風は踊るのです。②
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刻む。
刻む。
切り刻む。
踏み切った爆風がぐるりと身体を捻り、時には下から上へと伸び上がるように、力強く舞う。
荒れ狂う風のようなその戦い方は、疾風のディティアのそれと確かに似ていた。
でも、違う。
ディティアは力を速さで補っているけど、爆風のガイルディアは力も速さもある。
何より、そこに更に体重を乗せたりする見事な舞が……そう、格の違いってやつを見せ付けていた。
……有り得ないと思うほどに、強かったんだ。
グランが、息を呑むのを見た。
ボーザックが、呆然と立ち尽くすのを見た。
思わず、俺はぎゅうっと双剣を握り締めた。
ヤンヌバルシャはのたうち回るけど、そんなのをものともせずに立ち回る熟年の男は、歯を見せて笑った。
「こいつは……中々骨が折れる。そろそろ行くぞ、光炎!」
「……っ!い、いつでもいいわ!」
隣にいたファルーアが、はっとして龍眼の結晶を地面に突き立てる。
「……伝説の冒険者……本当、神々しいわ。彼等に追い付くにはまだまだね……悔しいけれど」
「……ああ」
応えて、思う。
ディティアよりも強くなりたいって、俺は思っていたけど。
それじゃあ駄目だったんだ。
疾風のディティアが目指している強さが、目の前に現実を突き付けてくる。
俺が彼女を越えるには、彼の強さが必要なんだ……。
ファルーアの手元で、龍眼の結晶が光を放つ。
魔力感知バフは使っていなかったけど、魔力が彼女の周りに渦巻いているような気がした。
「ふっ!」
爆風が、跳ぶ。
彼はうねる大蛇の背を一気に駆け上がった。
「はぁあッ!!!」
「キシャアアァァ―ッ!!」
顎を思い切り開いて、ヤンヌバルシャはズタズタになった身体を伸び上がらせ、爆風のガイルディアを呑み込もうと牙を剥く。
しかし、爆風は下顎の先端、その内側に迷わず白い剣を突き刺し、その勢いのまま叩き伏せた。
ズドオォンッ!!!
――爆風のガイルディアより遥かに大きなその巨軀が、一撃で、地面に沈むなんて。
信じられなかった。
その瞬間、勢いで閉じそうになった上顎には、黒い剣。
双剣の柄の背部分がピタリと合わさって、地面に叩きつけられた大蛇の口に双剣2本分の隙間が開く。
「行きなさい!!」
ファルーアの声が響き渡ると、いくつもの卵大の光球がギュンギュンと大蛇へと向かって飛んでいった。
白く見えるほどの色になった、炎の球のようだ。
かなりの高温に違いない。
それは瞬く間にヤンヌバルシャの体内へと消え、同時に爆風のガイルディアが双剣を振り抜いて大きく後退する。
「ギャッ……シャギャアアァアアッ!!」
――それは、断末魔か。
「弾けなさい」
ファルーアの、妖艶な声。
ヤンヌバルシャが、ぐにゃりと身体を捩り……。
ドバアァァンッ!!
「うぇっ、ええぇ―ッ!?」
弾け飛んだ。
その破片達は炎に包まれて、燃え上がる。
辺りにはその臭いが広がり、両断されたヤンヌバルシャが地面に転がった。
「…………思ったより強いわねこの魔法」
「ファルーアさん、あの、ヤンヌバルシャ……かなり派手に弾けたんだけど」
言いながら、俺はげんなりとファルーアを見る。
いや、凄いんだけど、恐ろしい光景だったのは間違いない。
彼女はふふ、と妖艶な笑みを俺に向けて、言った。
「今なら、飛龍タイラントくらいは弾けさせることが出来るかしら?」
「いやいやいや」
見たくない。
万が一出来るとしても、極力避けてもらいたい。
俺はパチパチと手を叩いて笑っている爆風のガイルディアへと視線を戻す。
彼はこっちに来ると、ファルーアを見た。
「うん、いいぞ。……やはり、その炎は爆炎の爺さんのを継いだんだな?」
「あら……やっぱりわかるのね」
「そりゃあなあ。今の、地龍をやった時の魔法だったからな」
爆風のガイルディアは、肩を竦めて苦笑する。
っていうか、地龍、これで屠られたのか?
恐るべし爆炎のガルフ……。
俺は白髭の爺さんを思い出して、ひっそりと安堵のため息をついた。
「わあ、そうなんだ!ファルーア知ってたの?」
ディティアもやって来て、爆風の隣に立つ。
ファルーアは龍眼の結晶の杖を抜くと頷いた。
「ええ。ガルフの本に載っていたわ」
「ははっ、爺さん、元気か?銀髪坊やのお守りしてるんだったか」
笑う爆風は、目尻の皺が深くなって、優しい印象を受けた。
くそ、何か格好良く見えるんだけど。
「銀髪坊やって……閃光か?」
グランが白薔薇の大盾を背負いこっちに来る。
その向こうには、まだ黒い大剣を持ったままのガルニア。
爆風は顎の辺りに右手を添えると、うんうんと頷く。
「そうそう、そいつだ。閃光のシュヴァリエ」
俺は聞こえた名前に、思わず顔を顰めたわけだけど。
ファルーアが、楽しそうにクスリと笑う。
「そうよ、爆炎のガルフは彼のパーティーにいるわ。その閃光に2つ名を貰ったのが、逆鱗のハルトね」
「ふん、言うと思ったよ!」
思わず応えると、疾風のディティアがふふっと笑った。
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