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中編

本日12時に投稿された前編を読まれていない方はそちらからお読み下さい。

 聖槍の勇者は、ソイさん。

 聖弓の勇者は、キュゼウさん。

 聖杖の勇者は、ジョーイさん。

 聖斧の勇者は、ノインさん。

 そして聖剣の勇者はユゼさんことユーゼルさん。

 戦闘においては全員が攻撃を担う武闘派で、回復などを担う人はいないらしい。

 聖杖の勇者であるジョーイさんですら、支援魔法は若干使えるものの、得意なのは攻撃魔法で、回復魔法は一切使えないらしい。

 うん、バランス悪い。

 私も旅について行くとはいえ、戦闘に関しては何もできない。

 私の役目は夜営する際の食事を作る事と、街や村に寄った時の買い出し、雑用だ。

 なので、旅に出て早々に回復役をパーティーに加える事になった。

 加わったのは、大きな神殿にいた、清楚で可憐な巫女、ミーフィヤさん。

 このミーフィヤさんは、ユゼさんの女性恐怖症を知り、その原因となった事柄を聞くと、ユゼさんにひどく同情し、『さぞご不自由な事でしょう。この旅の間に女性恐怖症を治しましょう。私もお手伝い致します』と言って、決して荒療治はせず、ゆっくりとユゼさんを女性に慣らすべく行動していった。

 ミーフィヤさんに悪意はなく、純粋にユゼさんを気遣う心からの行為だったせいかユゼさんも拒めず、最初こそ近づけば悲鳴をあげて私の後ろに隠れたユゼさんも、次第にミーフィヤさんに打ち解けていった。

 今では親しげに話をする仲になっている。

 ここで問題なのは、この世界の神殿の巫女さんは神様に仕える乙女だから結婚はしないという訳ではなく、普通に婚姻が可能であるという点だ。

 ミーフィヤさんは清楚な美人で、家庭的な人でもある。

 料理も上手で、夜営時の食事は私と二人で作る事になったのだけど、ミーフィヤさんが作ったものはすぐになくなり、私が作ったものは最後まで残る。

 捨てるのはもったいないという理由からか、食べ残されるという事はないのだけれど……このパーティーでの私の存在価値を、どうしても懸念してしまう。

 それに……と、夕飯の後片づけをしながら、横目でちらりとユゼさんを見た。

 その隣にはミーフィヤさんがいて、二人で楽しそうに談笑している。

 二人の笑い声を聞くと、気分はどんどん下降していく。

 二人の姿は、仲のいい恋人同士のように見えるのだ。

 ……ねぇ、ユゼさん、私はどうしたらいい……?

 貴方がこのままミーフィヤさんと仲を深めて、やがて結婚したいと思うようになったら、私は……。

 あのお城にいた頃はユゼさんは他の女性が近づけば逃げて来たから、ユゼさんが誰か他の人と恋仲になった場合の事なんて、考える必要はなかった。

 でも、今は……。

 ユゼさんの結婚相手としてこの世界に遣わされ、ユゼさんの婚約者としてお城に置いて貰えてた私に、その名目がなくなったら。

 不必要な存在となった私は、この世界で、どうなるんだろう。

 王様達に謝られた時、『元の世界には返せないから勇者ユーゼルと仲を深めて欲しい』とも言われて、重ねて謝られている私は、今後、どうしたらいいのか……。

 わからない……わからないよ、ユゼさん……。


「……今日は時間がかかってるな。旅の疲れでも出たか? 手伝おう」

「えっ。あっ……ソ、ソイさん。い、いえ、これは、私の仕事ですから! ソイさんこそ、疲れてるでしょう?」

「これくらいの手伝いをするぐらいの体力は残っている。気にせずに甘えておけ」


 ソイさんはそう言うと、俯いて手を止めていた私からお皿を奪って洗い始める。

 それを見て、私はいよいよ慌て出した。


「い、いえ、そういうわけには! これは私が担える、数少ない仕事ですからっ! それさえなくなったら、私は、本当にいらなくなっちゃ」

「!」

「! あっ……!!」


 うっかり口に出してしまった言葉に、私は慌てて口を押さえる。

 けれどそれは既に遅く、ソイさんは目を見開いて私を見ていた。


「……最近どこか元気がなかったが、ずっとそれを気にしていたのか?」

「っ! い、いえ、あのっ……そ、ういう、わけじゃ……」

「……。……ミーフィヤとユーゼルの距離が近くなっているからな。婚約者としては気が気でないんだろうが……。俺達は、お前がいて助かっている。不要な存在などには決してならん。だからその心配だけは、しなくていい。その点は安心しろ、レン」


 『大丈夫だ』とソイさんは繰り返しそう言って、ぽん、ぽん、と優しく私の頭を撫でてくれた。

 その優しさに、近頃張り積めていた心が緩み、涙腺が決壊する。

 けれど他の皆に泣いている姿を見せて余計な心配をさせる訳にはいかないと、涙を止められないながらも、私は必死に声を押し殺す。

 そんな私に、ソイさんは何も言わず優しく頭を撫で続けていてくれたけれど、ふいに、突然腕を強く後ろに引かれて体が傾ぎ、その手が離れる。

 背中が固く温かい何かに触れ、お腹に何かが回った。


「どうして泣いてるんだ、レン? 何かあったのか? ……相談事があるなら、俺も聞くよ?」

「! ユゼさ……ん?」


 優しげな声に背後を見上げれば、いつの間に来たのか、私はユゼさんに後ろからホールドされていた。

 私に話しかけたユゼさんだったが、その目は何故かソイさんを鋭く見つめている。

 初めて見る表情に首を傾げた私だったが、すぐにハッとしてユゼさんのホールドから抜け出し、手を広げソイさんを背に庇った。


「ち、違うのユゼさん! 泣いてたのは別に、ソイさんに何かされたとかじゃなくて! えっと……そう、ゴミ! 目にゴミが入ってね! ソイさんはそれを取ってくれてただけなの!」

