咎人がもたらすものは。④
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アダマンデを捕獲する必要は無くなった。
ラウジャが笑いながら「爆風のガイルディアなら安心ですよ!」と背中を叩くのを、爆風は不本意そうな顔で受け止めている。
うん、痛そうだ。
俺達は昼食を広場で済ませ、アダマスイータを発見するために出発した。
ゴウキが言うには、このすぐ先にアダマンデが好む草が群生しているらしい。
その付近でアマダスイータを見付けられれば、急いでテアルーに戻って討伐開始となる。
……ただ、ちょっと空が暗いのが心配なんだよな。
雨の中の討伐はしたくないし、何より五感アップで雨音も大きく拾ってしまう。
泥や苔の臭いが強くなるようだと、鼻もやられかねない。
午前中よりもさらにもったりとかかった雲は、黒っぽくどんよりしていて、不安を煽る。
ラウジャ曰く、雨季はもう少し先ということだったけど……ずれないとも限らないとか。
急がないとならないんじゃないかなあ。
「爆風のおじ様、アダマスイータは草や岩の間に身を伏せるそうですわ。アダマンデを見付けたらご注意くださいませ」
相変わらずハンナは爆風の傍を付いて回っており、爆風はひたすら笑顔を貼りつけている。
頬の筋肉が痛みそうでちょっと可哀想な気もするけど、ハンナは俺が近付くとものすごく冷たい眼で見てくるのでそっとしておいた。
……まだ首根っこを掴んだこと、根に持ってるのか?
だとしたら心の狭い奴である。
――数十分も歩くと、ラウジャが後ろ手で俺達に止まれと合図した。
「この背の高い草を越えたら草地に出るよ。気配は……結構あるように思うが、どうだい?」
「逆鱗、もうひとつ重ねてやってくれ」
「はいよ。……五感アップ」
俺と爆風は元々二重にしていたので、爆風の指示で残りの3人に重ねてやる。
気配は色濃く、何かの群れと思わしきものを感じさせていた。
「これは……やはり凄いな、逆鱗」
ゴウキが心なしか嬉しそうにそう言って、身を低くする。
彼はラウジャの横から、そっと前に出ると、少し先を伺ってから戻ってきた。
「間違いない、アダマンデがいる。数は30といったところだ」
「結構な数ですわね」
「あとはアダマスイータがいるかどうかですね」
ハンナとシエリアが応えて、俺達は注意深く気配を探った。
……その時だった。
『ギュウイッ! ギュウイッ!』
けたたましい音が、耳をつんざく。
草の向こう側、激しく聞こえ出すその音は、おそらくアダマンデの発する鳴き声。
しかし、そのとんでもない音量に、俺はたまらず顔をしかめた。
「う、うるさいですわ!」
「警戒音だね……! 何か問題が起きたんだ」
耳を塞ぐハンナに、ラウジャが声を上げる。
『ギュイイッ!』
『ギュウゥイッ!』
駄目だ、どんどん大きくなる!
頭の中まで響いてくる警戒音に、俺は動いた。
「バフを消す! 周りに気を付けてくれ!」
皆のバフを消すと、音は我慢出来る程度になる。……それでも、激しく鳴きまくるアダマンデに、俺達はお互い顔を合わせて、草地の方へとそっと移動した。
木道は、草地を右手に、小さな池を左手に見る形で作られている。
身体を低くして出ていくと、黒いトカゲのような魔物が激しく駆けまわる異様な光景が視界に飛び込んできた。
トカゲ達の背中にはコブがあり、俺はあの部分が硬いと言われている箇所だと思い出す。
草地はそれなりに広く、見た感じではぬかるんでないようだ。
その中を、渦を巻くようにぐるぐると周って走っているアダマンデ達が、激しく鳴き交わしていた。
「……何ですの……? あんな走り方しても逃げられないじゃないですの」
ハンナが、眉を寄せて茫然と呟く。
次の瞬間、俺達は思わず木道に這いつくばる程に身を低くした。
『シャアアーッ!』
草地の向こう、異音と共に草の間から飛び出してきたのは、黒い大きな塊。
直撃されたアダマンデの群れが二つに分離し、一頭が転げる。
「アダマスイータ!」
「動くんじゃないよ!」
声と一緒に顔を上げそうになったゴウキの頭を、ラウジャが木道に押し付ける。
……大きな、黒い蜘蛛だった。
息を殺す俺達の前で、長く太い脚が転げたアダマンデに振り下ろされる。
聞いていた通り、脚を入れたら相当なデカさだ。……何より、速い。
正直、今まで見てきた魔物で、彼奴より速いのはフェンくらいだと思う。
「おかしいですわ、群れが……逃げない」
ハンナが、息を殺したまま言うのが聞こえる。
アダマンデの群れは、草地から出ればいいのに、未だその中を文字通り右往左往していた。
……そして。
『シャギャアーッ!』
『シャアーッ』
俺は、息を呑んだ。
……更に、二体。黒い塊が、アダマンデの逃げ道を塞ぐ形で、飛び出してきたのである。
アダマンデ達の混乱は最高潮に達した。
散り散りに逃げ出そうと動き、そこを三体のアダマスイータが次々に仕留めていく。
「どういうことです……? アダマスイータは群れないはずです!」
隣に伏せているシエリアが驚愕の声を上げた。
その間も、アダマスイータはアダマンデを蹂躙し、液体を吐き出す。
液体が触れた箇所からは白い煙のようなものが上がり、酸か何かだと予想出来る。
三匹がそれぞれアダマンデを囲むように素早く動く様は、恐ろしい程に統率が執れていた。
「これ以上は危険だ、下がるぞ」
――生きているアダマンデの殆どが草の間に消えた頃、爆風に言われて、俺達は息を殺し這いずるように来た道を戻る。
あれを、一体ずつ引き離し、仕留めなければならないのか……。
厄介な魔物だということを、俺は実感するのだった。
土日分の投稿です!
遅くなってすみません、よろしくお願いします。
いつもありがとうございます!




