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後編

本日12時と15時に投稿された前編、中編を読まれていない方はそちらからお読み下さい。

 邪王との最終決戦には、私は連れては行かれなかった。

 戦えもせず回復魔法も使えない私は戦闘では完全なる足手まといだから仕方がない。

 邪王の居城から最も近い小さな村で、皆の無事を祈りただ待ち続ける。

 それは日数にすればたったの三日だったけれど、私にはとてつもなく長い時間に感じられた。

 満身創痍ながらも、全員が五体満足で帰って来てくれたのを目にした時には、心底ホッとして、それまで抑えていた不安とか心配か恐怖といった様々な感情が渦となって爆発し、泣き崩れた。

 傷つき疲れはてているにも関わらず、そんな私を優しく抱きしめ頭を撫で続けてくれたユゼさんの腕の中で、もうこの人が生きて笑っていてくれるのならそれだけでいいと、そんなふうに思えて、どんなものでもユゼさんの選択を祝福しようと、心に決めた。


★  ☆  ★  ☆  ★


 さて、そう決心した私だが、現在とても困って、焦っている。

 今だにソイさんから、あの時の返事を聞けずにいるのだ。

 ユゼさんの選択次第では、ユゼさんの近くで生活するのは辛くなる。

 かといって、たった一人で誰からの支援もなく、この世界で生きて行く事には不安しかない。

 だからせめて、旅の間に少なからず仲間としての絆を持てた誰かの国に一緒に行って近くに住み新生活を開始したい。

 そしてそれは、できれば一番優しく面倒見のいいソイさんにお願いしたいのだけれど……ソイさんに返事を聞きに行こうと近づくと、何故かいつもいつの間にかユゼさんが隣に来て抱き上げられ、元いた場所に戻される。

 しかもその後はがっしりと手を握られ、離して貰えないのだ。

 一体何をしているのかを問おうと、ユゼさんを見上げ聞いてみても、なんだか迫力のある笑顔でにっこりと笑いかけられ、答えは貰えずスルーされる。

 何なんだろう……よくわからない。

 だけどいつまでもこのままではいられない、王都への帰還はもう間近なのだ。

 こうなればもう、ユゼさんの前だろうと返事を聞くしかない。

 ソイさんならきっとうまく答えてくれるだろう。


「あのっ、ソイさん! 以前の問いの返事を聞きたいんですけど!」

「! レン!?」

「……ああ、あれか。その事ならば断る。うちの国に観光に来たいのなら、俺に頼むのではなく、ユーゼルに連れて来て貰うといい」

「えっ、こ、断る……!? そんなぁっ」

「へ? か、観光……? ……レン、ソイ殿の国に観光に行きたかったの? 連れて行って、って、そういう意味……!?」

「……誤解は解けたか、ユーゼル」

「! は、はい……。うわ、俺てっきり……! は、恥ずかしい……!! けどっ、それなら本当に、ソイ殿じゃなく俺に言ってよレン! よその国を観光したいんなら、俺がいくらでも連れて行くのに!!」

「え? あ、いや、ええと……」

「まずはソイ殿の国に行きたいの? なら、新婚旅行はそこにしようか。あ、でもその前に結婚式を挙げないとね。……ああ、レンの花嫁姿、可愛いだろうなぁ」

「え? し、新婚旅行? 結婚式……? ユ、ユゼさん、私と結婚するの?」

「うん? 勿論だよ。当たり前だろう? 俺が結婚する相手なんて、レン以外いるわけないじゃないか」

「え……で、でも、だって」


 ミーフィヤさんは?

 そう続けようとした言葉を、私はなんとか飲み込んだ。

 一瞬ちらりと伺い見たミーフィヤさんが、とても悲しげな微笑みをたたえていたのだ。

 その表情に、これ以上の問いを発してはならない気がした。

 彼女は私にとって恋敵だけれど、これまで共に旅してきた仲間でもある。

 安易に傷つけるような行為は避けたいと思うくらいの情は持っているのだ。


「……あの、私今日は、先に休みますね。おやすみなさい」


 私が口をつぐむと、ミーフィヤさんはふとこちらを見て、でもすぐに視線を反らし、そう言ってテントへと消えて行った。

 メンバーはそれを静かに見送る。


「……さて、レン。王都に帰ったら、色々進めないとね。式の日取りとか、住む場所とか」


 少しの間のあと、そう言って沈黙を破ったのは、ユゼさんだった。

 私の顔を覗き込むように視線を合わせ、更に続ける。


「今後の俺の職は近衛騎士になるだろうし、たとえ女性の護衛だろうときちんと務められるように女性恐怖症のほうも克服すべく頑張ってきたから、レンに苦労はさせないからね? 何も心配せず、俺のお嫁さんになりにおいで」

「! 克服って、じゃあその為に……? ユ、ユゼさん……っ! ご、ごめんね、ありがとう……!!」

「うん? どういたしまして。幸せにするからね、レン」

「うん……! 私も、ユゼさんを幸せにするよ……!!」

「……ごほんっ!!」

「「 !! 」」

「はは……二人とも、それ以上は、夜営じゃない日に、二人きりの部屋でやってね?」

「ミーフィヤは寝たが、まだ俺達がいる事を忘れるなよな」

「時と場所を考えるように!」

「あ……ぅ、ご、ごめんなさい……!!!」

「……。……レン、ちょっとそこまで散歩に行こうか? 二人で」

「え?」

「さ、おいで。……皆さんはどうぞ、先に寝てて下さいね」

「え? え? ちょっ、ユゼさん……!?」


 私はどうやら、今までのやり取りのどこかで、ユゼさんのスイッチを押してしまったらしい。

 散歩に出た先で、私はユゼさんに……ほんの少し、味見をされてしまった。

 最後に耳元で、『完食するのは、結婚後まで我慢するからね』と囁いたユゼさんの顔はその時初めて見るもので……ユゼさんにはまだ、私の知らない一面がある事を思い知った一夜だった。


 そうして、私達は王都に凱旋を果たし。

 その半年後、私は晴れて、ユゼさんの奥さんになったのだった。

捕捉としてユゼ視点……いるかなぁ?

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