「へぇ……目にゴミ、ね。なら、俺が取るよ。レンが世話になったね、ソイ殿。ありがとう」

「えっ? あ、いや、あの」

「……ゴミなら、もう取れた。だからその必要はない。そうだな、レン?」

「あっ、は、はい! そうなんだよユゼさん! だから、もう大丈夫だから!」

「……。……そう。なら良かった。レン、後片づけ、まだなんだね? 俺が手伝うよ」

「え?」

「ソイ殿、そのお皿、貰うよ。後は俺が手伝うから、向こうで休むといいよ」

「……。……そうか、ではそうさせて貰おう」

「え、あれ……? あっ! ソイさん、あの、ありがとうございました!」

「ああ。……だがどうやら、余計なお世話だったようだがな」

「えっ……?」

「レーン? ほら、早く片付け、終わらせよう?」

「え、あっ、うん……?」


 あれ?

 そういえば、ユゼさん、ミーフィヤさんとの交流はいいのかな?

 いつの間にか終わったの?

 そう思って背後を振り返ろうとしたら、『こらレン、よそ見しない』とユゼさんにその体で視界を塞がれた。

 よそ見って……? と首を傾げたところで、ミーフィヤさんが『私もお手伝い致します』と言って現れる。

 その事に、ああ、終わってなかったんだと確認した私は、二人が談笑しながら仲良く後片づけをする横で、一人お皿洗いに没頭した。

 少し離れた場所では、その様子を見たソイさんが肩を竦めて首を振り、他の三人の勇者達も、呆れたような目をして眺めていたのだった。


★  ☆  ★  ☆  ★


 最近、ユゼさんの様子がおかしい。

 何かと私の手伝いを申し出てくるのだ。

 食事の後片づけをしていれば手伝いに来るし、買い出しに行こうとすれば荷物持ちをするからとついて来る。

 その量がどんなに少なかろうと、必ずである。

 そしてそのほとんどに、ミーフィヤさんも加わるのだ。

 そういえばユゼさんはいつからか、ミーフィヤさんの手伝いの申し出を受ける際、『克服は今後の為に必要ですからね』と必ず口にするようになった。

 克服とは、女性恐怖症の事だろう。

 そんなにいちいち口にするほどそれを治したかったとは知らなかった。

 ミーフィヤさんとユゼさんが楽しそうに仲良く話すのは不安だけれど、ユゼさんがそんなに治したいなら仕方ない。

 私も協力する事にして、事あるごとにユゼさんを買い出し先のお店の女性店員さんに接するよう送り出す。

 ユゼさんは時折涙目で私を見たり、一度戻って来ては私の手を握りしめ一緒に連れて行ったりするが、克服しようと頑張っている。

 そしてそれが無事に終わるとユゼさんを労おうとするけれど、その役目はミーフィヤさんに奪われ続けてしまっていた。

 無理を強いるだけで労らない女だと、ユゼさんに思われていなければいいけれど……。

 それが原因で嫌われたらどうしよう……。

 ……最近、ふとした時にそんなネガティブな気持ちが顔を出してきて、なんだか段々、自分が弱い、駄目な女になっていっているような気がする。

 邪王の居城まではあと数日で辿り着くらしい。

 全てが終わった後、ユゼさんがどんな選択をしても生きていけるように、そろそろ覚悟を決めておかなければならないだろう。

 もしユゼさんにフラれたら、こんな弱い女のままではこの先この世界では生きていけない。

 私も、頑張らなくっちゃ。


「というわけでソイさん。帰還後、もし私に居場所がなくなったら、一緒に貴方の国に連れて行ってくれませんか? フラれた後もユゼさんの近くで生活するのは、辛いですし」

「……。……その心配はないのではないか」

「えっ?」

「いや。だが何故俺に言う? 他の勇者でも良いだろうに?」

「ああ、はい。それはそうなんですけど……でも、ソイさんが一番承諾してくれそうですから! ソイさん、いつもさりげなく周囲の人を気遣ってる優しい人ですし。ソイさんに断れたら、次はジョーイさんの所に行きますよ」

「……なるほど。順当だな。よく見ている」

「えへ。……それで、どうでしょうソイさん? 私を、ソイさんの国に連れて行ってくれますか?」

「……。……そうだな、もし万一」

「レンッ!!」

「! ……ああ、タイミングの悪い……」

「え? ……わっ!?」

「レン、急いで手伝って欲しい事があるんだ! ほら、早く来て!!」

「え、え? ユ、ユゼさん!? ちょっ、痛いよ、引っ張らないで! 手伝う、手伝うから!!」

「ふぅ。……ユーゼル、誤解だ。そう怒ってやるな」

「へ? ソイさん? 誤解って何」

「レン!!」

「ふぇっ!?」


 よほど急いでいるのか、ユゼさんは有無を言わせず私を抱き上げ、足早にその場から離れてしまった。

 けれど辿り着きおろされた宿屋のユゼさんの部屋では、私はベッドで横になったユゼさんにぎゅうぎゅうと抱きつかれ、抱き枕にされただけで……。

 ……手伝って欲しい事って、これ?

 あんなに急いでたのは、それだけ眠かったって事なのかな?

 ユゼさん、そんなに疲れてたのかな……。

 疑問が頭を占めながらも、ミーフィヤさんじゃなく自分を添い寝の抱き枕に選んでくれたその事実が嬉しくて、私はそのまま大人しく目を閉じ、身を任せたのだった。

後編は18時に投稿されます。

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