目覚める最強~中編
「ちょっとまずいわね・・・」
ファラエルは困っていた。堕天使ベルゼブブと戦っているのだが予想外に強かったためだ。ベルゼブブは初代天使長ミカエルの時代から生きている古代堕天使の一人、戦うのも会うのも今回が初めて。
今世の天使達は全体的に弱く、熾天使であっても古代の能天使程度でしかない。一方ベルゼブブは堕天前の階級が智天使だったため力量差がありすぎた。
しかし、ベルゼブブは脳筋タイプであるため頭脳派の相手とは相性が悪い。ファラエルは一見能筋に見えるが一応は頭脳派だ。冷静に対処していけば勝てずとも相手に痛手を負わせることは可能なのだが・・・
「どうしてこっちの攻撃が当たらないの!まるで先読みされてるみたいにすべて避けられるのは何で!?」
「何故かはわからないけど先読みされてるってことには私も同感・・・このままじゃ負ける!」
「・・・俺が今世の貴様等にどう伝わってるかは知らねぇが相手の太刀筋なんかを先読みしながら戦うなんざぁ当たり前の事だろうがよ!少しばかり頭がいいからって調子に乗ってんと痛い目を見るのは当たり前の事だろうな!そもそも潜り抜けてきた場数がちげぇんだよ!!」
ファラエルとラウエルが押されている理由、それはやはり場数だった。数える事すら億劫になるほどの圧倒的な数の戦いの中でベルゼブブ力をつけた。対して、ほとんどの時間を部屋に閉じこもり内職に就いている二人はベルゼブブに比べて致命的なまでに少ない。
「チッ・・・こうなったら意地でも一太刀入れてやらなきゃ気が済まない!」
「そうね・・・舐められたままじゃ終われない!」
「さっきの大天使と同じだな!威勢だけは認めてやるがそれ相応の力が備わってなけりゃぁ負け犬の遠吠えだぜ!そうじゃねぇって言うんだったら見せてみな!貴様等の力をな!!」
ベルゼブブの声を合図に再度ぶつかり合う両者。ベルゼブブが放つ上段からの重い一撃、それをラウエルが受け止め横からファラエルが腹部に切り込む。二人の連携はとてもよく、一切の無駄がない。
それを難なくかわしたベルゼブブは一気に間合いを詰め、ラウエルを力任せに蹴り後方に10メートル程飛ばす。
それと同時にファラエルの背後に移動した。
(しまッ!)
気付いた時にはベルゼブブの蹴りが腹部を直撃しラウエルの方に飛ばされた。
「うッ!」
蹴り飛ばされた二人は痛みに耐えながらも素早く立て直す・・・が少し遅かった。
「最後まで戦意を失わなかった事を褒めてやるぜ。その勇ましさに敬意を賞してとっておきの技を見せてやるよ」
「「ッ!」」
二人は絶句したまま動かない、動けないと言った方が正しいか。あまりにも強大な力がベルゼブブから放たれているために身体が硬直し動くことができないのだ。
「¥#*?%*$#%¥&!#%*$#¥&*%&#¥%」
ベルゼブブが何を言っているのか、その言葉は何を意味するのか、二人には理解できなかった。その言葉は古に使われていた古代語、それは分かるものの意味や何を言っているのかはわからない。
二人だけではなく遠巻きに戦いの様子を見ている各階級の天使達も、魔族達もわからない。そして・・・
「ガッ!!」
「グァッ!!」
突如襲った激痛と強い衝撃により数十メートル吹き飛ばされた二人。あまりの激痛に意識が飛びそうになるが、そこは強い精神で何とか耐える。
しかし身体はピクリとも動かない。ただ意識があるだけではもはや何もできない。更に吹き飛ばされた場所は自分等を信じて見守っていた天使達がいる場所。
「天使長様!!ラウエル様!!」
「ウソ・・・天使長様達が負けたの?・・・」
「こ、このままじゃ天界は滅びてしまう!!なのに何故私の身体は動かないのですか!?」
「我等が神よ!その寛大なお心で我等を守護しお守りください!どうか!!」
二人が負けたっ事により各階級の天使達が混乱している。
「こんなところで死ねないのに何で身体は動かないの!」
