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逆鱗のハルトⅡ  作者:
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海は広いです。①

ざぶざぶ、と、波をかき分けて船は進む。

大海原っていうのはこういう景色のことなんだろう。


見渡す限りの深い碧。

見上げた空には大きな白い雲がゆったりと流れていた。


大型商船、ジャンバック。

新大陸と海都オルドーアを結ぶ巨大な船は、半年に1回、ノクティアを経てラナンクロストに寄港する。


定刻通りで遅れたことがなく、魔物に襲われたこともないジャンバックは『奇蹟の船』と呼ばれ、時間や縁起を気にする商人に大人気らしい。


今回、俺達白薔薇は海都オルドーアのギルドの計らいで、この船に乗り込むことが出来た。

ギルド長であるマローネ……相変わらず男か女かわからなかった……が、俺達の到着と同時に乗船券を探し回って手配してくれたのである。


そんな奇蹟の船には船員、商人、大量の商品達に紛れて新大陸を目指す冒険者達も乗り込んで、連日何かしらのセールだとか揉め事だとかが起きていた。


俺達は、その上でまだ見ぬ新大陸に想いを馳せる……はずだったんだけど。


「うぅぷ……ば、バフが…欲しい…」

「はいはい。精神安定!」

手すりにもたれ掛かった真っ青な顔色の大剣使いにバフを投げてやる。

少し落ち着くのか、何度か深呼吸して、彼はよろよろと背筋を伸ばした。

船室にいるよりは、外の空気を吸う方が楽なんだとか。


「はぁあ…辛い…」

どうやら、船酔いは馬車酔いの比じゃないらしい。

前に乗った河を渡る船と違って、海の船は相当揺れることもある。

180ある俺よりは小柄で、170センチくらいの大剣使いは、短い黒髪をガシガシして、悲しそうな声をあげた。

「ずっとこれだとしたら、俺もう船は乗れないよ…隣の大陸に渡ったら、ラナンクロストに帰れないよ…」

「大袈裟だなぁ」

「言っとくけど、これは酔う人にとっては死活問題だから」

恨めしそうに言われて、笑いを返す。


諦めたのか、落ち着いたのか、彼は遠くを見渡した。


「……それにしても……海って広いねぇ」

「ああ、そうだなー」


******


冒険者養成学校を卒業し、6年を4人パーティーで過ごしてきた。

そこに、同級生であり、有名な2つ名を持つ双剣使いを加えて、5人パーティーになった俺達、白薔薇。

さらには銀色の美しい毛並みを持つ魔物、フェンリルのフェンを仲間にし、最終的には5人と1匹になった。


前衛の大盾、豪傑のグラン。

4国の王に認められて付けられた2つ名を持つ、鍛え上げられた筋肉のいかつい体躯。

しかも187センチという、切り揃えた髭の大男。

紅い髪と眼が近寄りがたいが、実は面倒見の良い俺達のリーダー。


前衛の大剣、不屈のボーザック。

ラナンクロスト王都で行われた剣術闘技会で勇敢に闘い、完遂のカルーアと呼ばれる大剣使いから2つ名をもらった。

背はそんなに無いがそれをカバーする大きな剣と俊敏さを売りにした、黒髪黒眼の男。

絶賛船酔い中。


中衛のバッファーの俺、逆鱗のハルト。

金に近い茶の髪と、青い眼。

程々に鍛えた身体で背は180センチとそこそこ。

ラナンクロストの王国騎士団次期団長、閃光のシュヴァリエから付けられた2つ名は…正直不本意きわまりない。


後衛のメイジ、光炎のファルーア。

昔、甚大な被害を与えていた地龍グレイドスを屠った、伝説のメイジとまで言われている爆炎のガルフから2つ名をもらった。

長い金髪と俺と似た青い眼の、さばさばした女性。

背もボーザックと同じくらいあって、女性にしちゃ高い方だろう。


そして、幅広くカバー出来る、遊撃手的な立ち位置をとる双剣使い、疾風のディティア。

肩程までの濃茶の髪とエメラルドグリーンの眼をした、160センチないくらいの小柄な女性。

ファルーアに2つ名を付けた爆炎のガルフと同じく、地龍グレイドスを屠ったパーティーにいた爆風のガイルディアが付けたという2つ名は、彼女にぴったりだ。


全員同級生だけど、グランが6つ上、ファルーアは2つ上で、ボーザックと俺、ディティアが同じ年齢である。


そして、銀風のフェン。

もふもふした銀色の毛並みで、仲間になってから今まででかなり大きくなった。

1メートルくらいだったのに、今やボーザックより大きく見える。


4つの国が治める大陸を後にして、西の大陸へと渡る決意をしたのはひと月程前だった。


海都オルドーア…俺達が彼の飛龍タイラントを屠り、俺自身は逆鱗なんていう不本意な2つ名をもらった港町からこの商船に乗り込み、早3日。

俺達にとっての新大陸まではあと3週間くらい掛かるらしい。


ちなみに、俺達がいた大陸はアイシャ、これから向かう大陸はトールシャと呼ばれていて、言葉も大体通じるし、使うお金……つまりジールも同じとのこと。

遠い昔、古代都市なんてのがあった時代に、交流はほぼ絶たれたらしいけど、文化は大きくは変わらなかったんだな。


一応、トールシャの主要都市にはギルドも設置されているそうで、依頼を熟しながら冒険が可能だ。


「お待たせ、お水貰ってきたよ」

甲板にいた俺とボーザックの所に、ディティアとグランが戻ってくる。

ディティアはボーザックのために水を取りに行ってくれていて、グランは丁度昼時なのもあって食べ物を取ってきてくれていた。


俺はボーザックのバフ要員で甲板に残り、少し船酔い気味のファルーアと、船内で気ままに過ごしているフェンは船室で休んでいる。


「ありがとうティアぁ」

「あはは、大変だねボーザック」

ディティアから水を受け取ると、ボーザックはそれと一緒に、煎じて粉にされた薬草を飲んだ。


「うげぇ、苦い」


「それで船酔いに効くならいいじゃねぇか」

グランに言われて、ボーザックは口元を拭いながら顔をしかめた。

「まあ、そうなんだけど」


薬草は、船乗りが常備している船酔いに効くものらしい。

新人船乗り達で船酔いを発症する奴等は結構いるそうで、ボーザックを気遣って分けてくれたんだ。


有難い。


「じゃあ私はファルーアにもお薬渡してきます」

「おう、飯食えそうなら出て来いって伝えてくれ」

「はい!」


グランに言って颯爽と駆けていく彼女を見送って、俺達は甲板の日陰になった場所に腰を下ろした。

思い思いに休んだり取引しているらしい商人達、めぼしい物を探す冒険者達を横目に、昼食にする。


今日は、釣れた魚がふんだんに盛り込まれた冷たい麺。

ボーザックも、落ち着いたようで口にした。


……気の毒ではあるんだけど、早速雲行きが怪しい気がしなくもないなぁ。


目標は逆鱗のハルトと同じく1日1話更新。

目安は21時から24時です。


仕事と飲みなどなど、予定通りいかないこともあるので、生温かく見守っていただければ幸いです。


初めましての方も、そうでない方も、どうぞよろしくお願いします。


なんと初回なので1時間おきくらいに4話更新しようと思います。

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