骨だけの傘・2
肝試しから三日後、健司はそわそわとしながら夏休みを送っていた。
と言うのも、あの儀式を行っていたのがバレてしまったのではないかと思っていたからだ。あのときの人影が一体、何者であったのかはわからない。しかし、もし人間なのだとしたら、自分たちがやっていたことが学校に露見したことになる。いや、人間に決まっている。だからこそ、こんな悶々としなければならないのだ。
あれだけ距離が空いていれば顔も見えないだろうが、心配は心配だ。
もしかしたら、親に連絡が行くのではないか、つまり健司はそういう心配をしているのである。
戦々恐々としながら二日三日と日が経つが、学校からの連絡は一週間経っても来なかった。
健司は、なんだ、やはり考え過ぎがと安心した。そうなればあの人影が幽霊だと認めることになりそうだが、まあそれでも怒られるよりはましである。
しかし、夏休みも半ばに入りかかったある日、健司の携帯電話に陽太郎から着信が入った。
通話ボタンを押すと、陽太郎は開口一番、「大変だ」と口にした。
なにやら慌てている様子である。かなり焦っているようで、その焦りが健司にも伝播しそうなくらいだ。とにかく「落ち着け」と宥める。
陽太郎は「そうだな」と言い、大きく息を吐いた。
そして、何度か深呼吸を繰り返して、陽太郎は告げた。
「翔司が首の骨を折ったって」
一瞬なにを言われているのかわからなかったが、何度も陽太郎の言葉を頭の中で反芻するうちに状況が飲み込めた。
「だ、大丈夫なのかよ、翔司は」
「わからん。さっき母さんから聞いたばかりだから」
聞けばどうやら、陽太郎の母は、所属している母親同士のコミュニティからその情報を得たらしい。
「これってやっぱり傘の呪いなのかな?」
震える声で陽太郎が囁く。
「そんなわけないだろ。偶然に決まってる」
そこは強く否定しておかなくてはならない。陽太郎にも自分にも言い聞かせなければならない。そうでなけれいらぬ混乱を招くことになる。
健司だって、もしかしたらあの儀式を行った所為でこんなことになったのではないかと考えはした。しかし、そんな考えを否定するのが彼のグループ内での立場である。怖くても、言うべきは言わなければならない。健司は、すっかり呪いに怯えている自分を恥じながらも強いて冷静になろうとした。
とにかく、大丈夫だからと陽太郎に言い聞かせて、電話を切った。
その日、健司は眠れぬ夜を過ごした。
どこからか幽霊が呪いを運んでくるのではないかと本気で思っていた。陽太郎に対しては、あくまでいつものスタンスを貫いたが、内心では呪いの存在を信じ始めている健司である。
タオルケットの中に潜る。
しかし、タオルケットの中もまた暗闇で、その暗闇からぬっと手が伸びてくるような妄想に取り憑かれる。
慌てて布団から顔を出し、なにも見ないようにぎゅっと目を閉じた。目を閉じても他の感覚までは遮断できない。耳元でなにかが囁かないだろうか、タオルケットの中の暗闇から手を掴まれはしないだろうか。そもそもタオルケットでは重量感がなくて心許ない。
ぐるぐると嫌な想像ばかりが健司を襲う。
けれど、いつしか意識は微睡みの中に沈んでいく。目が重くなってきたとき、健司は心底安堵した。