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逆鱗のハルトⅡ  作者:
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不吉な予感です。⑥

「わあお……ざっくりと恐いこと言ってるねぇ」

苦笑するボーザックに、ファルーアが髪を払ってから肩を竦めた。

「……どっちにしろ、私達も気になっていることが多いわ。仕方なさそうね」

「そうだね……色々と不安な気持ちしかしないな」

ディティアが、心配そうに応える。


それを見て、俺は思わず彼女の頭をぽんぽんして笑った。

「大丈夫、俺達ならやれるって」

「…………」

ディティアは驚いた顔をすると、首を竦めて、恨めしそうに俺を見上げる。


「ハルト君、あのねっ……わかるかな、この空気!」

「……ん?」

見回すと、皆が、生温かい眼で俺を見ていた。


何だよ、何時ものことじゃんか。


首を傾げる俺に、爆風が歯を見せて笑った。

「お前は面白いな、逆鱗」


「爆風。これはデリカシーに欠けるって言うのよ?」

「あははっ、ハルトだもんねぇ」

「ちっ…これだからくそガキは」

「リューン、あんた大切な客人にそんな口聞いてるのかい?」

「……な、何だよ!」


……ん、何かややこしいことになってきたぞ?

ぽんぽんしていた手を離すと、ディティアははっとしてバシバシと床を叩いた。


「もー!はいっ!皆さんっ、脱線してます!はいっ!次行きますよー!!」


そんなわけで。

まずはカタリーナが話をすることになった。


……年の頃は30半ばってところだろうか。

研究室を任される年齢としては若いんじゃないかなーなんて勝手に考える。


俺がそんなことを考えている内に、カタリーナは皆をぐるっと見回してから「じゃあ、始めようか!」と笑う。

彼女はすぐ後ろにあった比較的新しい本を2冊手に取ると、パラパラッと捲ってあるページを開き、差し出した。


「魔力結晶の灯りの光を、五段階で評価した実験結果だ。……で、こっちが地殻変動と思しき現象の発生日と、その場所」


白い指がすっと指し示す箇所を俺は眼で追った。

魔力結晶の光は1から5で表され、5が平均的な毎日の明るさだと印されている。

その測定日は……うわ、2年もやってるんだな。


そして、地殻変動の表。

これは1年前くらいから始まっていて、日付と場所が印されて地図になっていた。

ヤルヴィを中心に、かなり大まかで広範囲の地図である。

砂漠は港であるザングリとオアシス、そして俺達が行かなかったカーマンしか印されていない。

……迅雷のナーガの故郷、ダルマニは省かれていたのだ。


「……これ、まただいぶわかりやすいな」

俺は腕を伸ばし、地殻変動の日付と魔力結晶の測定日をそれぞれ照らし合わせた。


「3、2、1……」

「わ……、本当に地殻変動の日に暗くなってるんだね」

ディティアが俺と頭を突き合わせるようにして覗き込む。 


「…………ここにも1があるけど、数週間前だね。でも地殻変動は起きてなさそうだよ」

彼女は左手で流れる髪を押さえ、右の人差し指を本に這わせた。

「そうだな。んー、俺達が砂漠にいたくらいか……」

「うわっ、じゃあこれ、もしかして、グランとハルトが遺跡に落ちた時じゃない?」

そこで、ボーザックが身を乗り出す。


「……」

俺とグランは顔を見合わせて、小さく唸った。


あれは、本当に死んだと思ったからな……。


思い出してぞくりとした俺を、ディティアが隣から覗き込む。

「大丈夫?」

「!……あ、悪い。ちょっとひやっとして」

「……うん、私も思い出しちゃった」

ディティアは困ったようにはにかんだ。


……そっか、ディティアも不安にさせたもんな。


「ごめんな」

思わず俺もはにかむと、彼女は何故か頬を紅くして俯いた。


「ん、どうした?」

「いや、思ったより近かったから今更びっくりしたというかですね……」


「ふっ、若者はいいな!!」


「ひゃ!?」

それを聞いて、急に爆風がディティアの頭をわしわし。

彼女が首を竦めると、歯を見せて笑いながら、彼はカタリーナを振り返った。

「とりあえずお腹いっぱいだ!次に進んでくれるかな、カタリーナ」


「う、うう……酷いです、ガイルディアさん」

ディティアは頭をわしわしされながら、縮こまっている。


「……おっ、もういい?じゃあ聞かせてもらおうか。この辺りに、砂漠で地殻変動があったってこと?」

カタリーナは笑いながら、魔力結晶の測定日を指差した。

よくわからないけど、俺達の話を待っててくれたってことかな。


隣にいるアンセンは、何故か右手で目元を覆っている。

「あら所長……耳、真っ赤よ?意外とうぶなのかしら」

「う、煩い。黙っててもらえるか」

ファルーアが妖艶な笑みを浮かべ、楽しそうに弄っているのを横目に、俺は首を傾げるしかない。


……うん、何だかさっぱりだ。

何でアンセン、あんなに照れてるんだろうか。


「そうだな、砂漠で流砂の位置が変わっていたのもあるが、この辺りで突然砂柱が噴き上がって、俺とハルトはそこから地下の空洞に落ちたんだ」

グランはそう言って、砂漠の地図の真ん中あたりにあるオアシスよりも南側を指先でとんとんと叩く。

カタリーナは嬉しそうにサラサラと追記した。


その本って書き込んでいいのか……?


「他にもまだ1とか2があるな」

色々と思いつつ俺が言うと、ストーが満面の笑みを浮かべた。

「そこは私が説明出来そうです」

彼はカタリーナからペンを受け取ると、地殻変動の地図に日付と場所を印していく。


すごいな、あれ全部覚えてたのか。


「……これって、ヤルヴィに近いところの地殻変動の時は1ばっかりだから、結構暗くなってるってことだよね」

ボーザックはそう言ってお茶を飲んだ。


「そうね、距離が関係しているんだわ。……そうすると、この4だけれど……」

ファルーアが、1の範囲、2の範囲……と言いながら指先をヤルヴィから放していく。

そして、4の範囲になった場所は、本の外。

俺は息を呑んだ。


「もしかして……アイシャか」

呟いた言葉は、漂っていた甘いお茶の香りと一緒に、空気に溶けた。



本日分の投稿です!

いつもありがとうございます。

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