風は自由奔放です。①
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ふうー……。
吸った息をゆっくりと吐き出せば、私の意識はすーっと透き通っていく。
さらに意識は研ぎ澄まされて、双剣を握る指先から地面を捉えた足先、果てはそれが触れた空気さえ、全てを支配出来るような感覚が全身を満たす。
私は、ゆっくりと視線を上げた。
少し先に堂々と立つ黒鎧の大男。
ガルニアさん……ううん、ガルニアは、まるで鉄の塊のような黒いゴツゴツした大剣を悠々と構えている。
……大蛇の魔物、ヤンヌバルシャと戦っていた時のガルニアの動きは、速さなんて全く無くて、主に力を使った大雑把なものだった。
けれど、最初に戦った時……ハルト君やボーザックと一緒にガルニアに攻撃した時は、意外にも私達の速さを追っていたような気がする。
つまり、この人は並外れた戦闘感覚も持ち合わせているのだろうって確信があった。
「……行きます、ガルニア」
私は、腰を落とす。
「来い、双剣」
ガルニアも、にやりと凶悪な顔で嗤う。
滲み出した狂気と歓喜が、ガルニアをより大きく見せるのかもしれない。
けれど。
……それだけじゃあ、私は倒せない。
この時、自分でも珍しいくらいに好戦的だったなぁ、と……後でちょっと反省するのだけど。
私には、やるべき事があったから。
全力で、それをやるって決めていたの。
…………
……
「数手で決まるから、眼を離すなよ逆鱗」
「ふん、だからそれやめろって。……ちゃんと見てるよ」
爆風のガイルディアがこっちを見ずに茶化してくる。
……言われなくたって、そうするさ。
俺は鼻を鳴らして、対峙したふたりをしっかり見詰めた。
「……はあぁっ!」
一気に踏み込んだディティアの双剣に、ガルニアが反応する。
「ハッハア!!」
ガガッ!
ディティアの小さな身体ごと斬り伏せるかのような、大きな振り下ろす動作の一撃。
ディティアはぶつけた双剣で流そうとしたけど、すぐに飛び離れた。
武骨な真っ黒い金属の塊。
ガルニアの大剣にはゴツゴツした凹凸があって、上手く流せなかったんだろう。
「オオオッ!!」
好機と見たのかガルニアが踏み込んでいく。
その目は見開かれ、紅くぎらぎらしていた。
……今でこそガルニアの殺気には慣れたものの、こっちに向けられたら首筋はぞくぞくするだろう。
「……ふっ!」
ディティアはガルニアの横薙ぎを、転がって躱す。
ガルニアは予想通りだったのか、直ぐさま斬り返した。
ディティアの無防備な背中に、大剣が迫る……!
重そうな大剣は、一撃くらえば身体中の骨を粉砕されそうだ。
ボーザックの大剣と違って、ガルニアのは斬ると言うよりは叩きつけるための物だろう。
俺は、ひゅ、と息を詰めた。
勢いよく振り抜かれた大剣に、風が舞う。
「……っ!?ちぃっ!!」
驚愕の声を上げたのは、ガルニア。
ディティアはまるで剣が見えていたかのように、今度は後ろ向きに跳び上がったのだ。
その下を、黒い大剣が掠りもせずに行き過ぎる。
既に勢いに任せた一撃だったガルニアは、膝を使って彼女を見失った大剣を戻そうとした。
……けれど、遅い。
「ッ!……うおおおっ!!?」
逆さまになっているディティアの双剣の柄が、ガルニアの首元にクロスされて……。
「はあぁッ!!」
……ディティアにしては、珍しく……。
ドガアアァンッ!!!
荒々しいまでの咆吼と共に、着地の勢いを利用してガルニアを台に叩き伏せてしまった。
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立ち上るのはガルニアが倒れた衝撃で舞い上がった土埃。
シャンッ
ディティアは1度双剣を収めると、ぱんぱんと手を払った。
「……はいっ!私の勝ちですね!」
振り向きざまににっこりすれば、うわあ……遠巻きに観戦していた帝国兵達がどん引きしているのが伝わってくる。
隊長のアーマンでさえ、背中を反らせていた。
まあ、そりゃ、『疾風のディティア』だもんなぁ。
何たって、俺達白薔薇の中ではもちろん、冒険者の中でだってかなり強いはずだ。
既に彼女の凛とした空気は弛緩していて、纏うのはほんわかした雰囲気に戻っている。
これも、油断するには十分な要素かもしれない。
……その空気の中、ガルニアが、何とも複雑な表情で起き上がる。
黒鎧は土に汚れていて、がちゃり、と重そうに軋んだ。
「……ぐうの音もでねぇ……」
「はっ、ざまあないね!」
しかも、何故か味方のリューンにもどやされる始末。
うん、ちょっとだけ同情してやってもいいかも……。
そんなことを考えていたら、ふとこっちを見たディティアと眼が合った。
「ハルト君……!」
「うん?」
「見ててね、私、頑張るから」
「!」
微笑む彼女の軽く振られた手首に、ちらりとエメラルドのブレスレットが瞬いて、俺は。
……あ、あれ?
混乱した。
何かこう……胸がぎゅっとつかえたんだ。
それを見て、隣に居た爆風が俺の背中をぽん、と叩く。
「うん、うん。青春だな、若者。若いとは素晴らしいことだ!……さてと……では仕方ない」
「は……はっ?」
我に返った俺に、爆風のガイルディアは苦笑した。
「……可愛い愛弟子のためにひと肌脱いでやるとするか。頼んだぞ、逆鱗」
「え?ちょっ、何だよそれ!?」
彼は、背中越しにひらひらと手を振ると、颯爽と愛弟子……疾風のディティアの元へと歩き出すのだった。
少し早いですが本日分の投稿です!
よろしくお願いします!




