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逆鱗のハルトⅡ  作者:
130/308

風は自由奔放です。⑧

******


ディティアの話は壮絶で、重く、暗い内容だった。

それでも皆ちゃんと聞いていて、リューンですら黙ってくれていた。


爆風のガイルディアは眼を閉じていたけど、聞き終わるとゆっくり眼を開ける。

「……そうか。辛かったな」


その一言に、ディティアは頷いた後、肩の力を抜いた。

やっぱり、緊張していたんだろうな。


「はい、とても。その後は、白薔薇の皆が私を支えてくれました。私に出来ることは冒険者しかなくて、仲間を持つことに不安もあったけど……一緒に強くなるって言ってくれたのが、本当に嬉しかったんです」


見ると、グランもボーザックもファルーアも、口元を少し緩めている。

フェンはディティアの足元に移動して、寄り添っていた。


「なら、一緒に来た甲斐があったよな」

俺も嬉しくなって、ディティアの頭をポンポンと撫でる。

彼女の辛い過去を共に支えていきたい。そう思う。

そこで、ディティアが、ぎゅっと身体に力を入れたのがわかった。

「……あのう、ハルト君」

「何?」

「その、いつも言うけど、頭をね、ポンポンするのはちょっと……」

そのまま、彼女はテーブルに突っ伏して唸った。

「あぁ慣れない……どうしても、慣れられない……」

濃茶の髪の隙間から、赤くなった耳が見える。

「まぁ、頑張ったご褒美?」

「いや、ご褒美じゃなくて公開処刑だからねハルト君!?ううー」

俺が答えると、突っ伏したまま、彼女はぶんぶんと首を振るのだった。


******


「では、俺の話に移るとしようか。あまりいい話ではないのでな、無理に聞く必要はないぞ」


次は、爆風のガイルディアの番だ。

もちろん誰も席を立つ気配はなく、爆風は苦笑すると、言葉を紡ぎ始めた。


…………

……


爆の物語。

それは、彼の地龍グレイドスを屠りし伝説の冒険者達の物語である。


彼らは2つ名に『爆』の字を持っている者達で結成したパーティーであった。


爆炎のガルフ。

爆風のガイルディア。

爆突のラウンダ。

爆呪のヨールディ。


――しかし、グレイドスを屠ったその時、本来であればもうひとりいるはずだった爆がいる。


名は、爆辣のアイナ。


これは、何処にも、誰にも語られていない物語。



当時、ガイルディアがまだ冒険者に成り立ての新人だった頃。

彼を拾ったのは爆突のラウンダであった。


爆突は槍を武器とした小柄な男だが、太い腕で振るう槍はさながら彼の身体の一部。

普通なら届かない間合いでも縦横無尽に繰り出される攻撃に、誰もが舌を巻く冒険者だ。

その攻撃の中でも、特に槍のリーチを利用した強烈な突きを得意としていたため、爆突と2つ名が付いたらしい。

髪はツンツンと短い茶髪。

眼は翠色でぱっちりと大きく、明るく豪快な男だった。


この頃、地龍による被害は大陸中で問題となっていた。

数か月から数年に一度、大きく動きを見せるのが地龍グレイドスの特徴だ。


もちろんギルドもただ野放しにしていた訳ではなく、常に地龍の場所を把握して生態の調査も行っていたが、肝心の討伐の手立てが見付かっていなかった。

更に、何度か大規模討伐依頼を出したが討伐に至らず、多くの冒険者の命が散った事実だけが積み重なっていたことも、手を出し難い状況を作り上げていたのである。


そこで、苦肉の策として、ギルドは優秀な冒険者達にある依頼を出すことにした。

『新人育成』。

後にも先にも、地龍グレイドス討伐に向けてのこの時だけ出された依頼だ。


……通常、ギルドは冒険者達がどういったパーティーを組むかには関与しない。

