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逆鱗のハルトⅡ  作者:
117/308

それは逆鱗です。①

地図と測定日を見比べながら、カタリーナとアンセンは少しやり取りをした。

そして頷き合うと、アンセンが地図に線を引いて、5つに分けていく。


「白薔薇……だったね。君達は、この4の数値に心当たりあるってことなンだよねぇ?」

その間に、測定日の方をカタリーナが指差しながら言う。


思わずグランを見ると、情けないことに俺達のリーダーはファルーアを見た。

ファルーアは髪をくるくるしながら、澄まし顔でグランの背中をバシッと叩く。


「……うぐっ」

話しなさい、という合図に見えるけど、グランは予想外だったらしく、一気に背筋を伸ばす。


「こ、心当たりはある。……教えるのは構わねぇし、協力出来るってんならそれに越したことはねぇんだが……俺達には何の得があるんだ?」

「ハッハァ!大盾!俺と戦う権利を……」

「黙りなガルニア……あんた、それ以外無いのかい?」

割り込んできた黒鎧の大男に、リューンがさらに口を挟む。

緩く束ねた赤い髪が、がっくりと項垂れた彼女の肩に垂れた。


……随分静かだったけど、あいつ寝てた訳じゃなかったんだな。


俺が呆れていると、アンセンが腕を組んで言った。

「師匠、そこなんだ。俺達にしか得が無いのはやはり……」

どうでもいいけど、真っ赤だった顔色は戻っている。


「あっはは!そんなの、簡単だろ!トレージャーハンター協会に依頼を出すことにすンのさ!いいよねストー?」

「わあ、それ私に振っちゃうんですね……うーん、実は少し悩みます」

「えっ?な、何でさ?」

「彼等、本業はアイシャの冒険者なんですよ。それも、ギルド員ですら所持している者に出会えることが殆ど無いという名誉勲章を持っている。さらには各国の王様とも繋がりがあるそうです」

ストーはにこにこしながら俺達のことを暴露していく。


グランは額に手を当てて、唸った。

「個人情報だぞ」


しかしストーはそれを綺麗にスルーして、どんどん続ける。

「流石にその人達からの情報を貰いましたよーなんて、帝国上層部や一部の古ーい帝国兵に知られると厄介ですねぇ」


あー、成る程。

良く思っていないアイシャの人間から情報を貰ったってのは良くないってことか。

面倒くさいな、この国……。


それを聞いていたカタリーナは頭をぐしゃぐしゃして、天井を見上げる。

「えぇ……?君達、そんな高い地位なの?」

「いや、地位は別に高くねぇが……」

グランが切り揃った顎髭を擦って言うと、彼女はうーんと唸った。

「いや、それでも困ったねぇ、依頼にしないと予算下りないし、そんな金、個人じゃ払えないンだよねぇ……」


「……あの」

そこでおずおずと手を上げたのはディティア。

「はいどうぞー」

何故かストーが言うと、彼女は言った。


「それなら、カールメン王国の樹海の街ライバッハに情報を貰った形に出来ませんか?」


一瞬、沈黙が訪れる。

そして。


『それだ!』


カタリーナとアンセンの声が、綺麗に重なった。


…………

……


ライバッハはアイシャとの玄関港。

そしてカールメン王国自体がアイシャとは比較的良好な関係だ。


情報が集まっていて当然である。


それを逆手に取った形で、利用すればいい。


因みに、砂漠の街ザングリの協会支部は小さかったので、ライバッハの方が都合が良かったのもある。

ライバッハの双子は、アイシャの商業の国ノクティアと繋がってるようだったしな。


そんなわけで、ストーは早速その辺の羊皮紙を勝手に拝借して、さらさらと依頼文を書いた。

その下には、グランが「代わりに話しておいてやった」旨を記し、宛名に「ナチ、ヤチ」の名前を入れる。


「依頼料をライバッハに送ります。報酬は白薔薇に払いましょう。もしライバッハから抗議が来るようなら、私が対応しておきますから」

ストーは簡単にそんなことを言って、カタリーナを見た。

「あ、私が辞めるようなことになったら、雇ってくださいね」


彼女はそれを聞くと、パタパタと手を振って笑いながら答える。

「ははっ、ストー、本当は帝都でそれなりに偉いんだろう?あたしが雇う意味無いだろうに」


ストーは眼をぱちぱちさせながら丸眼鏡にそっと触れた。

「わあ。それは私の個人情報ですよ?」


「あーそう言えば、情報集めて帝都に送ってるって言ってたもんねー。もしかして皇帝とも関係してたり?」

さらに突っ込んだのはボーザックだ。

ストーはあははと愛想笑いして、言った。

「まあ、多少は、です!」


……恐ろしい会話である。


「よし、じゃあストー。皇帝が俺達アイシャの人間に敵意が無いようなら、名を売るのを手伝え」

さらにグランが、ぽんと膝を叩く。


俺はアイシャのヴァイス帝国の武勲皇帝を思い出し、身震いと共に何となく切ないような気持ちが込み上げてくるのを感じた。

……新皇帝のラムアルは元気にしてるだろうか……いや、彼奴なら溌剌としてそうだな。


俺の考えを余所に、ファルーアは置いてあったポットで皆のお茶を適当に足しながら、ふふっと妖艶な笑みを溢した。

「あら、良いこと言うわねグラン」


******


そんなわけで、俺達はアイシャで起こっていた地震の話と、それによって引き起こされた『災厄の黒龍の復活』のことを話した。


それとなく、魔力結晶が関わっていたことも伝えておく。


もしも今トールシャで起こっている地殻変動が同じような意味を持つなら……それは。

トールシャにとって、脅威となることは間違いなくて。


「もし魔力結晶を集めている奴が地殻変動の近くにいるとしたら、俺なら疑うぞ」

ストーが、何者かが魔力結晶を集めていると話していたことを蒸し返して、グランが締め括る。


そっとグランに目配せすると、彼は俺達白薔薇に向けて、囁いた。

「ユーグルのロディウルの話……覚えてるな?」

俺だけでなく、その時は眠っていたファルーアも頷いた。


『災厄はあらゆる所に封印された。その討伐を手伝うなら、古代の歴史と事の顛末を教えてやる』


……この話を、ここでするべきかどうか。

グランは、カタリーナやアンセン、ストーの言葉を、じっくりと待っているようだ。


俺は手のひらにじっとりとかいた汗を、そのまま握り締めた。



12日分です!

よろしくお願いします!

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