Episode30 傷つけるキモチ
あの時から、こうなることは知っていたのかもしれません。
避けようのない運命だったのに、頑に目を逸らしていただけ。
こんな私を先輩は許してくれるでしょうか。きっと、許してくれないでしょう。諦められないからと、あのようなことをした私は、先輩を好きだと言う資格すらも失ったのかもしれません。
それでも私は先輩が欲しかったんです。
どうしても失いたくなかったんです。
その願いが叶わないというのなら。
その気持ちが先輩を傷つけるというのなら。
私は先輩の前から、永遠に消えてしまいましょう。
北風が肌を刺します。鼠色の空が屋上に立つ私を静かに見下ろしていました。
高校の屋上を選んだのは、この学校が先輩と私の思い出が詰まった場所だから。そんな優しい思い出を抱いたまま、私は消えてしまいたい。そうすれば私はきっと幸せになれます。
先輩は私のために泣いてくれるでしょうか。ほんの少しでも涙を流してくれたのなら、私はそれだけで救われるような気がするんです。私が生きていたってことを先輩の記憶に刻みつけることができれば、私は永遠に先輩と一緒にいられますから。
だけど、何故でしょうか。勇気が出ないんです。
ほんの一歩。ほんの一歩踏み出すだけなのに、その一歩がどうしても踏み出せません。
まだ諦めきれていないのでしょうか。
私にはどうすることもできません。先輩は私のものにはなりません。どれだけ望んでも、どれだけ壊しても、どれだけ繋ぎ止めても、先輩が私を選んでくれることはもうありません。
諦めるしかないって分かっているはずなのに。こうするしかないって分かっているはずなのに。
どうして一歩が踏み出せないのでしょう。
両足が震えます。高さに目が眩んで、フェンスに寄り掛かります。
下に落ちてから死ぬまでにどれくらいかかるでしょう。すぐに楽になれたら嬉しいです。でも、もし簡単に死ねなかったら。想像すらつかない苦痛を味わいながら、迫り来る死の恐怖に私は耐えられるでしょうか。そんなこと、考えたくはありませんけど。
勇気を絞り出して、震える足で立ち上がります。
フェンスに片手をついて、地上のアスファルトを睨みつけました。
そろそろ時間です。行かないと。
「なにをやってるの!?」
その瞬間、聞き慣れたあの声が。
聞こえる筈の無いあの声が。