冒険者養成学校にて生きる術、戦い方を教えるが、卒業後にどんなパーティーを組んでどんな依頼を熟すのかは、全て各々に任せている。


薬草の採取だけする者だっている、討伐依頼ばかり受ける者もいる、強い、弱いだってある。

各々を尊重し、ギルドは基本的に『自分のことは自分でやりなさい』という教えを貫いていた。


もちろん新人育成依頼も当然のように教えに則っていたわけで、その内容は卒業する新人達の中で『こいつだ!』と思った者をパーティーに加えて育てるという単純明快なもの。

育成方法についての具体的な内容は一切無し。ただし、定期的に討伐依頼を受けること。

それだけだった。

そして、この新人育成に携わるパーティーには、依頼毎に追加報酬が上乗せとなる。


爆突は依頼の話を聞いた時こそ渋ったが、その街の冒険者養成学校を見て、引き受けることにした。

そもそも育ってる奴がいたからである。


性格や考え方が合わない場合は放逐していいという確約を貰った上で、爆突のラウンダは2人の新人を確保した。



それが、後の爆風と、爆辣だ。



爆突は既に爆炎、爆呪とパーティーを組んでいて、そのリーダーを担っていた。


爆炎のガルフは、伸ばしている髭と髪に白髪の混ざった壮年の自称『高火力メイジ』。

爆呪のヨールディは、薄くなった金髪に蒼いたれ目で、敵の足止めや攪乱にかなりの拘りを持った30代そこそこの自称『妨害系メイジ』。


メイジが二人で前線が爆突だけという珍しいパーティーだが、爆呪の使う呪いのような足止め魔法も大いに活躍し、彼らは向かうところ敵なしであった。


ちなみに、使う魔法がまるで呪いみたいで気持ち悪いということから爆呪という2つ名が付いたようだ。


******


「ヨォッシ、まずはお前達に2つ名を付けるところからだぜ!」

爆突は迎え入れたガイルディアとアイナに、上機嫌で笑い掛けた。


途端、アイナが心底迷惑そうな冷たい顔で、鼻を鳴らす。

「いきなり2つ名って、あなた馬鹿ですか?」

美しい黒髪は腰まであり、首の後ろで1本に結われている。

細くしなやかな身体付きは女性特有の柔らかな曲線を描き、優しそうな蒼い大きな眼とすっと通った鼻筋は、誰もが振り返る美人。


しかし、性格に難あり、と。


ガイルディアは頭の後ろで手を組みながら、アイナをそう評価した。

曲がりなりにも同級生であり、美人だとは思っていたが、これは酷い。


彼女の腰にぶら下がった太めの長剣も、そのしなやかな身体には少し大きいように見える。


「はは!威勢がいいなぁ、俺は爆って付いた2つ名が気に入っててな!わざわざ爆を集めてパーティーを組んでんだ。お前等も例外じゃねぇ!」

「意味がわかりません」

更に噛みつくアイナを見ながら、ガイルディアはじゃあなんで付いてきたんだこいつ、と思った。

最初に引き合わされた時も、爆突は同じこと……爆って付いた2つ名を集めている……と言っていたのである。


「とりあえず、依頼を受けてみましょうよ。僕は君達の実力も見てみたいですし」

そこに、爆呪のヨールディが薄くなってきた金髪の頭を摩りながら、助け舟らしきものを出す。


気弱そうなおっさんだな……苦労してるんだろうな。

失礼だが、そう思う。


「そうじゃの、まずは何事も連携からじゃ」

更に爆炎のガルフが髭を撫でながら言い募る。


……そんな歳でもないだろうに、じいさんみたいな話し方する奴だな。


アイナはそれを聞いて、さらにキーキーと喚いた。

「連携なんて、簡単です!甘く見ないでください!」


ガイルディアは腕を下ろすと、このパーティーを変わり者の集まりだ、と評価した。


******



爆風のガイルディアのお話です。

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