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逆鱗のハルトⅡ  作者:
146/308

咎人がもたらすものは。②

……兎にも角にも。

俺は爆風と相談して、ラウジャ、シエリアの話を聞くことにした。

ハンナとゴウキは、申し訳ないけどちょっと外してもらうことになる。

それを告げられて盛大に頬を膨らませるハンナが、煮魚、焼き魚、魚の炊き込み飯を背に憤慨していた。


……正直それどころじゃないけど、結局全種類作ったんだな。


「折角のご飯が台無しなのですわ! 温かい内に爆風のおじ様に召し上がっていただきたいのに、何事ですの?」

「ハンナ。わがままを言うな。退っ引きならない事態のようだ」

「それくらいわかりますわ! ……文句を言うくらい許すべきですわ」


ゴウキがなんとか宥めてくれているようで、俺は両手を合わせて頭を下げた。

……ありがたい、ごめんなゴウキ!


俺は二人のいる部屋とこちらを隔てる扉を閉めて、向き直る。

既にテーブルには爆風、ラウジャ、シエリアが着いていた。


「で、詳しく聞きたいってのは何でなんだい?」

早速ラウジャが質問を投げてくる。

俺も椅子を引いて座り、爆風と話した通りに答えた。


「地殻変動を調べてるって話したよな。シエリアを追っている奴等と地殻変動が関わってる可能性があるんだ」

「僕を追う奴等が……地殻変動と? ……えぇと、意味がわかりませんが、ハルト君が言うなら」

シエリアは拍子抜けするほどあっさり頷いて――っていうか、俺、何か随分高く見られているような気がするな――三白眼を細めた。

ラウジャはそれを聞いて仕方ないとばかりに大きな肩を竦め、右手で頬杖を付く。


「僕を追う奴等は、僕を暗殺しようとしています。……咎人のウルって呼ばれてることから、何か恨みがあるのではと思いますが……」

「シエリア、変なことを聞くんだけど、お前、何処かの王族だったとかないか?」

「……えっ、ハルト君、そこまでわかるんですか?」

「ってことは、やっぱり……」

「わかってるなら隠すこともないですね。……僕、自由国家カサンドラよりさらに北にある国の王家に連なる身なんです。ただ、僕自身は第七王妃の子供で、母は既に他界しています。王様には到底なれそうにありませんから、お家騒動ではなさそうで」


……ん、うん?

俺はこめかみをぐりぐりして、シエリアの言葉を脳内で反芻した。

魔法都市国家の王族の末裔じゃなくて? 今在る国の王子様?


爆風を見ると、彼も額に手を当てて項垂れていた。

これは完全に予想外だ。


「暗殺されかけて、シエリアは身内から逃がされた。あたしはシエリアに頼まれて、護衛任務に就いてるのさ。とは言え、襲ってくる奴等が何処の誰なのかは未だにわからなくてね」

ラウジャは話を引き継いで、面白く無さそうに鼻を鳴らす。

「話では、第七王妃はアイシャの出身だったとか。だから咎人だなんて言うんだろうけどね……ふん、あたしは腹立たしいよ」


アイシャの出身……つまり、その人がドリアドと血縁関係にあった可能性はあるだろう。

俺は爆風と眼を合わせてから、シエリアを真っ直ぐ見た。


「……シエリア」

「は、はいっ?」

「教えてほしい。……お前、古代魔法とか魔力結晶とか……何かそういうのに詳しいとか、ないか?」

「……ええっと、もしかしたら母は詳しかったかもしれません……」

「お前は識らないってことか?」

「ごめんなさい……母は僕に教えてくれませんでしたから……」

「あ、いや、謝ることじゃないんだ。……ありがとな」


俺は応えて、思いの外ほっとしたのを実感する。

……もしかしたらシエリアの母親は、シエリアを守るために教えなかったんじゃないだろうか、なんて思ったくらいだ。


「それで、爆風のガイルディア。そいつらと地殻変動がどう繋がるんですか?」

ラウジャは俺とシエリアの会話が途切れたのを見計らって、頬杖から顔を上げた。

左頬に縦に奔る傷跡を堂々と晒す彼女に、失礼かもしれないけど格好良いなと思う。

……俺は、ラウジャは信用出来ると考えていた。


「災厄と呼ばれている封印された魔物がいてな。それを蘇らせるのに地殻変動が起きると考えている」


爆風が答えると、ラウジャは眉を寄せた。

……まあ、当然の反応だろう。


「アイシャでも地殻変動の末に災厄の魔物が起こされたんだよ。で、ざっくり言うと、起こした奴は自分を犠牲にしたんだけど、そいつが『咎人のウル』って呼ばれてたんだ。だからシエリアと関係があるのかなって思った」

俺が付け加えると、シエリアとラウジャは揃って瞬きをした。


少し間があって、シエリアはゆっくりと頷くと、納得したような顔で呟く。

「つまり……災厄を起こすのに生贄……咎人のウルが必要なんですね」

それで僕を暗殺して捧げようと……と小さく付け加える辺りがシエリアらしい。


生贄……か。

確かに、災厄を封印するために立ち上がった人達は、伝承の中で『生贄』とされていたはずだ。

そもそも災厄になった人達だって、ある意味自分を生贄にしたようなもんだろう。


「難しい話は嫌いだけど、災厄とやらを起こそうとしてる奴等がいるってことだね。……爆風のガイルディア、あたし達はどうすればいいんです?」

「……うん、それなんだが……実際関係しているかまだわからない。ラウジャは引き続きシエリアを護衛すればいいだろう。ただ、連絡手段は確保しておきたいな」

「そうですね。……そうしたら、アダマスイータ討伐後は同行しましょうか? 地殻変動を調べに行くんですよね?」

「……む、そうだが……シエリアを危険に晒すことになりかねん」


ラウジャと爆風が話を進めるのを聞きながら、俺は心の中で「そうなんだよなぁ」と呟いた。

一緒に行動していれば、もしかしたら災厄を起こそうとしている奴を特定出来るかもしれない。

ただ、何が不安かって、相手がユーグルだった場合もそうだけど……何よりシエリア自身が危険に曝されるってことだ。


けれど、シエリアは……たぶん微笑んで……おっとりと言い切った。


「僕は構いませんよハルト君。……暗殺されかけてばかりも割に合いませんし……むしろ特定出来るならその方がいいですね」



22日分です。

夜に本日分を投稿予定です。


よろしくおねがいします!

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