「お、恐らく受けたダメージが大きすぎた為、一時的に神経回路が遮断されたんだと思う・・・これで私達も終わりね」
「何のんきなこと言ってんのよ!!」
「だって・・・」
受けたダメージで動かない身体を必死で動かそうともがくファラエル、ラウエルはベルゼブブが圧倒的過ぎたためか瞳には精気が無い。
「ここで終わりだな!よく頑張ったと褒めてやるよ!」
いつの間にかすぐそこまで来ていたベルゼブブは勝利を確信したような顔で言い放つ。
「貴様等は強いとは思うが相手が悪かったな!今世の天使共が古より生きてる俺を倒すなんざ無理な話だ!だが俺相手にここまで抗った褒美として苦痛なき死を与えてやるよ!!アッハハハハ!」
ファラエル達に手をかざすベルゼブブ。するとその手に力が集まってきた。放たれれば天使はもちろん、ファラエル達も一瞬で消し飛ばせるだろう。
逃げ出す者、生を諦める者、ブツブツとつぶやくもの、泣き叫ぶ者、自害しようとする者、その光景を見た天使達は様々な行動をする中、一人の天使は壊れたようにブツブツと言っている。
そして、とある古代語を口走った。それはある聖書に書かれていた言葉。もちろん意味など分からないが死を間近にして言わずにはいられなかった。
気休め程度にしかならないと思いながらつぶやいた古代語。それは目覚めの呪文だった。
「¥%#&*#&¥$%=¥~^_@’・;‘¥%$*」
その数秒後異変は起こった。突然大地が激しく揺れ始める。
「!何が起こってるってんだ!?」
「ここまで大規模な揺れなんて今までなかったわ!?一体どうなってるの!」
「・・・なんか怒っているようにも思えるし喜んでるようにも思える。どうなってるの?」
上からベルゼブブ、ファラエル、ラウエルといった感じでしゃべっている。他の天使(唱えた天使も含め)達も何が起こっているのかわからずパニックになっていた。
そして
ーーガシャンッ!ーー
”誰か”を模様して作られた巨大な像が崩れ落ちる。
「なっ!!」
崩れ落ちた像の位置に見た目が人間にしか見えない一人の女が目を瞑って立っていた。その女を見た直後、ベルゼブブは驚きの声をあげ固まってしまった。
「?」
「・・・誰?」
「「「??」」」
ファラエル、ラウエル、他の天使達はいつの間にか立っていた女が誰なのかわからなかった。大地が揺れ、像が倒れたその直後に立っていたため何か関係があるのだろうとは理解している物のその素性までは分からない。いつからか目を覚ましていたアリエルも頭に疑問符が浮かんでいる。
ベルゼブブは固まったままだったがその顔は喜びと畏怖が合わさったようなよくわからない顔をしている。
「・・・んっ」
女はゆっくりと目を開け、まだぼやけているであろう目で周りを見渡す。
「・・・ちょっと、早すぎだ」
小さな声でつぶやく女。天使達は誰なのかわからずにただ眺めていた。誰も知るはずがない女の正体、彼女こそがミカエルだということを・・・。
「・・・ふ、フハハハハハハハハ!アッハハハハハハハハ!!ま、まさか貴女様がお目覚めになられるなんて予想外だぜ!」
「・・・そう、か。・・・・お前も堕天してしまったんだな・・・私の甘さが招いた結果とはいえ、辛い現実だ」
突然笑い出したかと思えば何やら顔見知りだったかのように話す二人に対して天使達は”あの女は堕天使ベルゼブブの仲間なのでは?”と思ってしまった。実際は違うのだが今のこの状況ではそう思うほかなかった。それはファラエルとラウエルも同じことだった。
「貴女様には感謝しているぜ!今の俺があるのは貴女様のおかげなんだからよぉ!最強と詠われた元天使長、熾天使のミカエル様よぉ!!」
二人を除くその場にいた全員が絶句した。”今立っている人間にしか見えない女がミカエル様だというのか”それに答える者は誰一人としていなかった。
溜まってるよぉ
仕事疲れたぁ~