Episode3 涙のキモチ
『告白した方がいいのかな』
ベッドの上で受け取ったそのメールを見て、思考が完全に停止してから既に三十分が経過していた。
あぁ、いや勿論分かっていた。好きな人には告白したいと思うのが普通だろう。何もおかしい事は無い。
ただ、もしここで明美が告白したら、二人は「確実に」付き合う事になる。そんな当然の事実に頭が真っ白になる。
取られる、楓に明美が取られてしまう。
気が狂う程の嫉妬。自分が想像した触れ合い、キスをする二人の姿をずたずたに引き裂く。耐えられない耐えられない、そんな事絶対にあってはならない。
親友として二人を応援したい。そんなの、ただの建て前だ。自分にそう思い込ませたいだけだ。
いつものように底抜けに明るいように、頼ってもらえるように振る舞って、そっちの方が数倍楽だから。
でも、私に何が出来る?
二人はお互いに愛し合っている。これは紛れもない事実だ。もうこれは変えようが無い。
なら、どうすればいい。
どす黒い感情の矛先は、他でも無い楓に向いていた。
そう、楓さえいなければ。
「……え?」
今、私は何を考えていた?
酷く恐ろしい事を考えていた。親友に対してこんな事を思うだなんて、最低だ。
「あ、ああ……」
頭を抱えて、膝から崩れ落ちる。何度も何度も楓に対する謝罪を心の中で呟いた。私は知らない内に最低な人間になってしまったようだ。表では二人に協力するなんて言っておきながら、心の中では応援する気なんてさらさら無い。寧ろ、上手く行かないことを望んでいるのだ。
私は最低だ、最低だ、最低だ。
ぽたぽたと床に涙が落ちた。何度も親友二人に謝って、悩んで、考えて。
告白した方がいいかなんて、私に訊かないでよ。
今もし、ここで告白するなと言って私の気持ちを明美に全て打ち明けたところで、私がフラれて終わりだ。仲が気まずくなる可能性だってある。
でも、もしここで背中を押せば、私は二人の「親友」としていつまでも居られる。
自分の気持ちか、親友としてのポジションか。
そんなの、
『もちろん! 自分の気持ちは、伝えなくちゃ伝わんないぞ!』
私は、ずっと二人と親友で居たかった。激しい嫉妬、どす黒い感情を必死で必死で隠して、なんとか表に出さないようにする。
どうか、こんな最低な私をずっと二人の親友でいさせて下さい。
だから、送信ボタンを押した。