしてディティアが。
「まあ、そもそも俺達はトレージャーハンターじゃねぇしなあ」
グランが拾って、
「そうね。がつがつ行って致命的な間違いにでもなったら、そもそも宝どころじゃないわよね」
ファルーアが投げ返す。
双子は、口をぽかんと開けて聞いていた。
……しばらく間があったから、俺は口を挟む。
「……それで?意見は?」
「わふっ」
寝そべって乾肉を噛んでいたフェンが、便乗した。
「あ、ええと……日が暮れちゃう可能性はありますが……次の休憩地点があるにはあって……」
漸く、ナチがこぼす。
それを聞き取って、白薔薇のリーダーは頷きながら顎髭を擦る。
「わかった。おい、急いで喰え。すぐ出るぞ」
グランの即決に、皆、無言で昼食をかき込み出したのを見て、ヤチが呟いた。
「……想像の、斜め上すぎます……」
******
雨の中、歩みを進める。
土から盛り上がった根は濡れて滑るから、注意が必要だ。
俺は皆に反応速度アップをかけて、咄嗟に対応出来るようにした。
俺達からしたらトレージャーハンターの方がよっぽど斜め上すぎるんだけど、ナチもヤチも腑に落ちないらしい。
「そもそも、トレージャーハンターは未知の宝を求め、未開の地を行くんです」
「そう。……その過程で、戦闘に特化した人が、必要になる」
「だから、探索専門のトレージャーハンターと、戦闘専門のトレージャーハンターが対で仕事するんです」
「つまり、その場合の宝は、主導権を握ったトレージャーハンターが、より多くを受け取る権利が、ある」
「わかります?……皆さんは、主導権を僕達に渡しちゃったわけで……」
「おーおー、わかったわかった。そもそも宝がこの『仕事』にあるのか?」
グランが苦笑しながら言うと、ナチは先頭を歩きながら思い切り首を振る。
「宝があるか無いかじゃないんですってば!豪傑さん、名前の通り豪傑なのは身体だけにしてください!」
「ぶはっ、あははっ、グランうけるー!……あいたっ!」
笑うボーザックの肩に一撃を見舞って、グランはますます苦笑した。
「……お前ら、意外と失礼だな」
……いやいや、意外でも何でもないけど?
俺、めっちゃ言われてたけど??
「僕は……何も言ってません」
「ちょっとヤチ?弟のくせに兄を売る?」
「今のは、ナチが悪い」
じゃれ合いを始めた双子に、ディティアとファルーアも笑った。
一通り雨粒を振り払ったのか、雲が晴れて少し明るくなり、雨があがる。
「本当に、調子狂うなぁ……!」
ナチがふんと鼻を鳴らして、付け足した。
「雨が上がりましたから、飛ばしますよ!主導権はいただきましたからね!」
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