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逆鱗のハルトⅡ  作者:
143/308

湿地に潜む闇には。④

******


その日の午後、大きな池……湖という方が適切かもしれない……に差し掛かった時。

『…………』

俺達は全員、無言で立ち止まった。


湖の中、何か大きな気配があるのが感じられる。

もちろん、アダマンデでもアダマスイータでもないんだろうけど、じりじりとした緊張感が俺の指先を冷やす。


「狙われて、います……」

シエリアが、腰のサーベルをゆっくり抜き放つ。

ごてごての鞘に収まっていたのは、見事な刀身。よく磨き込まれた刃が、太陽の光を散らした。


俺はこちらを窺っているような気配に、双剣を慎重に抜きながら囁いた。

「ゴウキ、何だと思う?」

「……魚型の魔物、ルスシャークだろう。脚があるから、水からも上がってくる。陸上で速さはそんなにないが水の中にいる場合は別だ」

「わかった。……反応速度アップ、速度アップ、肉体強化」

俺はバフを広げた。


全員の五感アップを上書きして、3重に統一。戦闘に備える。


「ハンナ、様子見て肉体強化を書き換える。魔法の威力アップか持久力アップ、どっちがいい?」

聞くと、爆風の隣にいたハンナは一瞬驚いた顔をして、言った。

「あ、あまり強い魔法は使えませんの。威力を上げてもらえるならその方が」

「了解」

たぶん、そんなことも出来るのか? という顔なんだろうと思う。


「準備はいいね? とりあえず、誘い出すよ!」

ラウジャがいち早く駆けるのに続いて、爆風がするりと動く。

さらにシエリア、ゴウキが続いたのを確認して、俺はハンナと一緒に動き出した。


まずは皆の戦い方を見ておかないと。

バフをするにも、個々を理解しておかないと合わせられないからだ。


白薔薇の皆とは目配せだけでも意思疎通が出来るんで、やっぱり全然違うんだと痛感する。


「さあ! かかっておいで!」

ラウジャの咆哮。

彼女が戦斧で盾を叩き、ガンガンと音を鳴らすと、気配が水の中を物凄い速さで動いた。


『キャシャアアア!』


ばしゃああんッ!


水飛沫と共に、黒光りする巨体が跳ね上がる。

耳をつんざくような鳴き声が響き、その巨体は木製の道に着地。

そのまま身体をくねらせて牙を剥いた。


「間違いない、ルスシャークだ!」

ゴウキが声を上げるのと、ルスシャークの鼻先にラウジャの戦斧が叩き付けられたのは同時。

『シャアアアッ!』


つるりとした細長い魚に、脚のような鰭が4本ある魔物だ。大きさで言えば、ラウジャ2人分くらいある。

ルスシャークは後ろの2本の鰭を使って、器用に立ち上がった。


「気を付けろ! 奴にはブレス攻撃がある!」

ゴウキの声に、ラウジャが飛び退く。


『シャアッ……ジャッ!』


水……だろうか。

細く圧縮されたブレスが放たれて、避けたラウジャの後ろ、水草が爆散した。


「結構な威力だな」

爆風がくるりと双剣を回す。


そこを、シエリアが身を屈めて一気にルスシャークに肉薄。

サーベルを突き込んだ。


ずぶっ……にゅるっ!


刺さったかに思えた一撃が、身体の表面を滑るのがわかる。


「何ですかこれ!」

「鎧の代わりに身体に粘液を纏っているんだ。弱点は……」

「私の出番ですのよ! そおれ凍りなさい!」


すぐさま身を引くシエリアに、ゴウキを遮ってハンナが杖を掲げる。

氷の粒が渦巻いて、ルスシャークを巻き込んだ。


『キシャアア!』


粘液の表面が、白くなっていく。

身をくねらせるルスシャークが、腹ばいになって……ゴウキが呻いた。

「まずい。突進が来る」

「この道で? ……ああっくそ! 脚力アップ、脚力アップ、脚力アップ! ……跳べ!」

「ええっ? と、跳べって……どういうことですの、わあああ!」


道をいっぱいに使った突進攻撃。

俺達はバフで思い切り踏み切り、ルスシャークの上へと跳び上がった。

ひとり反応の遅れたハンナを、俺と爆風で抱え上げる。


「ハンナ、逆鱗に掴まれ」

「えっ、爆風のおじ様っ、わあああっ!」


俺は問答無用でハンナの首根っこを掴む。

爆風は俺とハンナが着地するのと同時に、俺達の下を通り抜けたルスシャークへと踵を返した。

「おおッ!」

気合一閃。

吹き抜ける爆風がルスシャークの尻尾を襲う。


白く凍りついた粘液が、バリインッ! と派手な音を立てて散った。

「今だ」

近くに着地していたゴウキが、右腕を振り抜く。


縄の先に括り付けられたナイフが、真っ直ぐルスシャークへと突き刺さった。

「おお、すごい」

思わず感嘆の声がこぼれてしまう。


『シャギャアア――ッ』


すぐ引き抜かれたナイフがゴウキの手元に戻ると、

「そおら! こっちも……だっ!」

バリィンッ!

さらにラウジャが戦斧を叩き付け、シエリアがサーベルを構えて踏み切った。


「肉体強化、肉体強化! ……威力アップ!」

俺はシエリアのバフを書き換えて、呆けているハンナのバフもひとつ書き換えてから、自分も走り出す。

「肉体強化、肉体強化、腕力アップ……おおおっ!」


狙うは、ゴウキの刺した一か所。

振り上げた双剣が肉を裂き、そのまま骨まで届いた感触があった。


「はああっ!」

シエリアも、尾の先の方を両断する。


『ギャアアアアッ!』

明らかに声が変わり、ルスシャークが身体を捩った。

頭がこちらを向き、首がもたげられる。


――ブレスか!


「来るぞ!」

爆風の声に、咄嗟にバフを広げた。

「反応速度アップ、速度アップ!」

2回が限界。それでも、ブレスが放たれるのとほぼ同時に、全員が跳び離れることに成功する。


木道の一部が破片となって飛び散り、その間を縫って、我に返ったハンナの魔法が炸裂した。

「撃たれろ!」


ドシャアアアァンッ!


青白い稲妻が言葉通りルスシャークを撃ち抜く。

――身体を痙攣させた後、ルスシャークは横倒しになって沈黙した。


「……ふうっ」

息を吐いたのはハンナだ。

彼女はばさばさと黒いローブをはらうと、杖をドンッと木道に突いた。

「ふふん、今夜の食材は魚ですわね! 爆風のおじ様、焼き魚、煮魚、それとも魚の炊き込み飯がよろしくて?」


俺はそれに思わず笑って、武器をしまう。

「さっき昼飯食べたばっかりだと思うんだけど」

「まあ! 逆鱗、お前は黙っていてくださる? 私は爆風のおじ様に聞いているのですわ」


ちょっと待て。

逆鱗ってなんだよ、あとお前ってのも失礼じゃないか?


ハンナは汚物でも見るかのような眼で俺を見て、鼻を鳴らした。

「首根っこを掴むなんて、失礼ですわ」

「……あれは不可抗力だと思うんだけどなぁ」


そこがお気に召しませんでしたか……。


ちらと見ると、爆風がにやりと笑っていた。

あんたのせいだからな!


本日分の投稿です。

よろしくお願いします!


逆鱗のハルトのポイントも増えてきて楽しく書いています。

皆様のおかげです、ありがとうございます。

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