まだ見ぬ流れへと。⑥
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「湿地偵察とやらがあると聞いた」
「あら、ご希望ですか?……では準備します。仕事の斡旋室へご案内致します、7番室です」
テキパキと受付を済ませる爆風を後ろで待ちながら、協会支部を見回す。
受付のカウンターはかなり広い。
夜だからか受付は3人だけだけど、恐らく10人は並べるだろう。
待合室も広く、テーブルと椅子がかなりの数並べられている。
今も数人が談笑していて、打ち合わせなんかにも使っているんだろうと思った。
やっぱりこの町は元々トレージャーハンターが多く活動しているようだ。
「行くぞ、逆鱗」
「はいはい。わかりましたよ爆風」
肩を竦めて応えると、爆風は受付嬢に続いてさっさと歩き出す。
俺は爆風に付いていきながら、待合室にいた数人のトレージャーハンター達の視線を感じた。
何だ?急にじろじろと。
……そこで、気付く。
爆風って呼ぶのは、ちょっと不味かったかも?
爆の物語はこっちでも有名みたいだし。
「……ガイルディア」
「どうした?」
「俺、あんたが爆風ってさっきの人達に気付かせたかも……悪い、せめて2つ名は隠した方がいいのかな」
「はは、何かと思えば。好きにしていいぞ、帝国兵なんぞに睨まれても俺は構わん。帝国兵第五隊隊長アーマンを見たろう?わかる奴はわかる。彼奴は、俺が伝説の爆だと気付いて、恐らく上に報告しているはずだ。アイシャの人間が嫌いではなくとも、やることはやる奴等だってことはわかっている。そうだな、お前が気にするならスレイにするか?」
懐から仮面を取り出すガイルディアに、俺は思わず笑った。
「あんたが気にしないならいいよ、ついでに俺も白薔薇として名前売りたいし。……逆鱗は辞めてくれてもいいけどな?」
――言いながら、思い返す。
俺がボーザックとふたりでガイルディアにぼこぼこにされた時、アーマンが爆風のガイルディアの視線から『逃げた』こと。
あれは、報告を上げた自分が後ろめたかったのかもしれないな……と。
…………
……
通された個室は狭かった。
4人も入ればいっぱいだ。
いつもは少なくとも白薔薇で5人と1匹だから、こういう部屋は初めてだった。
皆今頃どうしてるかな。
まだ3日だっていうのに、ちょっと気になってしまう。
「では担当が説明に参りますのでお待ちください」
俺達が席に着くのを確認して、受付嬢は礼をして出て行った。
そうして数分。
入ってきたのは厳つい……女性だった。
筋肉ムキムキ、こんがり焼けた肌色で、頬には縦に傷痕があり、歴戦の猛者のような風貌だ。
背も俺に迫るんじゃないかという、女性にしてはかなり大柄な方。
橙色の髪は肩まで無く、前髪が邪魔にならないよう細い紐を頭にぐるりと結んでいる。
俺をを見据える落ち着いた眼はルビー色で、貫禄がすごい。
恐らく30代後半、現役を引退でもしてここに落ち着いたのかもしれない。
爆風を横目で見ると、物凄く眉を寄せて信じられない物でも見るかのような顔をしている。
何か……珍しい顔だな?
「トレージャーハンター協会テアルー支部にようこそ。あたしは今回の湿地偵察を纏めているラウジャだ」
ラウジャと名乗った女性は俺達の向かいにドンと座ると、バサバサと書類を置いた。
「…………ラウジャ」
「何だい、いきなり質問があるのかい?……うん??」
ラウジャは視線を爆風に移し、首を傾げた。
「……爆風の、ガイルディア……?えっ、やっだ!何してるんですかこんなところで!」
「ぶっ……ごほっ」
俺は吹き出すのを堪えようとしてそのまま咽た。
ラウジャの声の高さも一段高くなって、ころっと態度が変わったのが衝撃的だったのだ。
「えっ、この仕事受けてくださるんですか!?そんなの歓迎に決まってます。ではこちらが資料と、参加者の探索専門と戦闘専門の人数です」
ラウジャはさっさと資料をこちらに向けて、両手を組んでにこにこ。
その貫禄も相まって、壮絶な姿というか、ぞくりとする言いようのない気持ちが込み上げてくる。
「爆風、知り合い……?」
「うん、彼女はアイシャ出身のはずだが……」
「そう、あたしは『雄姿のラウジャ』。この国じゃ歓迎されない冒険者だけどね、今回の纏め役があんまりに使えなかったんで皆の前でちょっとお灸を吸えたのさ。爆風のガイルディアが参加してくれるならかなりやりやすくなります、良かったです!」
あれ、何かさらっと恐いこと言ってるぞ。
お灸って何だ?
この人、引退してないってことか?
「逆鱗、言いたいことはわかる。とりあえず、状況から聞くがいいな?」
「え?あ、ああ。……お手柔らかに頼みたいかも」
「ふ、そうだな。とりあえず、ラウジャ。順番に説明してくれ」
「はい!任せてください」
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ラウジャ。
彼女は、現在新皇帝ヴァイセンとなったラムアルが治める、アイシャのヴァイス帝国出身の戦士……もとい、冒険者であった。
8年前にトールシャに渡ったそうで、その前は一時期爆風のガイルディアと依頼を熟していたそうだ。
活動は主にソードラ王国でしていたらしく、今回はソードラ王国のトレージャーハンター協会からの仕事としてやって来たとのこと。
ところが、拠点となるべきここ、テアルーの纏め役が彼女曰く使えなかったそうで、そんなんじゃ全員死ぬぞと怒鳴り、決闘までしてそれはもう完膚なきまでに叩きのめしてしまったらしい。
恐い。ものすごく恐い。
「テアルーの町からソードラ王国との国境までの間の広範囲に渡る湿地帯に、ソードラ王国から魔物が流れているのは間違いないんです。あたし達ソードラ王国からのトレージャーハンター達は、危険を回避するために湿地帯を迂回してここまで来たくらいですよ。それなのにここの纏め役ときたら、碌な調査もせずにいきなり湿地帯に踏み込むなんて言いだしたんです」
ラウジャは太い腕を組みながら、鼻先でハンッと笑った。
「向かってきた魔物は群れを成しています。……気にしているのは、その群れを追ってきた大型の魔物の可能性です。魔物が移動し始めた時期に目撃された魔物がいるんですよ」
爆風はそこまで聞いて、一度質問を返す。
「ラウジャ、少しいいか。ソードラ王国のある地域で、地殻変動が起きていると思うのだが。心当たりは無いか?それが原因でこういったおかしな事象が起きているという仮定の元、俺達は動いているんだ」
「地殻変動?……ありますよ。ソードラ王国でも最近よく話題に上がっていますから。……魔物の移動も、関係があるということですか?」
「そう考えて動いている。後で詳しく聞きたいが、いいな?まずは湿地を何とかしないとならないようだ」
「もちろんです、爆風のガイルディアの頼みとあれば、あたしも動きますよ」
ラウジャから爆風への信頼はかなりのものらしい。
俺は黙って二人の話を聞いていることにした。
ラウジャは「それじゃあ」と言って、資料の二枚目を指差す。
「移動した群れの詳細と、大型の魔物の詳細を説明します」
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