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Episode28 滴るキモチ
鈴音は何の躊躇いもなく、それを口にした。
佳子は感情の見えない表情で床に座り込み、明美は俯いて立ち尽くしている。鈴音だけが不気味なほどに冷笑を浮かべて、この状況を楽しんでいるようにすら見えた。
「明美先輩は残酷ですよね。自分のことが好きな親友相手に恋愛相談なんて。しかも付き合い始めたら見せつけるようにいちゃいちゃして」
鈴音は何がしたいんだ。佳子の気持ちを勝手に伝えてしまって。それは佳子が自分で伝えなくちゃ、意味がなくなってしまうのに。
怒りと震えが全身から湧き上がってくる。でも明美に止められてしまうだろう。だから明美が何か言葉を発するまでは、それを抑え込む。手の平に爪が食い込んで、生温かい感触が指の隙間から滴った。
「…………そう、だったの?」
先に口を開いたのは明美だった。振り返って、佳子の前に腰を下ろす。湿布の貼られた両手を握って、優しい声色で尋ねた。
佳子は、何も答えない。
「……そっか」
それだけで明美は、表情を変えずに呟く。
「私……なんにも分かってなかったね。ごめんね」