そこが問題です。④
「……反応速度アップ、反応速度アップ、速度アップ」
広げたバフが俺とボーザックを包み込む。
爆風のガイルディアは悠々とそれを見守って、歯を見せて笑った。
「うん、そうこなくてはな。もう準備はいいか?」
ボーザックは白い大剣を構え、俺も双剣を握ってゆっくり腰を落とす。
「……いいぞ」
慎重に、声を、発した。
――瞬間。
シャアンッ!!!
「うっおあ!?」
ガキィンッ!!
疾風のそれと似た、双剣を抜き放つ音。
そして音と同時に思える程の速さで、爆風が踏み込んできて双剣を繰り出す。
俺が咄嗟に剣で受けると、爆風はすぐさま引いて距離を取り、トントンと右のつま先で足場を確かめた。
「ほう……一撃で決めようと思ったんだが」
……ごくり、と。
喉を鳴らしたのは俺だったのか、ボーザックだったのか。
あんなの、反応速度を上げてなかったら対処出来ない。
「では、もう一度」
爆風の声に、俺は、ふうっと息を吐いた。
――集中しろ。
ガキィンッ!!
「っふ!」
「……っ、たあぁっ!」
大剣の腹で攻撃を受け止めたボーザックは、双剣を弾いた後に自ら距離を詰めた。
大剣とは思えない速さで振り抜かれる刃に、しかし爆風は動じない。
上半身を反らしてそれを避け、ボーザックへと踏み込んだ。
「っ、く」
堪らず引いたボーザックを追う爆風。
俺はその間に跳び込んで、その双剣を弾き上げる。
シャリンッ……!
「!?」
けど、爆風は剣の腹を滑らせて俺の一撃をいなし、その勢いのままぐるりと回転させた剣の柄で、俺の胸を突いた。
「ぐぅっ……」
「ハルト!……やあぁっ!」
背を丸めて蹌踉めく俺の横、ボーザックが剣を突き出す。
視界の端、白い刃が松明に照らされて紅く瞬いた。
「甘い」
「……っうあ!?」
爆風はまだ立て直せない俺の肩を思いっ切り『踏み台』にして飛び上がり、そのまま……。
「沈め」
どごおっ!!
ボーザックの左肩を、上から叩き伏せた。
「……ッ、……!!」
転がった俺と、その隣に叩き伏せられたボーザック。
爆風はボーザックの大剣に右脚を乗せ、俺達を見下ろした。
ギラギラした眼は、まるで……ガルニアのようだ。
「ふむ、中々いい動きをするな。……ひとつ、助言だ。お前達は優しすぎる」
深みのある、落ち着いた声。
それなのに、俺は身体中がぞわりとする程の畏怖を感じた。
決して、殺気があるわけじゃない。
それなのに、爆風の言葉は鋭利な刃物のようで。
「裏ハンターは、お前達には荷が重いように感じてな」
足を退けた爆風のガイルディアに、ボーザックが唇を噛み締めながら起き上がる。
左肩を押さえているのを見て、俺は治癒活性バフを重ねた。
……爆風は、まだ双剣を構えている。
同時に、俺もボーザックも、引き下がるつもりは無かった。
「……俺達が弱いってことか?」
聞きながら立ち上がって目配せすると、ボーザックは小さく大丈夫、と囁く。
再び大剣を身体の前で構えた小柄な大剣使いは、呼吸を整えた。
「そうだな……だがそれが問題じゃないぞ逆鱗。……裏ハンターは法を犯したトレージャーハンターを裁く役割を担っている。それは時に、非情な判断を行うってことだろう?」
爆風のガイルディアはそう言って、腰を落とす。
びゅっ、と。
風を切り裂く音がした。
俺はまた双剣で爆風の一撃を受け止める。
けれど、その時無防備になった俺の腹に、爆風は容赦なく膝蹴りを繰り出した。
「……ぐ……げほっ」
蹌踉めく俺の横、爆風へと繰り出される大剣。
俺はそれに合わせて歯を食いしばり、下から上へと双剣を突き上げた。
……でも。
爆風は左手の白い剣で俺の攻撃を弾き返し、右手の黒い剣でボーザックの大剣をいなす。
ゴッ……!!
そして、再度腹へと繰り出される強烈な蹴り。
「っく、は」
今度こそ、息が詰まった。
……後はもう、一方的な展開だ。
加減してくれているらしい一撃は、それでもかなりの痛みを伴う程。
それを、何度も何度も身体に叩き込まれる。
……ボーザックも同じように、ボコボコにされていた。
…………
……
起き上がれなくなるまでボコボコにされるのに、そう時間は掛からなかった。
爆風はそれでも俺達を見下ろして、言葉を重ねる。
「非情な判断を出来ないままでは、一生俺に届かないぞ」
悔しいけど、これが。
今の俺達の力なのだと、思い知った……。
28日分です。
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