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過ぎ行く彼女との日々

本日二話目の投稿です。

前話をお読みでない方はそちらからお読み下さい。

 聖剣の訓練の合間を縫っては、日々、レンとの交流を図る。

 俺とレンが一緒にいる所を目撃した人々の感想は様々だ。

 何かにつけて『私のほうが勇者様に相応しいのに』と遠回しに言ってくる女性は無視だ。

 大抵は悲鳴を上げて逃げて終わるしな。

 ……逃げるのは、俺だが。

 『あんな、良くも悪くも普通の女を宛がわれて、可哀想になお前。同情するぜ』と言ってくる貴族出身の騎士には『ああ、ありがとう』と棒読みで答える。

 勿論、訓練の際にその相手となった時には容赦なく叩きのめす事は忘れない。

 レンは優しいし、可愛いのだ。

 その事は別に一生知らなくていいが、侮辱した報いは受けてもらう。

 逆に、『いい雰囲気じゃないか、大切にしろよ?』と言ってくる者達とは親しく交流を持つようにしている。

 邪王退治後は、ここで騎士として暮らすだろうから、友人は作っておかないと。

 そんなふうに日々を過ごし、他の勇者が揃う日が、もう目前に迫った日の事。

 レンが全身びしょ濡れで歩いているのを発見した。

 レンは苦笑しながら『不幸な事故があって』と言っていたが、十中八九、女性達からの嫌がらせだろう。

 もしかしたら、今までにも何度もあったのかもしれない。

 ……気づかなかったなんて、情けない。

 俺は色々とレンに甘えさせて貰っているから、レンにも甘えて欲しいと思っている。

 けれど、レンは何か辛い事があっても我慢して、後で一人になってから泣くタイプであろう事も、初日のあの夜で既にわかっている。

 だからこそ、気づかなければいけなかったのに……。

 自己嫌悪と怒りを胸に燻らせながらレンを部屋まで送ると、俺は直ぐ様ある場所へ向かった。

 今はもう親しい友人となった、諜報部隊に属す騎士の元だ。

 邪王退治後の王城帰還後になるだろうけれど、俺のレンに手を出した事を、必ず後悔して貰う。

 女性は怖いが、レンに危害を加えたのであればそんな事は言っていられない。

 レンの事は、俺が守るんだ。


★  ☆  ★  ☆  ★


 旅に出て早々に、大神殿にいたミーフィヤという巫女殿をパーティーに加える事になった。

 彼女は俺の女性恐怖症とその顛末を知ると、それを治す為に協力すると申し出てきた。

 レン以外の女性が怖い俺としては正直近づいて貰いたくはなかったけれど、将来の事を思えば女性恐怖症なんて治したほうがいいに決まっている。

 俺は渋々協力をお願いした。

 そうして接していくうちに、段々とミーフィヤ殿に対する恐怖心は薄れていった。

 彼女はあの王城で俺を囲んでいた女性達とはまるで違う、思いやりと優しさに満ちた素晴らしい女性だった。

 ミーフィヤ殿のおかげで、女性恐怖症のほうも少しずつではあるが良くなってきていると思う。

 これならレンも安心して、俺に頼りがいを見出だし、甘えてくれるようになるかもしれない。

 そう思ってちらりと夕食の後片付けをしているレンを伺い見れば、そこには衝撃の光景があった。

 勇者の一人であるソイ殿が、レンの頭を撫でていたのだ。

 ……考えてみれば、俺はレンが結婚相手でなければ駄目だけれど、レンは別に、俺が結婚相手でなくてもいいのだ。

 勇者の面々は、ソイ殿も、ギュゼウ殿も、ジョーイ殿も、ノイン殿も、それぞれタイプは違うが、とても魅力的な男性だ。

 レンがいつ誰に心を奪われても不思議じゃないじゃないか!!


「う、うわわわわわわっ……! すっ、すまない、ミーフィヤ殿、俺、ちょっと……レンの所に、行ってくる!!」

「えっ? あっ、ユーゼル様……っ!!」


 俺は慌ててレンの元に駆けて行く。

 そしてすぐ近くまで近づくと、レンが泣いている事に気づいた。

 どうやら、ソイ殿はレンを慰めているらしい。

 ……何が、あったんだ?

 とりあえず、ソイ殿には、レンから離れて貰おう。

 レンを慰める役目は、俺に返して貰う。

 そう思ってレンを自分に引き寄せたが、レンは俺の腕から逃れてソイ殿を背に庇った。

 そして、泣いていた理由まで誤魔化されてしまう。

 ……レンにとって俺は、相談もできない程頼りない存在なのだろうか?

