湿地に潜む闇には。②
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次の日、話はあっという間に纏まって、すぐに協会支部にトレージャーハンター達が集められた。
まずは五感アップバフでアダマンデとアダマスイータの大体の位置を探さねばならい。
囮のアダマンデも捕獲する必要があるからだ。
とは言えこれは危険もあるため、希望者が参加することになった。
ちなみに、ラウジャ、爆風、俺は強制参加である。
……準備が出来たら、あとは実行あるのみってわけだ。
アダマスイータを誘き出すことに成功したら、少数精鋭とやらに選ばれなかったトレージャーハンター達は、5人程度の人数で湿地内に散らばって待機してもらうことになっている。
道の広さを考慮している人数で、伝令の役目も果たすためだ。
万が一討伐が失敗した場合には少数精鋭が『狼煙』を上げて合図をするので、彼等も同じように『狼煙』を上げ、それが伝わっていくことで、今回の作戦がどうなったかをいち早く町まで報せるのである。
それだけ湿地が広いということでもあり、失敗が許されないということでもある。
狼煙を上げた後はもう足場なんて関係なくどんどん合流してもらって、大規模討伐に持ち込むしかないという判断だった。
……泥濘の多い湿地帯で戦うなど愚策でしかないのは当然だ。
成功させなければならない。
その狼煙に利用されるのが魔力結晶だったのにはちょっと戸惑ったけど、仕方なかった。
「アダマスイータとやるのは、このあたし雄姿のラウジャの部隊、そっちのシエリアの部隊、もう一つは爆風のガイルディアの部隊だよ」
ラウジャの言葉に、集まっていたトレージャーハンター達が一気にざわつくのがわかる。
そりゃあそうだ、爆風だなんて聞いたら気になるだろう。
<爆風って、爆の物語の、あの?>
<本物か?>
こそこそと囁きあう声が聞こえてくるのをスルーして、ラウジャはさっさと話を進めた。
「じゃあ今から名前呼ぶから、呼ばれた奴は前に出てきな!」
…………
……
ラウジャ部隊が5人、シエリアと呼ばれたのはすらりとした男性で、彼の部隊が8人。
俺達、爆風の部隊は5人だった。
俺は気になってシエリアをまじまじと眺めた。
濃い蒼の鎧に、白いマント。
腰に提げているのはサーベルのようだ。
少し反りのある細見の長剣で、鞘にはこれでもかと装飾が施されていた。
肩に届きそうな髪は金、眼はつり上がった三白眼で冷たそうな蒼。
背は俺より低いようだけど……キツそうな奴だな。
うーん、どこかの貴族か、もしくは騎士って風貌だ。
一瞬、爽やかな空気を感じた気がして顔を顰めると、眼が合ってしまった。
すると彼は表情を曇らせて、……たぶん、悲しそうな顔になる。
「……あの、僕、何か……?」
「ええっ!?あぁ、ごめん、違うんだ。服装見て騎士みたいだなと思ったら、苦手な騎士を思い出しかけて」
思わず両手を上げて首を振ってしまった。
話しかけてきたことにも、おっとりな話し方だったのにも、ちょっと焦る。
とりあえず、キツそうとか思ってごめん、と心の中で謝っておいた。
「そうですか……えっと、貴方は?」
「俺はハルト。爆風とちょっとの間だけ旅してるバッファーだ。よろしく、シエリア……さん?」
「シエリアで構わないですよ。えぇと、バッファー……?」
「あー、そうか。馴染みが無いんだな……んー、五感アップ」
俺はバフをひとつ、シエリアに投げることにした。
途端、彼の三白眼が鋭く細められて、思わずちょっと身体を引く。
「これは……!す、すごいですね!?」
しかし、返ってきたのはゆっくりとした柔らかい返事だ。
睨まれたんじゃなかったのでちょっとほっとしてると、シエリアはにやりと笑った。
うーん、顔がキツめなせいか、どんな表情もちょっと恐いかもしれない。
「これなら……うっ!?」
言いかけて見開かれる三白眼。
瞬間、俺は首筋がチリッとするような感覚に、咄嗟に右に避けた。
「っく!?」
シュッ
――脇腹に掠ったのは、爆風の指だ。
例の遊びである。
「うん、いいぞ。やるな逆鱗」
「今のは危なかった……」
爆風は歯を見せて笑うと、そろそろまた殺気を少し収めようかと言う。
確かに感覚は掴めてきたような気がしていた俺は、頷こうとしたんだけど。
「な、何ですか、い、今の、殺気??ば、爆風のガイルディア、貴方……!」
シエリアは爆風を見て驚愕と思われる表情を浮かべると、何を思ったか急に俺の右腕を引っ張った。
「うわ!?」
「貴方、ハルト君に殺気を……!?ど、どういうことです!?まさか、暗殺を目論んで……!?」
引っ張られてよろけた俺の前に入るシエリアに、爆風が眼を瞬く。
「……うん?」
あぁ、しまった。
五感アップをかけたせいで、かなりの殺気に感じたってことか?
いや、何にしても庇われるとか、ちょっと恥ずかしいんだけど。
あと、暗殺ってなんだよ。
「シエリア、違う。今のは遊び。俺は鍛えてもらってるところ」
思わず言うと、シエリアは俺を振り返った。
「……え?遊び?……鍛えて??」
「そう。だから大丈夫」
「そ、そうでしたか……失礼しました。でもハルト君、暗殺者は笑顔を被っていますから……気を付けてください」
「……あ、ああ」
こいつ、一体何者なんだろう……?
暗殺されかけた過去でもあるのかなぁ。
そこに、ラウジャの野太い声が飛んできた。
「おい、シエリア!自分の部隊とちゃんと顔を合わせておきな!」
「あ、はーい!……では、ハルト君、爆風のガイルディア、失礼します」
爆風は去っていくシエリアを眺めながら、俺の肩をぽんと叩く。
「俺は呼び捨てだが、お前は君付けだったな……変な奴に好かれるのは構わんが、暗殺者呼ばわりも困る。手綱は握っておけよ?」
「いや、それ俺に言われても困るんだけどなぁ」
「はは、まぁいい。俺達も、部隊に挨拶しようじゃないか。行くぞ、逆鱗」
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