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逆鱗のハルトⅡ  作者:
104/308

風は踊るのです。⑥

******


協会支部に戻る頃にはいい感じに腹が減っていた。

屋台みたいなものも無いし、さっさと報告を済ませたい所である。

見れば見るほど、統一されたレンガ造りの街並みと高そうな店ばっかりだ。


「表皮が硬いから、かなり骨が折れるかもしれねぇぞ」

仕事を受けさせるために、アマルスだけは同行してもらっていた。

グランが声をかけると、アマルスは少し考えて大丈夫と答える。

「真っ二つになってんだろ?肉側から剥げば何とかなるさ。革はかなりいい素材になるかもしれねぇし、早いところ持って帰ってきてちゃんとした加工をしてもらわねぇとな」

「魔法にも耐性ありそうだったし、結構高く売れるかもね」

ボーザックが楽しそうに言う。

「へっ、そしたらエニルを治して、ヤヌに店を開いてやるさ」

アマルスが応えて、頭を掻く。

「……まあ、何だ。その、本当に、感謝はしてるっていうかよ。……こんなゴミみてぇな俺に、そこまでしてくれる奴等がいたってのに、驚いたし……。けど、そう、まだ捨てたもんじゃねぇんだなあって……ああくそ。何言ってるんだ俺は」

俺は思わず笑った。

いや、俺だけじゃなくて、白薔薇の皆である。


アマルス、めちゃくちゃ恥ずかしそうだ!


「その分、俺達のことでも語ってくれ」

グランが髭を擦りながら満更でもなさそうにアマルスの肩を叩いた。


…………

……


俺達は待っていてくれた支部長のストーに、まだヤンヌバルシャが転がっているから回収の仕事を出すことを伝えて、アマルス達を指定する。


「ははあ、成る程ですね。では彼等に斡旋しますが、仕事を頼むのにはジールが発生しますよ。登録料と、報酬です」

相変わらず、ストーの柔らかい物腰と微笑みが、重複のカナタさんにどことなく似ていてそわそわした。


「まあ、それはそうなるわね」

ファルーアが頷いて、アマルスを振り返る。

「宿、1泊いくらかしら?」

「……ん?宿か?3人で3,000ジールだ」


ちなみに、俺達の故郷であるラナンクロスト、その湊町である海都オルドーアの素泊まり出来る安宿が、俺達5人の時で4,000ジール。

アマルス達も素泊まりとのことで、相場としてはそんなに差はないようだった。


「そしたらとりあえず10,000ジールでどうだ?あとは素材で賄えるかもしれねぇし」

「いやいや、それ俺に聞くことじゃねぇからよぉ……本当にいつか騙されちまうぞ?」

呆れるアマルスは、ため息を付くと、少し考えて言った。


「はあ。……5,000だ。それと、剥いだ革の金額を一部貰う。革は売った額の4割でどうだ、残りはそっちで分配しろ。これで相場よりは高いんじゃねぇかと思う」

「何だい、そんなもんでいいのかい?」


そこで何故かリューンが割って入る。


「ここの治療所、宿代なんか目じゃない金額を取るだろ?腕はいい奴ばっかりいるけど……もしかして知らないのかい?……ちっ、これだから馬鹿な奴は。くれるって言ってんだ、貰っちまいなよ!……5割だ。あとの5割はこっちで1人辺りを均等に割り振る。これでどうだい?」

いきなり偉そうに振り返って、グランに詰め寄るリューン。


……たぶん目が悪いってのもあるんだろうけど、近いんだよなあ。


それから、アマルス達は断じて馬鹿ではない。

治療所ではその高い治療費を何とかしてでも払うと言い募っていたわけだしな。

……そう言えば、そっちにも報告が必要だろう。


グランは眼を白黒させながら、反射的にといった感じで頷いた。

「あ、ああ。それで構わねぇ」

「決まりだ。ガルニア、スレイ……じゃなかった、爆風だっけ?あんたもいいね!」

爆風のガイルディアが微笑んで頷く横で、厳つい黒鎧の大男は腕組みして豪快に笑った。

「ハッハァ!俺は金より力だからな!足りねぇ分は、戦え大盾!」

「意味わからねぇよ!戦わねぇよ!」

「意味はわからないけど、俺、ちょっと見てみた……いたっ!?痛いグラン!」

グランが突っ込むと、ボーザックが笑って返し、ゲンコツをくらった。


……こうして、アマルス達への仕事の依頼は完了。

早速明日出発するってことで、アマルスは先に宿に帰った。


そんなわけで俺達は漸く、ヤンヌバルシャ討伐の詳細報告へと移るのだった。


…………

……


「成る程ですね。まさか爆の物語の双剣使いだったとは驚きです」

トレージャーハンター協会ヤルヴィ支部、支部長のストーは俺達の報告を聞き終わり、嬉しそうに言った。

ガイルディアの話をするに当たって、俺達白薔薇がアイシャで何をしてきたかもざっくりと聞かせてある。

名誉勲章持ちって部分も、ストーは手を叩いて喜んだ。


まだあまり知られていない俺達白薔薇の話と違って、爆の物語は30~40年程前の話だから、トレージャーハンター協会やその内部のギルド支援者達にはよく知られているそうだ。

さすが、伝説とまで言われる冒険者である。


ただ、帝国ではアイシャを良く思わない人が多いと知った爆風のガイルディアは、しれっとスレイなんて名乗っていたらしい。


まあ、結果的にディティアが嬉しそうにしてるからいいんだけどさ。

……うん、何かこう、もやもやした変な感じはするけどな。


そうだなあ。

きっと、爆風に好き勝手舞い踊られた気がしないでもなかったからだろう。


もちろん、彼のお陰でヤンヌバルシャを討伐出来たと言っていいわけだけど、最初から教えてくれてたら、もっと楽だったはずだからさ。


……ストーの厚意で軽い食事も出してもらえて、腹もだいぶ満たされた。

ちなみに、高そうなふわっふわのパンに、肉汁滴る煮込んだ肉が野菜と一緒に挟まれている料理。

そして、その肉は今回話がややこしくなった原因でもある兎型の大型魔獣、ガリラヤの肉である。


ヤヌが作ってくれた煮込み肉の方が旨かったなぁ。

やっぱりあいつ、絶対店を開くべきだ。


甘い香りのお茶を堪能しつつ、俺達は次の話へと移る。


……帝国と、その研究対象である魔力結晶について……だ。


同時に、ストーは丸眼鏡を光らせて、意味深に微笑む。

「何かが起きている……そんな気がしませんか?」


すみません、マシになったので投稿です。

二日開いたりするときは活動報告で更新状況をあげることにしています!


来て下さった皆さんには大変申し訳ないです。


いつもありがとうございます!

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