 これは、非常に良くない。

 俺もちゃんと頼りになる事を、レンにきちんと認識して貰わなければ!!

 それからの俺は、他の勇者達、特にソイ殿がレンに近づくのをさりげなく妨害しながら、事ある事にレンに手伝いを申し出て、頼りになる事をアピールしていった。

 そんなある日の夜、宿屋の食堂で全員揃っての食事を済ました後、部屋に戻るなりジョーイ殿が俺を見て溜め息を吐き、口を開いた。


「ユーゼル。俺達がレンさんに近づくのが不安で妨害するのはいいけど、自分がやっている事は理解できてるの? ユーゼルがミーフィヤさんと二人で楽しくおしゃべりしてる時のレンさんの顔、見た事ある? 自分が不安な事は、婚約者であるレンさんも同じように不安だって事、いい加減理解したらどう?」

「は? ……ミーフィヤ殿と、楽しくおしゃべり……? レンも、同じように……?」


 ジョーイ殿に言われた言葉を復唱し、その意味を考える。

 そしてそれを理解した途端、顔から血の気が引いた。


「ま、まさか、あの時レンが泣いてたのは……っ!! さ、最近ふと一瞬、暗い顔をするのも……日々強くなってる魔物が怖いのかと思ってたけどっ……もしかして……!?」

「……あのね。彼女が暗い顔をするのは、全部、君とミーフィヤさんの話が盛り上がってる時なんだけど? 気づかないどころか明後日の方向に解釈してるって……はあ。こんな阿呆が婚約者とか、レンさんも可哀想に……」

「なっ!? ……で、でも俺がミーフィヤ殿といるのは女性恐怖症を治す為で、レンだってそれは承知してる筈で……!!」

「ふぅん。なら聞くけど、レンさんが男性恐怖症だった場合、それを治す為だからって名目でレンさんが魅力的な男と二人きりで楽しくおしゃべりして盛り上がっていても、君は全く、これっぽっちも、不安にならないんだね?」

「!!」

「……。……理解したなら、これからはちゃんと気遣ってあげなよ。女性恐怖症を治す努力をやめろとは言わないけどさ。今のままじゃ、レンさん、可哀想だからね?」

「……た、対処、します……きちんと。レンを、不安にしないように……」

「うん、そうしなよ。ちゃんと忠告、したからね?」

「はい」


 レンとの将来の為にと思って女性恐怖症を治そうと努力しても、肝心のレンを不安にさせていては意味がない。

 俺はその日から、ミーフィヤ殿と過ごす際には必ず、『克服は今後の為に必要ですからね』と口にする事にした。

 これでレンにも、俺がミーフィヤ殿といるのはあくまで女性恐怖症を克服する為だとわかって貰える筈だ。

 その甲斐あってか、レンにも協力して貰えるようになった。

 機会を見つけては、俺を女性の元へと送り出すようになったのだ。

 試練が増えたが、レンが側で見守っていてくれるだけでやる気が出て、頑張れた。

 どうしても恐怖にかられた時にはレンにも同行して貰い、繋いだ手から勇気を貰って、乗り越えられた。


★  ☆  ★  ☆  ★


 ……だと、いうのに。

 いつの間にかレンの心は、だいぶソイ殿に傾いてしまっていたらしい。

 レンがソイ殿と二人きりで話しているのを目にした俺は、それを妨害しようと近づいた。

 すると、『どうでしょうソイさん? 私を、ソイさんの国に連れて行ってくれますか?』とレンがソイ殿に聞いているのが耳に入ったのだ。

 レンが、ソイ殿と、ソイ殿の国に行く事を、望んでいる。

 その事実に頭が真っ白になった俺は、すぐにレンをソイ殿から引き離した。

 嫌だ、嫌だ、嫌だ!!

 レンは俺の婚約者だ、誰にも渡さない!!

 それだけが頭の中をぐるぐると回り、俺はベッドの上でレンを強く強く抱き締める。

 そんな俺に抵抗せず、大人しくされるがままになってくれている上に、俺の背中に手を回し、労るようにそれを撫でてくれるレンに、自分にもまだ望みはあるのだと感じられて、俺は次第に落ち着きを取り戻していった。

 ……とりあえず、ソイ殿に関してはもう、妨害程度では駄目だ。

 交流の徹底阻止、それしかない。

 レン、ごめん。

 俺は君を、手離したくない。

最終話は本日18時に投稿されます。

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