そこが問題です。③
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「アーマンを呼んでくれ」
爆風のガイルディアと一緒に、俺とボーザックは兵舎を訪れたわけだけど。
兵舎では、今日も受付と思われる小窓の中、甲冑姿の2人が俺達を迎えてくれた。
……前と同じ奴等なのかなあ。
見た目が甲冑なのでさっぱりわからない。
いきなり鍛えてやろう、だなんて言われたから、正直心の準備が全然出来てなくて、なんだかそわそわする。
そもそも何で俺達なんだろう?
あれこれ考えていたら、金の髪に蒼い眼の、優しい顔立ちの男が入口を開けて出てきた。
「戻ってきたか。上手くいったのだな」
両手を広げる彼は、アルヴィア帝国兵第五隊隊長、アーマン。
甲冑は、着ていなかった。
…………
……
訓練場を使わせてほしいと爆風が言うと、一瞬驚いた顔をしたものの、アーマンは快く頷いて通してくれる。
……レンガ造りの建物内は、壁に等間隔で灯りが取り付けられていた。
透明なグラスのような物の中、光っているのは魔力結晶だ。
……色々な話を聞いた後だったのもあって、気持ちが暗くなる。
その灯りの中を自ら案内しながら、アーマンは笑った。
「スレイ、仮面はやめたのか?似合っていたのに」
「ん、あぁ、少し様子を見たい相手だったからな。目的は達したからやめたまでだ。……ところでアーマン、貴殿は俺の本当の名を知っているんじゃないか?」
様子を見たい相手っていうのは、きっとディティアのことだろう。
ぼんやり考えていると、アーマンはさらりと言ってのける。
「……む。やはりおかしかっただろうか?私の振る舞いは」
……明らかな、肯定。
爆風は、それを聞いて笑った。
「まあな、気を遣ったつもりが警戒させてしまっていたようだ。すまない」
「へえ、アーマン、爆風のガイルディアを知ってたの?」
そこでボーザックが、周りを眺めながら言う。
彼も俺と同じように、少しぼんやりしているみたいだ。
アーマンはそれに頷くと、微笑みながら髪をかき上げた。
「有名な話だからな。地龍グレイドスを屠った者達の物語は。誰もが知っている」
「……でも、アイシャの人間は帝国兵に快く思われてないんだろ?」
あんまりにも自然に言われたから、俺は思わず聞き返す。
「……」
蒼い眼を俺に向け、少し困った顔で頷いて、彼はゆっくりと言った。
「そうだ。けれど、私はその限りではない」
……その答えに、俺は自分が失礼なことを聞いたんだと気付く。
「あ……その、悪い。別にアーマンを貶すつもりじゃ……」
口にすると、爆風が俺の肩を叩いた。
振り返ると、明るい茶色の眼が俺を映し、静かに光を湛えている。
底が知れない程に深く澄んだ眼に、思わず魅入った。
「逆鱗。それは謝る事じゃない。帝国兵の現状だ。何も間違いじゃないさ」
彼はそう言って、その眼をすっと細め、アーマンを見る。
「アーマン。この国では貴殿は稀な方だろう?」
「…………そう言われると、返せないな」
帝国兵第五隊隊長は、苦笑すると廊下の先を指差した。
「突き当たりを右に出れば訓練場だ。……私は職務があるので外すよ。代わりに、すぐ兵をひとり寄越す。終わったら、その者に伝えてくれ。入口まで案内させる」
……俺にはそれが、爆風の視線から逃げたようにも見えた。
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「俺への一撃を決めたら終わりにしてやろう。バフも使え。……どちらから来る?……それとも、ふたり同時に来るか?」
訓練場は星空の下、煌々と燃える松明に照らされていた。
白いレンガを並べて造られた巨大な台は、その隙間を粘土で埋めて固められているようだ。
その上に軽やかに飛び乗って、オレンジ色の灯りに影を揺らめかせる爆風が、ちょいちょいと手招きする。
その顔には、不敵な笑み。
まるで威圧にも感じられる風が、ぶわあっと、吹き抜けていった。
俺はボーザックと顔を見合わせる。
ボーザックは唇を引き結び、そっと背中の大剣に手を回すと、すーっと息を吸った。
1度閉じられた眼は、再び開いた時には爛々と強い光を湛えている。
「……ふたりで行こう、逆鱗のハルト」
「……ああ。悔しいけど、そうでもしなきゃ話にならないだろうな。……行くか、不屈のボーザック」
俺達は拳同士を打ち合わせ、台に上がるのだった。
27日分の投稿です!
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