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はじめに

 この話は、今年、私が取材へ行った際に掴んだものだ。取材とは言っても、イベントのようなもので、小学五年生の子供たちに自分のとっておきの怪談、あるいは自分の周りで流行っている都市伝説(都市伝説と言っても、怪談寄りのもの)を語ってもらい、そのお礼に私も怖い話をするという、まあ、言ってしまえば百物語みたいなことを子供たちとしてきたのだ。

 昨今は怪談ブームが過ぎ去り、テレビでホラー番組が放映されることもめっきり減った。それどころか、ホラーゲームのCMでさえも見かけることがなくってしまっている。だから、私は、もう子供たちの間で怪談が語られることもなくなってしまったのかな、と少し寂しい気持ちになったものだ。

 しかし、今年の六月頃、『チャーリーゲーム』というこっくりさんの亜種が中高生の間で流行っているという旨の記事をネットで見かけた。そのときの私の心の踊り様と言ったら、不謹慎極まりないほどだった。実際、こっくりさんのときと同じように、生徒が集団パニックを起こしたという記事も見つけたので、やはり不謹慎だったのだと思う。

 ともあれ、『チャーリーゲーム』を知ったことで、「怪談は終わっていない」と私は思い改めた。

 そこで一つ、小学校に取材を敢行しようと思い至ったのだ。

 とは言え、最近は昔以上に学校の守りが堅いものとなっていて、ほとんどの小学校に門前払いを喰らってしまい、アポさえも取れない状況だった。

 そこで私は地元に目をつけた。つまり、私が卒業した地元の小学校へ依頼してみることにしたのだ。

 電話してみると、意外なほどあっさり、私が小学校のOBだと明かすまでもなくアポイントメントを取ることに成功した。しかし、流石に小学校内での取材は難しいようで、近くの児童会館へ話を通してみるとのことだった。

 数日後、児童会館から直々に連絡が入り、「怪談の会」を仕切ってほしいと頼まれた。なんだかとても上手く手を回していただいたようで、申し訳ない想いもあった。しかし、こんなチャンスは二度とあるものではない。私は二つ返事で引き受けた。

 さて、そして当日、私は児童会館の図書室で子供たちに挨拶と「怪談の会」の趣旨の説明をした。図書室は、冷房を利かせ、カーテンを閉め、おどろおどろしくも可愛らしい演出がなされていた。子供たちのドキドキがこちらに伝わってきて思わず嬉しくなったのを覚えている。

 「怪談の会」のルールは百物語と同じである。一人一話ずつ話しては次の人へバトンタッチしていくというものだ。

 最初は私から。私はひきこさんの話をしてみた。どうやら、子供たちはひきこさんを知らなかったようで、怖がりながらも楽しんでいる様子だった。まったく語り手冥利に尽きる。

 そして、私の次は翔子(仮名)ちゃんの番だった。彼女は自分のお婆ちゃんの家で起こった怪現象について語ってくれた。

 翔子ちゃんの番が終わり、大輔(仮名)くん、陽太郎(仮名)くん、真奈(仮名)ちゃんとみんなそれぞれ面白い怪談話を語ってくれた。やはり、怪談は死んでいなかった。陽太郎くんなどは明らかに話し慣れていて、この手の話が好きなのだろうというのを伺わせた。

 そして、最後は健司(仮名)くんだ。

 健司くんは、しばらく逡巡していたが、大輔くんに急かされて、意を決したようにして話しだした。

「骨だけの傘の話なんだけど」

 健司くんが眉をひそめながら口にした。聞いたことのない話に、私は思わず身を乗り出しそうになった。

 が、健司くんが話そうとすると、陽太郎くんが慌てたように止めたのだ。

「その話はいいじゃん」

 と。

 話を遮られてさぞ不愉快に思っているだろうと、健司くんを見たが、彼は罰が悪そうに俯いて、決して不愉快と思っているばかりではないことが伺えた。

 そんな彼を見て、他の子供たちも皆、口々に健司くんを宥めにかかる。みんな、意地悪で言っているのではないようだった。男の子も女の子も、健司くんを諭しているように私の目には映った。

