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逆鱗のハルトⅡ  作者:
119/308

それは逆鱗です。③

******


ユーグルのロディウルが語った、災厄は他にもいるということ、各地でおかしな動きがあること、俺達に対して、手伝えば歴史を少しは教えてやると言っていたことを話すと、ストーは改めて『やはり、仕事としましょう』と言い切った。


ストーの話はこうだ。

トレージャーハンター協会本部から、ユーグルへのコンタクトを取り、協力体制を築くこと。

同時に、自由国家カサンドラで、魔力結晶の動きを探ること。

各国の地殻変動が発生した地域付近での情報を集めること。


各国に研究内容を提示するのは恐らくここ、アルヴィア帝国になるけど、信憑性が高いと判断してもらえるだろうということ。


また、だいぶ大きな話になってきたぞ……。


俺達は顔を見合わせて、ストーの説明の続きを聞いた。


――自由国家カサンドラ。

自由国家ってのは、国家内の必要最低限の治安維持を行う在り方のことらしい。

貿易や仕事、そう言った色々なことを自由に行えるのは魅力的とも言える。

そのため、他国では違法な物の扱い、法外な値段での取引が、カサンドラでは行えてしまうらしい。

(もちろん、身体に害のあるような物で違法と指定されている物もあるとか)


治安維持に当たるのは、一応国の中核を担っている『カサンドラ治安部隊』で、彼等は治安部隊を置く隊舎を各地に持ち、各地から支払われる『治安維持費』で活動しているそうだ。


これは国での取り決めであり、町や村には必ず設置され、人口や広さに応じての治安維持費を徴収する事になっている。


さぞや彼等の権力は強いのだろうと思いきや、何を取り締まるかは『他者の利益を害する行為』と括られていて、曖昧。

そのため、カサンドラ治安部隊の中枢である中央治安部隊による裁判が行われることもあるそうだ。


同時に、この国で商売が上手くいかなかった者達は貧困し、カールメン王国やアルヴィア帝国に流れてくることもあると言う。


そして、なんとトレージャーハンター協会の本部は自由国家カサンドラに設置されていた。


はー、成る程な~、必要最低限って感じの組織だし、ギルドに比べたら曖昧だなーって思っていたけど……そういう国で始まったからなのかもしれない。


――ストーはその在り方についても教えてくれた。


各地の協会支部は『便利屋』や『調査屋』として見られている部分があって、設置費用を国に払う代わりに、有料で国や団体、個人からの仕事を引き受けているのだとか。


大きな遺跡の調査なんていうと国からの大々的な仕事になることも珍しくないそうで、宝の一部、または全てを国が買い取って、トレージャーハンターには多額のジールを報酬にしたりもする。


それから、裏ハンターは他のトレージャーハンターを貶める犯罪者達を狩る者達であり、認められた複数の『審査官』によって審査され、証を渡されることで機能している。


協会本部はこの裏ハンター達をちゃんと登録しているそうで、これは認めた『審査官』が義務として情報を渡すそうだ。

俺達の場合は、まずナチとヤチ、そして奇蹟の船ジャンバック船長がその指示をしてくれている……はず。


そういうわけで、支部で裏ハンターを名乗った者が怪しいと思った場合、本部に照会することが出来るんだってさ。


……でも、裁いたりする権限が裏ハンターにある以上、それが見えない場所で『違法に』行われることもあるんじゃないだろうか?


ストーは聞いた俺に苦笑して、肩を竦めた。


「それは課題としてあげられていることではあります。裏ハンターは本当に信用でしか成り立たない。過去に……そう、1度だけあったんですよ。私怨で人を殺めた裏ハンターがいたことが。大事件でした。その裏ハンターを信用した審査官は首になりました。その裏ハンターは、他の裏ハンターに……まあ、もういない人の話……という訳ですね」

「……難しいね、裏ハンターって」

暫く黙っていたボーザックが、珍しく難しい顔をする。

ディティアも、俯いてしまった。


一瞬、何となく重たい空気が流れて、沈黙が俺達を包む。


「裏ハンターもそれぞれさ、それは仕方のない話だろ?実際あんた達とは考えが違ってるしね。それでも、納得いく仕事をしてるってあたしは思ってるさ」

それを破ったのはリューンだった。

彼女は緩く結んだ赤い髪を弄り、ちっと舌打ちをして続ける。

「……今はそこじゃあないだろう?論点は。……とりあえず、あたしとガルニアはストーと帝都に行く。……あんた、皇帝にこの話すんだろ?…………つまり、その、姉さんも一緒に」


「まあ、そうなるかねぇ。そうすると、アンセン、あんたここに残すけどいいよね」

「クソ、言われると思った。……治療所もあるしな……」

カタリーナとアンセンはさくっと話を纏める。


ガルニアはがはは、と豪快に嗤った。

どうでもいいけど、顔が凶悪すぎる。

「いいぞ、強い奴がいるかもしれねぇからなぁ!」

「いや、そういう話じゃねぇだろ……」

肩を落としたのはグランだ。


「スレイ……爆風は、どうすんだい?」

「ふむ……トレージャーハンター協会本部……つまり自由国家カサンドラとユーグルの所には白薔薇が行くのがいいだろう。では俺は他の国の情報を集めるか」

「え……ひ、ひとりで、ですか?」

ディティアが顔を上げて、エメラルドグリーンの眼を見開いた。


……なんか、むずっとする。


爆風のガイルディアは眼を閉じて、顎に手を当てて少しの間考え込んだ。

「ふむ……そうだな……逆鱗。お前、一緒に来てみるか?」

「はあっ!?」


いや、待ってくれ。どういうこと??

疾風のディティアじゃなくて??


予想外の申し出に、俺は大いに混乱して仰け反った。

――その拍子に、後ろにあった本が盛大に雪崩を起こすのであった。


ぎりぎり本日分です!

どうぞよろしくお願いします!

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