湿地に潜む闇には。①
夜だったのもあり業務終了の時間が迫っていたため、その日はそこで話を終わりにした。
詳細は明日、改めてトレージャハンター協会の人を交えて話すことになっている。
ラウジャは纏め役ではあるけどいちトレージャーハンターであって、支部の担当者が別にいるんだってさ。
今日は帰っちゃってたから、ラウジャが来たそうだ。
……ギルドと違って夜は閉まっちゃうんだよな、トレージャーハンター協会って。
アイシャでは恵まれていたんだと改めて思う。
ラウジャが折角だからと夕飯に誘ってくれて、俺達はテアルーの一画にある小さな宿屋兼レストランへと案内された。
食事だけでなく、その場で寝床も確保出来るのは正直助かった。
俺は食事をしながら、自分の話をラウジャにすることにする。
……ここは置いてあるお酒の種類が豊富で、常連客らしき人も多い。
カウンター席は一杯だし、テーブル席も殆ど埋まっていた。
柔らかい灯りだけの店内は賑わいながらも決して煩くなく、じゅうじゅうと肉を焼く音が時折聞こえ、入り混じるのは数々の料理の匂いと酒の匂い。
心地よい空間で、時間がゆったりと流れているような、好きな感じだ。
「――そんなわけで、俺はシュヴァリエから2つ名を押し付けられたんだ」
飛龍タイラント討伐の話を終えたところで、ラウジャは瓶ごと呑んでいたお酒をテーブルにドンと置いて、楽しそうに笑った。
「あははっ!坊主、あんたやるじゃないか!あの飛龍タイラントを屠ったのがまさかこんな若い奴だったなんて!倒されたって噂は聞いてたんだけどさ!」
彼女は俺の右肩を拳でドンッと叩くと、今度は上機嫌で肉にかぶりつく。
……右肩が物凄く痛いけど、この人いったいどれだけ力があるんだか。
もしかしたらグランといい勝負かもな。
爆風は右肩を擦る俺に可哀想な物を見るような眼を向けて、苦笑する。
「今は他の白薔薇とは別行動でな、逆鱗を俺に付き合わせているところだ」
「んぐ……そうなんですね。……けどバッファーだなんて、何年振りだろう。あたしが思い付くのは重複のカナタくらいだけど、知っているかい?」
「え、カナタさん?」
思わず聞き返すと、ラウジャはまた肉を食い千切った。
重複のカナタ。
俺の先生とも言える、2重までのバフをかけることが出来るバッファーだ。
琥珀色の髪と眼で、丸眼鏡をかけた優しい雰囲気の人である。
範囲バフやデバフを教えてくれたのもカナタさんで、俺の教科書はカナタさんが書いたものだった。
「うん、んむ。んぐ……その様子だと知り合いか!重複のカナタとは何回か大規模討伐で一緒にやったのさ。ふふ、あいつ元気かい?」
「元気ですよ、完遂のカルーア……カルアさんと夫婦で冒険してます」
答えたら、ラウジャは眼を見開いて、絞り出したような声で言った。
「……え?あいつら結婚したの?」
「え?そうみたいですけど、カナタさんが妻って紹介してたし」
「嘘だろ、あの完遂が……あの腹筋女が……?」
「腹筋女って……」
確かに、カルアさんは鍛え上げられた腹筋を惜しげもなく晒した鎧を纏う大剣使いであり、ボーザックの名前を付けた人でもある。
短めの紅い髪に紅い眼で、さばさばした頼れる姐さんといったところか。
「8年もこっちにいりゃ、アイシャも色々変わるんだねぇ……」
ラウジャは遠い眼でぽつんと呟いた。
それを聞いた爆風が、手元のグラスの氷をからりと鳴らして、笑う。
「そうだな。ちなみに逆鱗を含めた白薔薇は名誉勲章持ちだぞ」
「……ッ!?名誉勲章!?うっそ、どういうことですか、あたし達だって持ってないのに……」
「はは、達って言うな。俺は地龍を倒したが、お前は何もしてないだろう」
「うわ、そんなこと言わないでくださいよ!結構大規模討伐でも活躍してたはずですよ!?あたしだって」
ラウジャは憤慨して、瓶のままの酒を再度煽る。
なんだかんだ、仲が良さそうだ。
俺は店員さんにお酒の追加を3人分頼んで、服の中から名誉勲章を引っ張り出す。
「これ」
ラウジャはそのカードにはっとすると、手をごしごしと拭いてから、そっと受け取った。
「……すごい、これが名誉勲章……!ん、ちょっと待ちな。これノクティアの王家の印……?」
鎖についていた石を見たラウジャが言うので、俺は頷く。
「そう。アナスタ王から貰った。というか、白薔薇のリーダーは4国の王からの2つ名を貰ってる。他の皆の2つ名も、ディティアは爆風が付けたし、ボーザックはカルアさんからだし、ファルーアは爆炎のガルフから」
「……何なんだい坊主、あんた見た目じゃ全くそんな感じしないのに……あははっ、いやいや、お見逸れしたよ!」
驚きを通り越して笑い出したラウジャに、俺は肩を竦めて見せた。
「すごく失礼に聞こえるけど……もういいよ」
敬語を使わなくてもいいや、と思ったとこだし、これで相殺ってことにしよう。
本日分の投稿ですが全然進んでないので、
日付変わるころに明日分を入れちゃおうかなぁと思っています。
いつもありがとうございます。
よろしくお願いします!




