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逆鱗のハルトⅡ  作者:
108/308

そこが問題です。④

「……反応速度アップ、反応速度アップ、速度アップ」


広げたバフが俺とボーザックを包み込む。

爆風のガイルディアは悠々とそれを見守って、歯を見せて笑った。

「うん、そうこなくてはな。もう準備はいいか?」


ボーザックは白い大剣を構え、俺も双剣を握ってゆっくり腰を落とす。


「……いいぞ」

慎重に、声を、発した。


――瞬間。


シャアンッ!!! 


「うっおあ!?」


ガキィンッ!!


疾風のそれと似た、双剣を抜き放つ音。

そして音と同時に思える程の速さで、爆風が踏み込んできて双剣を繰り出す。

俺が咄嗟に剣で受けると、爆風はすぐさま引いて距離を取り、トントンと右のつま先で足場を確かめた。


「ほう……一撃で決めようと思ったんだが」


……ごくり、と。

喉を鳴らしたのは俺だったのか、ボーザックだったのか。

あんなの、反応速度を上げてなかったら対処出来ない。


「では、もう一度」


爆風の声に、俺は、ふうっと息を吐いた。


――集中しろ。



ガキィンッ!!



「っふ!」

「……っ、たあぁっ!」


大剣の腹で攻撃を受け止めたボーザックは、双剣を弾いた後に自ら距離を詰めた。

大剣とは思えない速さで振り抜かれる刃に、しかし爆風は動じない。


上半身を反らしてそれを避け、ボーザックへと踏み込んだ。


「っ、く」


堪らず引いたボーザックを追う爆風。

俺はその間に跳び込んで、その双剣を弾き上げる。


シャリンッ……!


「!?」

けど、爆風は剣の腹を滑らせて俺の一撃をいなし、その勢いのままぐるりと回転させた剣の柄で、俺の胸を突いた。


「ぐぅっ……」


「ハルト!……やあぁっ!」

背を丸めて蹌踉めく俺の横、ボーザックが剣を突き出す。

視界の端、白い刃が松明に照らされて紅く瞬いた。


「甘い」


「……っうあ!?」

爆風はまだ立て直せない俺の肩を思いっ切り『踏み台』にして飛び上がり、そのまま……。


「沈め」


どごおっ!!


ボーザックの左肩を、上から叩き伏せた。


「……ッ、……!!」

転がった俺と、その隣に叩き伏せられたボーザック。


爆風はボーザックの大剣に右脚を乗せ、俺達を見下ろした。

ギラギラした眼は、まるで……ガルニアのようだ。


「ふむ、中々いい動きをするな。……ひとつ、助言だ。お前達は優しすぎる」


深みのある、落ち着いた声。

それなのに、俺は身体中がぞわりとする程の畏怖を感じた。

決して、殺気があるわけじゃない。

それなのに、爆風の言葉は鋭利な刃物のようで。


「裏ハンターは、お前達には荷が重いように感じてな」


足を退けた爆風のガイルディアに、ボーザックが唇を噛み締めながら起き上がる。

左肩を押さえているのを見て、俺は治癒活性バフを重ねた。


……爆風は、まだ双剣を構えている。

同時に、俺もボーザックも、引き下がるつもりは無かった。


「……俺達が弱いってことか?」

聞きながら立ち上がって目配せすると、ボーザックは小さく大丈夫、と囁く。

再び大剣を身体の前で構えた小柄な大剣使いは、呼吸を整えた。


「そうだな……だがそれが問題じゃないぞ逆鱗。……裏ハンターは法を犯したトレージャーハンターを裁く役割を担っている。それは時に、非情な判断を行うってことだろう?」


爆風のガイルディアはそう言って、腰を落とす。


びゅっ、と。

風を切り裂く音がした。


俺はまた双剣で爆風の一撃を受け止める。

けれど、その時無防備になった俺の腹に、爆風は容赦なく膝蹴りを繰り出した。


「……ぐ……げほっ」

蹌踉めく俺の横、爆風へと繰り出される大剣。


俺はそれに合わせて歯を食いしばり、下から上へと双剣を突き上げた。


……でも。


爆風は左手の白い剣で俺の攻撃を弾き返し、右手の黒い剣でボーザックの大剣をいなす。


ゴッ……!!


そして、再度腹へと繰り出される強烈な蹴り。


「っく、は」


今度こそ、息が詰まった。

……後はもう、一方的な展開だ。


加減してくれているらしい一撃は、それでもかなりの痛みを伴う程。

それを、何度も何度も身体に叩き込まれる。

……ボーザックも同じように、ボコボコにされていた。 


…………

……


起き上がれなくなるまでボコボコにされるのに、そう時間は掛からなかった。


爆風はそれでも俺達を見下ろして、言葉を重ねる。

「非情な判断を出来ないままでは、一生俺に届かないぞ」


悔しいけど、これが。

今の俺達の力なのだと、思い知った……。



28日分です。

本日もありがとうございます!

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