まだ見ぬ流れへと。⑤
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続く平原は街道を逸れると背の高い草地もある。
テアルーに到着するまでに、そこを住処としている小型の魔物と何度か戦闘になった。
アイシャと違って、トールシャでは好戦的な魔物が多いように思う。
『俺はもう歳だからな!頼むぞ逆鱗』
なんて言いつつ、爆風は俺を戦わせて自分はあまり動かなかった。
その間は俺の剣捌きや判断の仕方で注意をしてくれるんで、甘えるわけにはいかない。
俺は言われるがままに戦った。
もちろんバフは無しだ。
……ディティアと手合せすることもあったけど、やっぱりいくつかはその時指摘された事と同じ事を言われたりもして。
気を付けているつもりだったけど、まだまだ駄目みたいだな。
『肘を伸ばしすぎると力が入らない。もう少し腕を引いて構えろ』
『もう少し、腰は落としておけ』
俺と爆風では戦闘スタイルは微妙に違うけど、基礎的な部分は共通だ。
折角だから、ここで弱点は無くしておきたかった。
とにかく、やるしかない。
汗を滴らせ剣を振るう俺に、爆風は歯を見せて笑った。
『中々体力があるじゃないか』
――次の日は、見事に筋肉痛になったんだけどな。
…………
……
そうして、時折遊びとやらが混ざりつつ、辿り着いたテアルー。
到着は俺の予想通り3日目の夜たった。
ここも研究都市ヤルヴィと同じく、ぐるりと壁で囲まれた町だ。
レンガ造りなのも同じだから、アルヴィア帝国では粘土がたくさん採れるのかもしれないな。
――ちなみに、爆風はテントをちゃんと持っていた。
簡単に設置出来る物で、二人なら余裕で入ることが出来る。
けれど、晴れた日は面倒なので使っていないとのこと。
「まずはトレージャーハンター協会へ向かうぞ」
「わかった」
俺は爆風に応えて、門番の処へ向かう。
ここにいるのも2人の甲冑兵だから、アルヴィア帝国帝国兵が護っているようだと判断する。
「ヤルヴィから来たトレージャーハンターだ、協会支部へ行きたい」
爆風のガイルディアが言うと、門番はがしゃりと甲冑を鳴らして、兜の中からくぐもった声で答えた。
「君達も仕事で呼ばれて来たのか?」
「……いや?寧ろここで仕事でも見繕おうと思っているくらいだが。何かあるのか?」
怪訝な顔で、爆風が聞き返す。
甲冑兵2人は顔を見合わせて、頷いた。
「丁度、湿地の偵察が行われるそうだぞ。他の町からも集まってきていたからそうだと思ったんだが。空きもあるだろうから、聞いてみるといい」
……俺は、思わず身を固くしていた。
湿地の偵察って、どういうことだ?
頭を過るのは、ディティアの話。
知恵を持った魔物が繁殖しているという、その、話。
知らず、手を握り締める。
「ちなみに、何を偵察するのか聞いても?」
爆風が質問を重ねて、甲冑兵達はまたもがしゃりと音を立ててこっちを向いた。
「……どうやら、ソードラ王国方面から魔物が流れて来ているようだ。その正体と規模を調べるんだろう。このままだと馬車も出せないからな」
返ってきた答えに、俺は爆風と目配せして頷いて、帝国兵に言った。
「情報ありがとう。早速協会支部へ聞きに行って来るよ。どっちに行けばいいんだ?」
「門を入って左手に行けば見付かる。それではな」
…………
……
「どう思う?」
門をくぐり、外壁沿いに左手に進みながら聞いてみた。
爆風はうーむ、と唸る。
「大蛇の魔物ヤンヌバルシャの時もそうだったが、どうもこういった『いつもと違う』状況がどの町でも起きているようだな。ちなみに、砂漠を越えた先のカーマンでも、魔物の調査依頼が出ていた」
「そうなのか?やっぱり地殻変動の影響かな……」
「可能性は有る。ひとつ気になっているのだが、アイシャでは無かったのか?そういう話は」
「アイシャで?あー……どうかな、そういえばフェンに会った時は変だったかも?」
「フェンリルか?」
「そう。山岳の国ハイルデンに居たはずのフェンの親……ファインウルフの夫婦なんだけど、3匹で一緒にラナンクロストとノクティアの国境に移動してきてたんだ」
「ほう……他には?」
「あとは……帝国の温泉郷に変な魔物がわいてたのもそうかな……虫型の黒いデカい奴なんだけど……温泉に入れなくなるくらいだから結構な問題だと思う」
……まぁ、あれは見た目からして悍ましすぎたんだよな。
あれの体液がもし温泉に流れ込んでいたらって心配したくなる気持ちはわかる。
「……ふむ、トールシャに比べるとあまり大きな動きではないかもしれんな」
「あ、でも待てよ。もしかしたら、こういう『普段見ないはずの魔物』って意味でなら、珍しい魔物を狩る無法者みたいな奴等が狩ってた可能性はある」
「それは災厄を目覚めさせた組織のことだな?」
「そう。ダルアークって組織で、大半は身寄りのない奴等だ」
「……無法者達が動いている可能性か……魔力結晶の動きにも関わるかもしれないな。一緒に調べてみるぞ逆鱗」
「ああ」
爆風は話の間も周りを見ていた。
研究都市ヤルヴィと殆ど同じようなレンガ造りの街並み。
ランプが通り沿いに等間隔で設置されていて、温かな灯がいたるところにあった。
夜とは言えまだ街は活気があり、食堂や酒場が賑わっている。
通りは広く造られていて、馬車が行き来しても余裕がある程だ。
結構大きな町なんだろう。
ただし、ヤルヴィほど身嗜みが整った貴族のような風貌の人は居らず、トレージャーハンターのような風貌の者が多い気がした。
集まってきているのか、元々トレージャハンターが多いのか、どっちなんだろう。
「通りが広いな。馬車も多い。何か荷物を運ぶ拠点なのかもしれん」
「あー、そういうことか。ヤルヴィに魔力結晶を運ぶのに使ったんじゃないか?」
俺は地図に遺跡が載っていたことを思い出して、爆風に言った。
確か、湿地の傍にあったはずだ。
爆風はそれを聞くと、突然笑う。
「ただ地図を眺めていたわけではないようだな」
「……何だよそれ、馬鹿にしてるだろ」
「褒めているのに、そうひねくれるな逆鱗」
今度は飛び切りのオジサマ風の笑顔で言ってのけた。
本当に喰えないオジサマである。
俺はふんと鼻を鳴らして、見えてきた宝箱と短剣の看板を指差した。
「あったぞ、トレージャーハンター協会支部」
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