 私はみんなに事情を訊いてみることにした。どうして健司くんに話をさせてあげないのか、と。するとみんなは私を置いて、目線で会話を始めたようだった。

「その話は有名だから。今更する必要なんてないよ」

 大輔くんが言う。健司くん以外の子たちは一様に、大輔くんに賛同した。

「お兄さんはその話、聞いてみたいな」

 と言ってみるが反応は芳しいものではなかった。それどころか「お兄さんって言うか、おじさんっぽいよ?」と翔子ちゃんに茶化されてしまった。彼女はくすくすと笑う。私はこの手の冗談には弱く「酷いなあ」と苦笑しつつも流されてしまいまった。翔子ちゃんが如才ないのか、私が抜けているのかはわからないが、これで場の流れが子供たちに傾いたのは確かだった。健司くんがつられて笑っていたことからも、それは明らかだった。

 ひとしきり笑うと、健司くんは「わかった。他のにする」と言って、自分の住んでいるマンションに関する怖い話をした。

 私はそこでようやく、やられたと思った。人間、一度口を噤んでしまうと意識して対象となる話をしなくなる。予想通り、その後「骨だけの傘」が語られることはなかった。

 その後、何周かして「怪談の会」はお開きとなった。

 成果は上々だっただろう。子供たちからは面白い話をたくさん聞くことができたのである。しかし、私はどこか食べたりないような心持ちだった。もちろんそれは、子供たちが禁忌とした、「骨だけの傘」が気になってのことだ。

 なぜ彼らが語りたがらないのか。

 気になって気になって仕方がない。

 そこで私は思い切って、直接訊いてみることにした。

 ターゲットは健司くん。彼は、仲間内でタブー視されていることを知りながら、「骨だけの傘」を披露しようとした。そこには大人に対する期待が込められているような気がしたのである。子供たちの反応を見るに「骨だけの傘」は本当にあった怖い話の類いだろう。彼らはなにか不可解なことを体験した。それは不思議なだけでなく、恐ろしいものだった。だからその不可解を少しでも解消すべく、外から来た大人である私の意見を仰ごうと思ったのではないだろうか。

 職員の方への挨拶を済ませると、私はさっそく健司くんを探した。しかし、どこにも見当たらない。まだ午後の二時である。門限にはまだまだ猶予があるはずなのだが。それとも、塾や習い事が入っていたのだろうか。私も子供の頃は平日休日の別なく、塾に通っていた身だから、そう合点するのに時間は必要なかった。

 諦めて日を改めよう。私は不満ながらも児童会館の敷地内からでた。すると、児童会館の敷地の出入り口に、件の少年、健司くんが門の前でしゃがみ込んでいるのを見つけた。これは僥倖と声をかけた。

 健司くんは少し驚きながら立ち上がった。そして、私が切り出すよりも先に、こう言った。

「さっきの怖い話なんだけど」

 どうやらその日の私はついていたようである。あちらから話してくれるというのなら、これほど楽なことはない。

「骨だけの傘のこと?」

 単刀直入に訊くと、健司くんは「うん」と頷いた。

「みんなに止められていたけど、どういう話なのかな?」

 余所向きの笑顔を作って私は訊いた。

 健司くんはやはりためらいがちにしていたが話すと決心したような表情を見せると特に憚ることなく口を開いた。

 今回お話しするのはこのとき、彼から聞いたものである。小説に直すにあたって、多少の脚色はあるが、話の筋はそのまま、健司くんから伝え聞いたものを使わせてもらった。

 視点は三人称。短い物語ではあるが、お付き合いのほどをよろしくお願いしたい。なお、この物語を読んだ方の身になにか起こっても、著者は責任を負いかねる。その辺りはどうか留意してほしい。


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